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純粋理想

 素敵なティータイムというのはスィとの面会のことであろうか?

 まず話し合いができるというならこちらとしても願ったりかなったりだ。


「では、バレットを屋上につけますので、少々揺れるかもしれませんし、着陸後の準備もあります。皆様は休憩室にてお待ちください」


 指揮官殿は軽く礼をすると、側近の兵士2名に俺たちの警護、もとい監視を任せ着陸の準備を行い始める。


 俺たちは素直に中央の休憩室にて待つことにする。


「どうなってるのかしら、うちのテールナ、あんな大改装されるなんて聞いてないわよ!」


 休憩室に入るなり、ツィが愚痴をこぼす、民のことが心配なのであろうか。それともほかに疑問もあるのだろうか?


「おそらく、以前と同じく白騎士どのが操られているのでしょうが、あの大きさは異様です。妹君も何かしらの助力をされてるのでしょうが、いったいどうやったらあんな山よりも大きな代物が……私の力をもってしても崩すのは無理でしょうね。それ以前に、崩そうとしたら中の人民が犠牲になってしまうのですし」


 人の作った物体を壊し、対抗するのは自然の力だが、30mのドラゴンが全力でぶつかって行ったとしても、酸の風を降り注がせても、劣化させても、あの物体はやすやすと壊れそうにない。



 城塞の大きさを見て攻略することになったらとツィが思い出したのか、ピーターを呼び出す。

「そういえば、ピーター、お願いがあるのだけど。もし交渉決裂した場合、妹がゆがんでしまっていた場合、私の予想だと……相当ひどい性格や要求をぶつけてくると思うの、その際にインダストの兵士やうちの市民を逃がすために、これを預かっておいてくれない?」


 ツィは水晶をピーターへと手渡す。


「何ですか、これは」


 透き通った水晶をみて、空中で転がし、覗き見るピーター。


「お守りよ、あなたたちが逃げなきゃいけない、戦わなきゃいけない状況になった時に役に立つはずよ」


「ははぁ、まぁ私のためになるというのでしたらありがたく」


 なんだかよくわからないが、とりあえず懐に収めておくようだ。俺にはくれないのかな。


「物ほしそうに見ない。あなたにはガイアからしてもらっておいたほうがいいものがあるわ」


 ツィは俺がじーっとみているのを察すると、こっちじゃないわよ、とガイアを指さす。


「……ジルにはもう許可は取り付けてあるのだが、そのなんだ、お前にも聞いておいたほうがいいかと思ってな。ジルを、ペガサスにしてもいいか?」


「ジルをペガサスにする?」


 いまいち言葉の意味が理解しにくい、種族ごとかえるってことか?


「言葉通りだ、地上を走るだけの自分ではサトの役にたてない、自分も役に立ちたいとの申し出があった。私の力があれば空中を走る天馬にすることができると伝えたらぜひなりたいということでな」


