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ピーターテール

 ツィの裏切ったら即死の呪いの印により、ピーターを拘束する理由や見張る必要がなくなり、比較的自由な行動を許されたピーター中隊長。


 そんなピーター中隊長が、かがり火の下、一人でもくもくとドラゴンチューナーを整備している俺に話しかけてくる。


「こんばんわ、サト殿、今夜はいろいろとありましたが、大変な夜でしたなぁ」


「これはピーター中隊長殿、お疲れさまです。全くです、私もまともな人間として正門から砦を突破させられるとは夢にも思いませんでしたよ」


「いやいや、あなたの腕は本物です。ただ隣に立つのがドラゴンだから多少それがひずんで見えるだけで」


「ところで、このご時間に私に話しかけてくる、ということは何かご用でしょうか?」


「いえ、同郷の人間であるかなと感じたことと、私も奇妙な旅に加えられるならば、どういったことが起きているのか知りたい。という好奇心から、あなたとお話ししたいと考えただけですよ」 


 どうやら言葉遣いで同郷の人間だと悟られたようである。


「ツィとガイアのいるところでもしてさしあげますよ」


 隠し立てするべきことは隠すし、問題ないところは話すし、二人きりでどうこうするものでもない。


「さすがに手ごわいですねえ。ですが、私あの方々相手に素直に話せる気がしませんで……なんとかなりませんかねえ、あーでは一杯、一杯いかがです? 貯蔵庫の中にまだいいワインが残ってるはずです」


「……はぁ、まぁ普通の人間にとっちゃドラゴンハーフは怖いですよね、でも変な混ぜものされちゃ怖いですから酒は私が持ってきます」


 中隊長殿は相当にガイアとツィが怖いらしい、仕方ないことだろう。目の前で巨大化されたり、呪を施されたりしては。


 砦の中を進む間にも中隊長殿は話を進めてくる。おしゃべり好きらしい。


「私、生まれはインダストのマイコニアでして、そこで騎士の家系に生まれました。あいにく武術にはそれほど恵まれませんでしたが、勉学に励み、士官学校でもそちらの方面では良い成績を残し、なんとか、ここまでこぎつけました」


「ほうほう、戦術家ですかぁ、先の戦闘での切り替えの早さも納得がいきますよ。私も騎士だったんですよ、頭はあんまりよくないので、戦闘向けの魔騎士です。もうツィスィとの戦いで消えた今じゃ地図に載ってない町の出身なんですけどね」


「今は亡き町ですか、どこの……いえ、失礼しました」


「いいんですよ」


 貯蔵庫の中はいくらか荒らされてはいるが、食糧関係にはほぼ手が付けられていない。すぐ後ろに本営たるテールナがあるからだろう。


「そこの一番奥、冗談がおもてなし用の酒類が残っている棚です。あ、やはり残ってますね、逃げる前に酒なんて飲みませんからね」


「じゃあ、適当にワインでも」


「おやお目が高い、いいものすよ」


「中隊長殿はいける口なのですね。私はあまり豊かな暮らしはしてないものでのめれば何でもいいというか、へー、おいしいのか、これ」


「やめてくださいよ中隊長殿とはくすぐったい、ピーターとお呼びください」


「ぴー、ピーター殿、ではこれとグラスをもって月でも見ながら」


「はい、そうさせていただきましょう」



 俺たちは砦の屋上に席を設けた。春の風がひやっこく気持ちいい。


「では、ピーター殿と知り合えた感謝に」


「サト殿と出会えた感謝に」


「乾杯」


 と、二人で唱和する。実際問題、敵と味方というだけで人間的には悪いやつではないのだ。


 そう思えるような気さくなピーターはワインをくっと味わうように口に含むと、感慨深く味わっている。


「いけますね。このツィスィは土地が様々ですから、ワインを育てるような厳しい土壌がそろっているところもあるのですな。引き換えうちのワインと言ったら」


 ピーターがワインを評価する。


「インダストはいまや工業立国という感じですからね、食えればいい。といったような思考はこっちで暮らしているのが長くなると貧相に思えてつらいです。じゃがいも飽きた。と言ったら贅沢なのでしょうが、と言っても、私にとってのこのこのワインの良しあしは美味しい! 程度にしかわからない舌なのですが」


