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ピーターバイパー

 ハートの村を出て、馬とドラゴンという異様なコンビの旅が再び開始される。


 今は戦争下、ましてやその2国の境界線を走るようなものは少ないが、道行くものに驚かれることは多い。


 インダストの馬ならドラゴンが走ってくるのを見ただけで戦慄いて、街道がパニックに陥るだろうが、ツィスィの馬はドラゴンに慣れているのでそういうことにはまだ幸いなっていない。


 さて、世界喰らいのドラゴンへ至る祠への最短のルートはインダストの支配下にあるテールナの街へと向かい、そのまま今は廃棄された道を進み大陸の東へ至ること。


「インダストの支配領域に入りました、ここから先、砦がございますが、落としながら進みますか、それとも無視されますか」


 ガイアが俺とツィに問いかけてくる。無視をすれば挟撃にあう危険性があり、落としながら進めばその分時間が消費される。


「アクアの情報によれば一般の兵士にはドラゴンを封じる手段はいきわたっていないし、私は無視して進んでもいいと思うけど、サトはどう思う?」


 ツィは自国の地図を見ながら、指さし考えを述べる。


「試しに一つぐらいよったらどうだ、反応を見ればどうすべきかは一発でわかるだろう」


 俺は折衷案でいってみる。相手の兵士がひるんでくれれば一瞬で戦闘も終わるだろうし、寄り道するのに一番いい砦を選んでぱーっとよってぱーっと帰る。それぐらいが確認にはよいのではないだろうか。


「そうだね、じゃあ、街道沿いにたてられてるワームの砦によってみるとしよう、ここなら兵力が必ずいるだろうし」


「そして、あの機械人間どもが何かしてくる可能性が高いのもそこか、もしくはテールナだな」


 ツィは頷き、ガイアは何がいるかを予想し、戦闘の気配に身震いしている。


「そうだな。俺たちが必ず通るところにいればいずれ出会えるしな」


 運命なんて必然じゃなくて、起こるべくして起こるものなのだ。やつらがハートの村にいたのもおそらくはそんな方策に違いない。それだけだと竜魔術の船の説明がつかないけど、それはおそらくツィがもうすぐ会えるといっている主殿のせいであろう。きっとそうだ。そんな楽観的な考えを俺は持っていた。


「対ドラゴンの兵器がなくとも奴らは強いぞ、各自気を引き締めていけ」


 インダストの兵士との戦いに慣れたガイアが激を飛ばす。


「あいよっ」


 ある意味、同士討ちにはなるが、もはや世捨て人の身分、そんなことは気にしてないと俺は気楽に答える。


「りょーかい」


 ツィも気合を入れなおす。


 それから約半日、ちょうど休息などを挟んで…俺たちはワームの砦へと至った。


 時間は昼間。


 ワームの砦は台地に這うように横に長く作られ、高さも十分にある石造りの砦である。うかつに正面から近づけば矢の嵐でハリネズミ。正攻法でいくなら、端から攻めるべきであるが、俺たちはあえて正門に直進すべく、真正面から突撃をかけた。


 ワームの砦に真正面から近づくと、おそらく砦の高台から遠視で見ていたと思わしき兵士がはるか遠くから足元にロングボウを放ってくる。風の魔法でも使ってるのか、恐ろしい精度である。


「お、いるいる、わざわざ警告からとは親切な」


 だが、聞く耳は持たないと俺たちは進軍する。相手もお返事にと矢の嵐をこちらへと向けてくる。


「ガイア、逆風、相手側への突風を生んで矢を払って、私たちはその風に乗って迅速に進むわ」


 ツィが指揮をとりはじめる。正面から行くなら適切な手段だ。


 事実、矢はこちらに全く届かず、大地からの風に押し流されていく、たまに流れ矢が飛んでくるが、それは丁寧に薙いでいく。

 

 しかし、謎の爆発音とともに状況は移り変わる。


「爆発音? 地雷?」


「いえ、矢の方が爆発しています」


「これ矢じりが爆発物でできてるな、散らしても危ないぞ!」


 俺は爆発している地点を双眼鏡で覗き込むと二人に伝える。


「ふむ、じゃあこっちのほうに矢が吹き飛んできたら、やはりサト、あなたが処理お願い!」


 ツィはあっさりと対策を伝えてきた。


「よそ見乗馬は危ないんだけどな……」


 そういうと俺は県の魔力を大地の壁の連想に切り替える。


 俺は早速こちらのほうに飛んできた爆弾矢を土の隆起で阻止する。


 突風、爆発、土の隆起、いかれた状況が俺たちをハイにする。


「ところで奴ら遠視の魔法使ってるなら、これはどうかな、閃光玉!」


 ツィがあたり一面を眩しく染めると矢の嵐の勢いが収まる。やはり目がつぶされるとうまく指揮が取れないらしい。


 そんなこんなで俺たちは砦の門まで到達する、門はガイアが閂を花に変えてあっさりとあけた。


 中に入るとインダストの兵士たちが狼狽えながらも剣を抜いてかかってこようとする。


「サト、ガイアをできる限り大きくして!」


 その折、ツィが俺に命じて、ガイアを最大限まで大きくするように命令する。


「あいよっ、脅しでけりをつけるんだな?」


 俺はチューナーに念じて姉さんとシンクロし、20、30…m台のサイズまで戻るように剣に祈る。


 それを見たインダストの兵士たちは剣を抜くことを忘れ、茫然とそのガイアに見入っていた。


「我は緑騎士ガイア、インダストの指揮官に告ぐ、われらは汝らに危害を加えることは望まない、速やかに武器を捨て、撤収せよ、さもなくば、この巨体と大地の力をもって全てのインダスト兵を打ち滅ぼさん」