 俺はうーん、と唸る。


「そもそも戦闘に巻き込みたくないぐらいなのだがなぁ。でもそれじゃ仲間外れにしてるようなものだしな」


「その通り、自分の不甲斐なさをジルは嘆いていた。どうだ、ひとつさせてやっては」


 戦いが起こるのならそれは激戦になるだろう、戦力は少しでも多いほうがいいし、それに、相棒の言葉をむげにはできない。


「わかった、時間ができたらすぐにでも頼む」


「了解した」


 ガイアもうんうんとうなずき、俺に手綱を投げてくる。


「これをつければすぐに転生できる」


 おっと、思ったより便利。


「すぐ思ったように動けるのか?」


 だが、馬がすぐに鳥のように飛べるのだろうか。


「そこは慣れ次第だ。ジルのセンスに期待するんだな」


 まぁ、ジルなら大丈夫だろう、やつの器用さはなんだかんだで高いんだ。


 そんなことを話してるうちに、かすかな振動が伝わってくる。


「……ついたのですかな?」


 ピーターが窓の外を眺めるのにつられて、俺も見に行ってみると、そこには高い外壁に囲まれた広大な庭園が広がっていた。


「こりゃ、まさしく、街ひとつまるごと庭にしてあるな」


 俺は何㎞あるかわからない庭園を覗き見つつ驚く。


「これほど壮大な庭は見たことがありませんよ」


 おそらくツィスィやインダストの王城さえこの大きさの庭園はないだろう。


「スィ、なんてものを作ってるのかしら、こんな自己顕示欲の塊みたいなものを作って喜ぶ子じゃなかったはずなのに」


 ツィが不安げに語る。どうやら以前の性格ではありえないような趣味らしい。


「姫様、見てください、世界中の草花を無理やり植えてあります、これではすぐに枯れて」


「ええ、わかってるわ、本当に悪趣味」



 そんな話をしている折、中央休憩室に指揮官殿が入ってくる。


「いかがです、わが主が皆様を迎えるための庭は、壮大でしょう。素晴らしいでしょう」


「ええ、素晴らしすぎて目がくらみそう」


 ツィが頭を抱えながらそう返事をする。


「おや、お気に召しませんでしたか、まぁ私は……いえ、なんでもありません、ささ、庭を通って、会場まで向かいましょう」


 指揮官殿は俺たちの先頭に立って、あの方のもとへと導いていこうとする。


 だが、甲板に出たときに俺は


「ちょっと、ジルに挨拶をしてくる」


 と、手綱を着けに行った。


「お前も活躍したかったのか、だけど無理はするなよ」

「ヒヒン」


 お互いに顔をこすり合わせると、手綱をつけてやる……


 すると、見る見るうちに立派な羽が生えていくではないか!

「ひもでつながれてない今のうちにこっそり飛ぶ練習しておけよー」


 甲板上に機械兵どもの姿はもうない、ほとんど降りて場内に向かったようだ。

 絶好の機会である。


「さて、と俺もティータイムと茶しばき倒しますか」


 庭園を抜けて、大きな城門をくぐると、竜魔術で明るく染まった通路へと導かれる。


「昼とはいえ、日の光の完全に届かない屋内なのにとても明るいわね。白騎士の力かしら?」


 ツィが指揮官殿に問いかける。


「素直についてきてくださったので言うのを忘れていましたが、そうです、白騎士殿にこの城はデザイン、作成していただいております」


「とりあえず無事、ということね、よかったわ」


 ツィは一安心といった感じで胸をなでおろす。


「それで、白騎士は裏切ってこのようなことをしているのか、それとも操られてこのようなことをしているのか」


 そして、俺が核心について問う。


「それに関してはティータイムにて、ほら、もう少しでつきます」


 円状の階段を下りて、下りて、インダストの兵士たちが何かにおびえるように守る大広間を超えて、指揮官殿の指さす扉が開かれると……



 きらびやかな装飾とインダスト由来の魔法具アートで装飾された部屋の中に。


 装飾は抑えてあるが、明らかに一級品であろうなという生地、素材が使われ、竜の装飾が施されたテーブルがあり。


 そして、椅子に腰かける一人の少女がいた。


 ……いや、少女、なのだろうか、顔つきは人間なのだが、手や体の一部が布で覆われていて、人形のようにも見える。だが、生気に満ちてはいるので、間違いなく人である。だが、違和感がぬぐえない。しかし、美しい顔立ちではある。


 そんな少女と、以前見た俺と同じような体格をした、パラディン、精悍なひげをたくわえた白騎士のおっさんがその後ろで剣を床につけて構えていた。


 そして、ツィと少女を中心軸として白騎士の反対側に指揮官殿が立つ。


「……待ってたわお姉ちゃん、ずっと待ってた、ずっと見てた。お姉ちゃんはあのころから変わらなく優しいお姉ちゃんのままで私、嬉しかったよ」


 少女、が語りだす。


「会いたかったわ、スィ、無事だったのならどうして連絡してくれなかったの、私だけにでも言ってくれればすぐにでも飛んでいったのに」


 ツィはスィに語りだす。本心だろう。


「ごめんね、お姉ちゃん、ごめんね、話せば長くなっちゃうけど、今の体になるのも一苦労だったの、白騎士、ううん、ホワイティンがいなければ私はあのまま死んでたし、こうやって会うこともできなかったから」


