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対立

 私の認める人だけの暮らす世界? スィは独裁者にでもなるつもりなのだろうか、いや、おそらく違う、そうすれば悲劇がなくなると信じているのだろう、彼女の眼差しに一点の曇りもなく、その実現を信じている。


「聞いて聞いてお姉さま、私の遠大な計画、長くなるから座って座って!」


 スィがそう命じると、いつの間に準備していたのやら、俺たちが集中していたから気が付かなかったのか、それとも、従者たちも特定の訓練を受けたもので、存在を気が付かせずにいたのか……待機していた者たちがツナやオニオン、サーモンなど色とりどりのサンドウィッチを乗せた皿と、薫り高い紅茶を俺たち、そしてスィたちに配膳していく。


 俺たちは促されるままに、座らせていただく、それまで警護にあたっていたホワイティンと指揮官殿も席に座る。代わりに従者たちがホワイティンと指揮官殿のいた位置にたち、警護とおかわりの担当にあたっている。


「さて、私はね。ずっと考えていたの、どうしてお父様のような残酷な男が生まれてしまうのか、世の中は戦争で満ちているのか、悲しい、悲しいよね」


 スィはその場にいるみんなの顔を見つめながら一人語る。


「そんな中で、幼いころにお姉さまが教えてくれたお話があったわ、世界喰らいのドラゴンのおとぎ話、それは世界を覆うような大きさの龍で、何もかもを超えていき、あらゆるものを、あらゆる思いを飲み込み、受け入れて世界を守る。だから、スィは何も心配することはない、予言も何からも守ってくれるって、でも、まだ世界喰らいのドラゴンはいないみたいで、私はこんなことになっちゃったし、争いも起こそうと思えばいくらでも起こせちゃう」


 スィは俯き、席に突っ伏すようにして落ち込みを表現する。


「でもね、それはおとぎ話のままだったからってホワイティンが教えてくれたの、本当は私たち姉妹が世界喰らいのドラゴンだっていうことを教えてくれたの! 私うれしかったなぁ、だって夢で見た世界が作れるんだってわかったんだもの」


 こいつは純粋だ、純粋に、子供なんだ、だけども…それだけにたちが悪い予感がする。


「でも、実現方法が難しいの、ドラゴンの騎士、いるんでしょ?」


 スィがツィと俺に向かって訪ねてくる。


「はい、姫様、しかるべき資格を持ったドラゴンの騎士及び、ドラゴンチューナーがないと姫様の精神に過負荷がかかり、姫様は理想を成せずに狂われてしまいます」


 ホワイティンが俺を見つめながら説明する。


「だから、ね、お願い、協力して」


 スィが俺に向かって頼み込んでくるが、まだまだスィの計画には不穏な点が多すぎる。


「協力してあげてもいいけど、もうちょっと計画について教えてくれたらかなー」


 俺はとりあえず珍しい魚介のサンドウィッチをぱくつきながら、計画の詳細をうかがう。


「いいよ、何でも聞いて」


 スィはホクホク笑顔でなんでも答えてくれるようだ。じゃあ遠慮なく。


「君の好きな子が残るのはわかるけど、嫌いな子はどうなるのかな」


 まず一番引っかかるところを訪ねる。


「大丈夫、精神干渉で嫌いな性格の子はいなくなるよ!」


 俺は思わず紅茶を吹き出しそうになる。


「な、なるほど、それなら戦争も起きないよね」


 でしょー、とスィは自慢げにほほ笑むが、冗談じゃないぞ、とんでもなく不気味な世界になっちまうじゃねえか。どこもかしこも村人Aしかいない世界なんて御免だ。


「ちなみに、ツィの理想とのすり合わせして、二人で協力して統治っていうのはできないのかな」


 俺はなんとか妥協してもらえる点を探し出そうとする。


「お姉さまの理想……どんなのなの?」


 スィはそういえば聞いてなかった、大好きなお姉さまの理想といった感じで興味津々に訪ねてくる。


「私の理想は……ありていに言えば争いをなくすけど、世界喰らいの力によってなくす世界かしら」


「えー、どういうことー」


 スィがいまいちわからないといった感じで答えを聞いてくる。


「私が世界喰らいになったら睨みを利かせて、争っているものに罰を与えていく、そうしているうちに大きな戦争はなくなり、小さな戦争もなくなり…やがて人々は争うのをやめる」