「あー、待ってください、私ではなく、俺でいいですよ、気を使わないでください」


 気さくな中隊長殿だなー。だが部下には好かれていそうだ。


「わかりました、俺には過ぎたワインですかね、ハッハッハ」


「いえいえ、ワインは飲まれて何ぼのものですからね、美味しい、そういってやるだけでいいのですよ!」


「そんなものですかねえ!」


 ああ、酒が進む。


「ところで、聞いておきたいこと、っていうのがあれなんですが、あなた方、世

界を救うと仰ってますよね」


「ええ、そのための旅です」


「うちの噂、なんですけどね、世界を救うってのはうちの中でも出たことあるんですよ。そのためのツィスィをくだす戦争だって。いう噂が、被害が甚大だから宗教でもぶち上げてやるのかと思っていたんですがね。どうも、そのための尖兵とならんものは集えっていう号令で優秀な兵士がそこらから引き抜かれたっていう話もあって、うさんくさいんですよね。そっちも何かに騙されてるんじゃありません?」


 ……これ結構核心に迫ってる話なような気がするが、今の席の空気をぶち壊しにするわけにもいかないし、とりあえずツィやガイアに伝えるのはまだよしておこう。


「うちのは国家プロジェクトよ、姫たるツィが主導して、首脳たる各騎士が連動して動いてるから胡散臭い詐欺とか宗教とかそういうものじゃない」


「ええ、ならいいんですが……」


 その後、俺たちは旅の目的をおおよそ問題ないところまで伝えて、俺が知りえる話、技術関係の話は伏せて、機動部隊がハートまで来たことなどを伝えた。


「ハートの村まで進軍……考えられませんが?」


「まぁ精鋭の機甲魔導士の軍団みたいなものが来たんだ」


「なんで?」


「うちの姫様に御用だってさ」


「ふーむ、相当に好かれてますねえ、どうせならうちの砦にも配属してくださればとられずに済んだものを」


「そういえばなんでだろうな、ここでは挨拶する価値がないってことなのかね」


「ひどい」


 ピーターがショックを受けて固まる。そこを守らされたというのはつまり自身に価値がないということであり……


「あー、待て待て、この先が本命ってことかもしれないぞ、前の村では人を守れるか試されたのですよ」


「つまりこの砦では敵兵しかいないからその価値がないということで」


「そうそう」


 ピーターはどうにか立ち直った。思考の切り替えの早い男は好きだ。


「では、次に招かれるのは間違いなくテールナですね」


 そこならツィスィの民がたっぷりといる。選択の余地や、何かしらの試練もた

っぷりと考えられるだろう。


「でもそんなの無視しちゃえばいいから、巻き込まれることもないから」


「王と王妃人質に取ってるんですから、何かテレパシーなりで来ないとダメとか言われるんじゃないんです?」


「……追加の条件付けはちょっとマナーがなってないかと」


「まぁそですけどね」


 だが、俺の胸中では嫌な人物像が浮かんでいた。


 行方不明になった白騎士。


 彼をテールナに置いて、何かしらの条件付けに使えば、姫は突っ込んでいくだろうな。と。


「どうしました……?」


「んー、いや、ちょっと道中荒れるかもなって思っただけ、ツィに解呪の条件ゆるくするよう願いしておくわピーター」


「は、はぁ、それはありがたい」


 そして、酒宴も終わり。


 4人そろって休もう、というときにツィとガイアに先ほどのインダストでの救世主の話をする。


 ツィは頷きながら、語る。


「まちがいないな、ハートのインダスト兵どものいってたあの方が現在のインダストを掌握してるわね、王をもね……ちょうどいいわ、今こそ話しておくべき時だと話は判断するわ。そこの中隊長殿にも聞かせてやっておいたほうがよい気がする」


「私にも? あ、あとピーターで結構です」


「ええ、インダストの兵士こそ、知っておくべき話でもあるわ。ピーターさん覚悟はいいかしら?」


 ごくり、と生唾を飲み込むピーター、そして、いよいよあのお方について話してくださるのかと緊張し、固まる俺たち。


「これは僧侶の予言ではなくて、真実として語るよ」

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