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ツィとスィ

 ツィは俺たち全員の顔を見る。つられて俺も顔を見渡す。ガイアはいたって平静を装っているが何か予感させるものがあるのか少し手が震えている。ピーターはまだ捕虜になったばかりで火が浅く事情も深く知らない重い空気にのまれるようにきょろきょろとしている。俺は聞いてやらなきゃな。と構えて言葉を待つ。


「私には妹がいたっていうことは覚えてる?」

「ああ、早くに亡くなったんだっけな」

「そう、幼いうちに」


「妹の名前はスィ、王国の半分の名前を取ってスィ」

「へぇ、偉大なのか適当なのか、そういえばお前もツィか」

 国の名前を取られるのだから、相当に期待を込めてつけられたのだろうが。


「予言者たちが、私と、3年後に妹が生まれたときに、世界を改革する力を持つとして、この名前が付けられたのよ」

「力っていうと世界喰らいのドラゴンになれる資格とか?」

 俺はツィにそう問いかける。

「あら、冴えてるわね。そうよ、それだけじゃないけどね。でも私が生まれた時にはツィスィを導く、世界を導くまでのビジョン」

「妹が生まれたときには?」

「あまねく大地が崩壊するビジョンが見えたの、だから妹は災厄をもたらす赤子として処刑されそうになったわ」


「処刑!?」


 俺とピーターが驚く。

「いくらなんでも殺すことはないでしょう、予言ごときで、あれはあるかもしれない未来をうつすだけのものです」


 ピーターが論じる。

「ああ、赤子を処刑なんて、しかも王である、自分の子供をだ」


 俺が人道の面でも、情の面でも反論する。

「そう、できなかった……だから妹は城の一室を与えられその中で育てられることになったわ」


「それでも十分きついですけどね」

 ピーターがそういうと、俺もその通りだとうなづく。


「そして、部屋の一室で育てられたお姫様がかわいそうだと考えたのは私もだった。でも普段は城を防衛している白騎士の監視がきつくて、中に入ることもできない。一緒に遊んであげることぐらいしかできなかった」


「いや、しょうがねえ、捕らわれの妹姫相手にゃその程度でも嬉しかっただろうさ」

 俺は精いっぱいの慰めを行う。


「そして私が妹の7歳の誕生日の時だったかしら、妹は誕生日プレゼントが欲しいとねだってきたの、お姉さま、私一日だけお城から出てみたい、と、私は許してあげたわ。あげさせられたわ」


「あげさせられた?」

 俺は意味深な言葉に疑問を呈する。


「ええ、まぁ聞いてて、妹のささやかな誕生日パーティーが済んだ後、私と妹、それとなぜか白騎士までもが一緒に監視をするからといってお外に出ることになったわ」


「白騎士……殿、ここでも出てきましたか」

 ピーターは縁があるのか、意味があるのか、といった感じで緊張で渇いたのどを潤すために、水をすする。


「白騎士はなぜか本来の姿、聖なる龍の姿に戻って、空を飛んでぐんぐん進んでいったわ。でも、後ろの方から空を飛べる速さに関してはいちばんの赤騎士が追い付いてきて、進路をふさいできて、そして、後ろからガイアが白騎士に足絡みを加えて、私とスィは振り落されかけた。その時だったわ。私の洗脳がとけたのは」


「洗脳?」

 俺は聞き替えす。穏やかじゃない言葉だ。


「そう、洗脳、私たち姉妹は、私は物質を、スィは精神を、世界喰らいのドラゴンになっていなくても操ることができるということに、スィはメイドにケーキのおかわりを要求して、駄目だって言われた時に、頂戴といったらかならずおかわりを調達できていることで、よもやとおもっていろいろやっていたら先に気がついていたと空の上で言っていた」