「それはわかったよ、でもやさしくない人の存在はどうするの?」


 スィの疑問にツィはこう答える。


「争いがなくなれば、人は優しさを取り戻すわ、きっと」


「わかんなーいー、それはわかんないよー、悠長だよー」


 スィは理解できないと地団駄を踏んでいる。


「いっそ二人ともなってみるのは?」


 俺が適当なノリで提案してみるが。


「それ浮気と同じ」


「同じ、それに二人同時に負担をコントロールなんて騎士側も狂うよ」


 と二人から共に一蹴される。


「二人で協力すればならなくても実現できるんじゃないか?」


 それでもなんとか、ふたりでやれないかと聞いてみる。


「……やだ、お父様の元に戻るなんてまっぴらごめん」


 スィが断じる。


「スィ、あなたはどうしてもお父様のような人間は許せない?」


 ツィがスィに問いかける。


「もちろんだよ」


「わかったわ、でも私は私の手法を曲げる気はないの、やはり人を洗脳してまで変えるというのはやりすぎている気がする」


 ツィはどうやら分かり合えないと踏んだらしい。


「わかってくれないんだねお姉ちゃん」


 スィも、目的が違うと理解したらしい。


「やれやれ、やはりこうなりましたか」


 指揮官殿が席を立ち、部屋を出ていく。


「サト殿、ドラゴンチューナーを私にもらえないだろうか、そうしていただければ、帰りの道中の無事、および戦争の終結をお約束しよう」


 ホワイティンがこちらに向かって問いかけてくる。


「だめです」


「そうよ、姫に認められたものが以外が扱っても、それは結果的に破滅しか……」


 ホワイティンは残念そうにため息をつく。


「やはりそうでしたか、王家の加護、寵愛も必要というわけですね」


「ホワイティン、やっぱり洗脳はお姉さまたちには掛けられないよ、守護をかけてるみたい」


 スィが淡泊に述べていく。やっぱりかけようとしていたか。俺はペンタグラムがあるが他の二人は……?


「そのために聖職者になったの、簡単には突破させないよ、常に精神干渉はチェックしてる」


 ツィがそう述べる、そんな理由だったのか、ドラゴンの力を使わないためだけかと思ってた。


「ここじゃ、狭いわね、屋上へ行きましょう、あそこならドラゴンが何匹か出ても十分なスペースがあるわ、お姉さま、勝ったほうがドラゴンの騎士様をいただく、というのはどう? 時間をかけてじっくりと精神を操れば私の騎士様に改めてなるようにできるし」


 俺、いつの間にか景品にされてるぞ!


「ちょ、ちょっと待って、俺はツィの理想のほうに共感してるんだが!」


 ツィ、なんか言ってやれ!


「負ける気はしないから大丈夫、妹に少し姉の貫録っていうものを見せてあげないとね」


 ……本当に大丈夫だろうな


「準備ができたら屋上にいらして、案内は指揮官、ああ、名前はアインよ、に任せるわ」


 そういうと、スィとホワイティンと従者たちは部屋を出ていった。


「ピーター、先の水晶は持っておるな使い方は簡単、念じるだけ、ここで呪は解いておく、あとはあなたの判断に任せるよ」


「よろしいので?」


「ええ、ここでのあなたの勇気を信じます」


 ツィはピーターの呪いを解くと、解放した。


「じゃあなピーター」


「お、お元気で、また会えるとよいのですが」


 ピーターはこちらの無事を祈ってくれてるが、今回ばかりはそう簡単にはいきそうにないかもな。


 水晶の機能を確認したのち、早足で駆け去っていくピーター。


「ガイアは庭園の力のマナでは限界がある、白騎士相手には分が悪いわ、機械人形どもの相手をお願い」


「了解しました」


 ドラゴン封じの性能があるが、あれはあくまでチューニング阻害、ならば初めから大きいままなら部はこちらにあるはずだ。


「ん、ってことは」


「ジルとサトに白騎士どのの相手をお願いすることになるわね、大丈夫、防御的な魔法メインだから慣れれば持久戦に持ち込んだのちガイアが加勢にくるはず」


「なれれば、って」


「私が回復するわ、何とかね」


 やれるのか、俺にガイアと同等のドラゴンの相手が。


「そして私は姉と妹の対決ね……これは力、出し惜しみなんてできないわね」


 ツィは片手をにぎにぎと動かし、調整するように動かす。


「あとは、サンドウィッチを食べながら、心を落ち着けましょう」



「だいぶ待ちましたねー……皆さん、お覚悟はよろしいでしょうか」


 外に出ると指揮官殿、アインというんだっけか……がジルを連れて待っていた。


「もう少し待って、妹と戦う覚悟っていうものができてないのよ」


 ツィがなよなよと崩れるように俺に寄りかかりつつ語る。


「明日にならないかしら、決闘」


「だめです、スィ様はお待ちかねですから!」


 アインが慌てて首を横に振る。どうやら相当まだかまだかと問い合わせがあったようだ。


「そうよね、じゃあ、いきましょうか…決闘の開始の合図は?」


 ツィが諸条件について確認をとっている。


「お互い庭園の中央についてから、戦力はこちらはスィ姫様、私ども、白騎士殿、およびインダストの兵士です」


 おいおい、一人で何人相手をすればいいんだよ。


「えらい数の差だね、一瞬で勝負がついちゃうんじゃない?」


 俺は皮肉を込めていってやる。


「いえ、これでもツィ様がやる気ならば、不足があるぐらいですよ」


 そんなものか……? そこまでえぐい能力でもないと思うのだが。


「妹も本気ってことよ、精神干渉は対精鋭の実戦ではあまり役に立たないから……」


 ふーむ、確かにそれだけだと実戦での使いでは悪いが条件の差はひどすぎる気がする。


 そんなことを話してるうちに、いよいよ、庭園の庭へとたどり着いた。


 周囲を確認する、インダスト兵は戦闘に巻き込まれないように矢を主にして庭園のわきの城中に隠れているようだ。そして機械化小隊、白騎士殿、スィがバレットのあった中央のあたりに立ちふさがっている。


「さぁ、お姉さま、今度は楽しい舞踏会、私たち、どちらが世界喰らいのドラゴンにふさわしいか、サト様にふさわしいか、今、決めましょう」

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