 そういえば話によれば体のほとんどを失ったうえで死んだはずだったんじゃ、5体満足じゃないか。


「そうだったの、ホワイティン、説明してもらってもいいかしら、スィはどうやって生き返って、体の欠損部分を取り戻すことができたの?」


「……」


 ホワイティンからの返事はない。


「駄目だよ、ホワイティンは今は操ってるから、答えられないよ」


 スィがそう代わりにこたえる。


「あら、どうしてあやつってるの? こんなお茶の席で操っていたら、みんなで楽しめないじゃない」


 ツィはすぐにたしなめる。このあたり昔からの感じなのだろうか。


「ごめんなさい、お姉さま、お姉さまをお迎えするのにお城を作るって言ったら反対されちゃって……すぐに解くね」


 スィは言われたとおりにすぐに解除してくれた、てっきり解除してくれないかと思っていたが…?


「いい子ね」


 ツィがそうほめてあげるとスィは嬉しそうにもじもじと体を揺さぶる。


「えへへ」


 なんだ、普通の女の子じゃないか、これなら戦闘なんてしなくても……すむんじゃ?


「……はっ、スィ様、またご無茶をなされたのですか、私めは……ツィ様、それにガイア、サト殿…!」


 正気を取り戻したようだ。これで事情がうかがえる。


「ホワイティン、ツィお姉ちゃんに今までのことを説明して……あ、でも見てもらったほうが早いか、私の全部、私の気持ち、伝わるか」


 しかし、妹のスィのほうが何かを見せてくれるようだ。


 すると、スィはするりと自らを覆う布を紐解いていく。


 そこにあるのはすらりとした機械の左腕と爪。

 半分機械の翼。

 片方だけもげた足を支えるシリンダー、義足。

 そして、ぽっかり空いた心臓部にうごめくつるぎ。


「っ…!」


「ホワイティンはね、川に落ちて流された後、今にも死にそうだった私に、白魔法で疑似心臓を作ってくれたの。でも、頭部と心臓と方腕と片足と方翼、だけじゃまともな生活は送れないし、ツィスィの中じゃいつ見つかるかもわからなかった。だから、インダストに私を隠したわ、技術の提供と引き換えにね」


 川に落ちた後、流されていってインダストの側に流れていくとは思ったが、まさか自ら入っていたとは。


「ホワイティン、あなた、元から洗脳されていたわけじゃなく…?」


 ツィがあの悪夢の日について問いかける。


「いいえ、洗脳されていましたよ、しかし、あのような非道な行為は許されてはならないと私は思っただけです。心底ね」


「ホワイティン、それは私も思うわ、でもそれで戦争が激化して我が国の民が大量に犠牲になっては…!」


「ごもっともです。ですが、当時の王に正義はない。戦争もスィ様がこうならなければ回避できたはずだ」


「ぐっ」


 ツィは押し黙ってしまう。


「いい人よね、お姉ちゃんもホワイティンも、だから私生きてけるんだもの」


 スィは機械化した手を見つめながらそう答える。


「それで、インダストに行ってからは……?」


 ツィがさらに続ける。


「……私の体を作り直していったわ。使えるものは何でも使った、王を洗脳し、私の兵士を育て、私の目的のための技術を育て……こうして腕も、足も、翼も、作れるような技術をつくった」


 スィは立ち上がり、くるりとまわって見せる、鈍く光る機会が機能美めいて怪しく光る。


「それが機械化兵団の元か……」


 俺はぼそりとつぶやく。


「あたりだよ、サトさん」


 スィがあっさりと俺の名前を言い当てる。


「あ、やはり指揮官殿の目を通してみていたのはあなたでしたか」


「ええ、お人よしっぷりはお姉さま並、やさしい人は好きよ」


 どうやら好かれているらしい、いいことだ。


「でも残酷な人は嫌い、お父様やそこらの有象無象、私のことを変な目で見るやつ…」


 それはそうだろうなぁ、つらい人生送ってきてるんだもんな。


「そう、私決めたのやさしい世界を作るって!」


 スィは声高々と宣言する。


「お姉ちゃんも手伝ってくれるよね!」


 新しい世界? いったいどんな世界だ、ツィとかぶってるなら応援しようもあるが…?


「どんな世界なのかしら」


 当然、ツィも尋ねる。この天真爛漫な妹君が望む世界とは一体何かを。 


「もちろん、私が認める人だけが暮らす世界よ!」

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