「ひっ、緑騎士……」


 インダストの兵士の一人が剣を捨て、即座に出口に向けて駆け出し始める。


「た、戦うのは俺たちには無理だ、ここは逃げよう」


 兵士たちは次々に逃げ出し始める、中隊ほどもあった規模の兵士らが蜘蛛の子を散らすように。


「こら、おまえたち、戦え、戦わぬか!」


 その中で、一人、檄を飛ばしてる人間がいた。おそらくはこの中隊? の隊長……


 俺はスーッと近寄ると、きっちりと身柄を確保しておいた。


「な、なんだ貴様は、む、むぐ、むぐむぐ」


 俺は軽めに手足を拘束させてもらうと、ツィに面白いの確保したぞーと伝える。


「ツィ、何か事情知ってるかもしれないし、捕虜を一人確保しておいてもいいか?」


「情報収集にはいいかもしれないし、一人二人はやっておこう、お願い」


 ツィは兵士たちの動向を見守るので手いっぱいなので反応が薄いが、とりあえず認めてくれたようだ。


「人道的にね」


「うぃうぃ」


 こうしてワームの砦の攻防戦は幕を下ろした。


 そして誰もいなくなった砦での夜、俺たちは中隊長どのを囲んで食事、及び尋問の時間としゃれ込んでいた。


 連中の残していった糧食とキッチンがあるので今日の食事は割とリッチだ。


 ツィは料理を作りに、俺はツィの手伝いがてら、尋問の様子見。


「貴官の所属、名前は?」


 ガイアがさらさらとレポートをまとめる。


「インダストツィスィ侵攻軍中隊長ピーター=ピート」


 中隊長殿はふてくされた様子も見せず、質問に答えていく。


 生まれも育ちも兵士の家系らしく、その出で立ちや敵を前にしても臆さない豪胆さがありそうだ。


 体格は俺より小さいが、経験は豊富そうで、人を任せられる仕事をしてきたのか、俺とはまた別のところでまたこいつも戦士なのだなといった風格を感じさせられる。


「この地方にいるインダストの兵士の配分比率、および構成は?」


 ガイアがいきなり切り込んでいく。


「お答えできません」


 中隊長殿は当然のごとく黙秘権を行使する。


「当然だな」


「……拷問か魔術にはかけないのか?」


「かけてほしいならかけるが、私たちの趣味ではないのでな」


 中隊長殿はほっとしたように、しかし尊敬したようにも、笑いかけている。

「甘ちゃんだな」


「甘ちゃんで結構、姫様の方針だ」


「いいお姫様だ」


「だろう?」


 ガイアが胸を張る。


 そうして、確認し終わって、最近のインダストの事情について差障りのない程度に伺ってると、ツィが食事を運んでくる。


 分厚いベーコンエッグ、コーンポタージュ、レタスとパプリカとキャベツのサラダ、ライ麦のパン、水たっぷり。

 きっちり4人分。


「捕虜の扱いは対等に、ね」


 じゃあいただきます、と勝手に貪り食おうとする中隊長をぺしんとたたくツィ。


「みんなでいただきますがまだでしょ!」


「そこまで対等ってわけですか!」


 中隊長殿が突っ込みを入れてくる。


「仲間じゃ無いんですよ、私は、それなのにですか…!」


 とぶつくさ言いながらこちらに向かって凄んでくるが、ツィが。


「当然!」


 と指先を突きつけるとともに、仕方なし、といって諦めたようだ。


 俺たちは手を合わせると声を合わせる。


「それじゃあみんなで、いただきます」 


 そして一斉に手を付ける俺たち。


「うんうん、やっぱり貯蔵庫があるだけあってごはんがおいしいねえ」


 ツィが料理の味が携帯糧食とは一味違うと唸る。


「だろう。うちの部隊は食事は士気にかかわるってんで気を使ってましたから、ま、それを発揮することなく負けちゃいましたが」


 悔しげに中隊長殿は語る。


「いや、爆弾矢への切り替えは見事だったぞ、普通の人間だったら殺せただろう」


 ガイアがフォローを入れる。


「普通の人間だったらって、それフォローになってるのか?」


 俺は思わず突っ込んでしまう。


「まー、あんたら相手なら負けても仕方がないさ実質、無血開城とはなぁ、しかし聞いてなかったぞ、こんな3人組が来る情報なんて」


 中隊長殿は忌々しげに自軍の伝令はどうなってるんだと語る。


「え、聞いてないの、思いっきり目的地のルート上だったんだけど」


「ああ、侵攻があるかもという話すらない、どういうことだか」


 まったく訳が分からないよと中隊長殿は語る。


「ちなみに、白騎士、機械兵、機械杖、あの方、とか、その辺に心当たりはある?」


「全くない」


「本当に?」


 俺がうそをついてるんじゃないかと目を細めて聞くと、中隊長殿は慌てて否定する。


「本当に、知らない、そんな話聞いたこともない」


「まぁいいわ、私たちはこれからテールナに向かうの、あなたも捕虜としてついてきてもらうわ、私たちの行動や考えがばれたら困るから、そこである程度たったら解放させてもらうわ」


 ツィは立ち上がると中隊長殿の体に何か印を押していく。


「裏切ったりするとわかるように危険な思考が私に伝わるようにしたわ、ちょっとの間辛抱してね」


「危険な思考ね、普段は問題ないのかい」


 中隊長殿がツィに尋ねる。


「逃げ出そうとかこちらに害をなそうとしない限りはね」


「破ったら?」


「……即死」


 伏し目がちに呟くツィ。


 俺は思わず、怖っ! と叫んでしまった。でもそれぐらいじゃないと抑止力にはならないか。


「りょ、了解した」


 中隊長殿はおっかなびっくりながらも、その印を受け入れ、俺たちの旅の一時の同行者となった。

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