「白騎士殿の洗脳はとけていないまま?」

 ピーターは問いかける。


「ええ、私を人質に逃げようとして拘束して逃げ続けようとしていたわ、で、スィももう、なんだろう、なんだか得体のしれないドラゴンになって、お父様たちも追いついてきたわ、他の騎士はインダスト戦線にいってていなかったけど」


「だがさすがに多勢に無勢、どうしようもないだろう?」

 俺はツィに問いかける、白騎士と7歳児でどうにかなる面子じゃないだろう。


「それが、洗脳が解けた後も私が、逃がしてあげようよ、って訴えて人質になったままでいたから拮抗状態になっちゃったのよ、ドラゴン変化せず、逃げもせず……」


「あ、そうなるか」

 俺はあちゃーとおのれの額をたたく、こいつも結構な甘ちゃんだったか。


「スィは笑ってたわ、純粋に笑ってた、家族っていいわよね。でもね……お父様たちは違った。怖かった。だから…わかった。もう好きに生きるといいっていって、抱擁するふりをしてね。スィの。心臓を。えぐったの」


「げっ」

 ……返す言葉が見つからない。


「そのあとだったわ、各騎士に、逃走手段の白騎士を痛めつけて、スィを一遍残らず焼き尽くせと命じられたのは、初めは戸惑いしかなかった、でも、王が狂乱するようにして、やれ! と命じれば騎士は従うしかない、遠慮がちな攻撃でもスィの体はどんどんえぐれていって、それでも白騎士は逃げ続けて……最後は川に二人とも落ちて、スィの生命反応が消えて、探せっていう王に対して、泣きわめく私を理由におやめくださいって懇願してくれたのがガイア、あなただったわね」


「はい、あの時は悪夢のようでした」

 涙を浮かべながらガイアは自らの手を抑えている。スィをえぐったであろう手を。


「そして、今の話につながるのだけど…インダストの話、これはどう考えても流してるのはスィね、竜言語を流してるのもスィと考えれば納得がいくわ」

 自らの軍団を作り、こんなことの無い世界を作る…確かに筋は通っているか?


「白騎士殿がまだ裏切ってる可能性は?」

 ピーターが問う。たしかに純粋な疑問が残る点もある。


「ありえない、世界喰らいの宗教の話は精神もコントロールできないとおそらく実現不可能、表に出てこないのも体がない? ゆえと考えれば納得がいくし……」


「ドラゴンチューナーもどきと機械人形についてはどうだ? スィには作れるのか?」

「うーん、でも白騎士のそういった魔法の類に関する調査結果は全て問題なしだったのよね……それに白騎士ならもっとましなものを作るわ」


 俺の疑問もどちらかというとスィに収束するらしい。

「それよりなにより、あのお方、呼びされるのは、私以外だと王族か、スィ、あの子しか資格はないわ」


 確かに、お偉いさんではあるだろうな。

「そして、インダストのツィスィ国に対する攻勢も、復讐と考えれば納得がいくわね、小競り合いは以前からあったけど、最近になって一層激しくなったものね」


「いやですねえ、私怨でドラゴンと戦争させられちゃ」

 ピーターが肩を竦め、首を横に振る。


「まぁ想定するラインは最悪のものを想定しておいた方がいい、立ちふさがるのがスィと白騎士なら、今度の戦いはどちらかに死人が出る、周りに被害が出ることを覚悟しないといけないかもね」


「それ自体を、させたくねえな……」

 できれば白騎士もスィも、何とか説得でやり過ごせないだろうか。


 直接話し合えば分かり合うはずだ、ツィとスィなら……

「ああ、私もそう思う」

 ガイアとピーターも頷く。


「と、まぁこんなところだな、明日にはテールナにつく、何が待っているかわからんし、早く寝ておこう」

 ツィは横になる素振りをみせ、砦のベッドに転がる。


「そうですね」

「はい、姫様」

 ピーターとガイアも続いて、横になる。


「……なんかあったら言えよ」

 俺も横になることにした。

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