巨乳娘と童貞男
考え事をするうちに腹が立ってきた。
仁志の奴~! あいつが優柔不断だから悪いのよ!
「そうだ! ぜ~んぶっ仁志が悪い! 優柔不断男! 朴念仁の甘ったれの甲斐性なしのマザコンのっ――ぶっ!」
2段ベッドの上に寝転がっていた私は、怒りについ起き上がってしまい天井に頭をぶつけた。
「黄蝶さ~……あんた馬鹿なの? ここ数日だけで何回頭ぶつけてるんだか。それに、何で仁志がマザコンなのよ? そもそも母親がいねぇし」
1才年下の小学5年である妹の藍燐が自分の机に座って、うるさそうに私に文句をいった。
「うっさい! あんたは黙ってその気持ち悪いエロ本読んでろ!」
「エロ本って言うな! BL漫画くらい今どき皆読んでるっつ~の! 読まないと会話に付いていけない訳よ。分かる? 仕方なく読んでるの!」
その割にはニヤニヤしているが……。
藍燐は漫画ばかり読んでいて、宿題以外の勉強を自主的にしているのを見た事が無いが、成績はトップだった。
「何でそれで成績良いのか意味分からないし。恋に悩む姉を前に毎日漫画読み腐りやがる意味が分かんないし! 仁志が私に告白して来ない意味が全然分かんないしぃ!!」
「八つ当たりも甚だしいし……あのさ、仁志がそんなに好きなら黄蝶から告ればいいだろ! もっとも絶対フラれるだろうけど!」
「なんでっ私から! 素直に仁志が私ぃにぃぃ~ああぁぁっ」
ベッドから乗り出しすぎて落下した。その際、下の段の淵に頭を激しくぶつけた。目から火花が出るとはこの事か……
「はぁ……じゃぁ窺いますけど! 仁志はもう高校生だよ? 高校生が何が悲しくて胸もない小学生女子に告るのよ?! まして、義理とはいえ一応、仁志はあたし達の兄貴なんだよ?! その兄貴が胸の無い小学生女子の義理の妹に告白してくる?? はぁ? それこそ意味が分からねぇ~っつうの!」
そう言って読んでいた漫画を机に叩き付けた。私は強打した後頭部を摩りながら叫んだ。
「にっ2回も胸無いっていったなっ! 藍燐よりはあるわよ! それに仁志は私の胸を可愛いって言ってくれたわ」
「あのね? 何度も言いますけど。それはドレスを誉めただけでしょう? しかも無理やりワンピの胸元開けて自作して『どう? どう? セクシー?』って迫れば仁志なら可愛いって言うっつの!」
――姉妹だけに異様に似ている自分の物真似がムカ付く!
私の趣味は裁縫だ。買ってきた洋服は殆ど自分の手を加える。
それにさ。と続ける藍燐。
「仮に告白してきたとしてだよ? もう仁志完全に変態だよね? 小学生に告白って、ロリコン以外の何者でもないじゃん。黄蝶はそれでいいわけ? 成長したら興味無くなっちゃうんだよ?」
目をむいて言う藍燐の台詞に言葉が無くなる私――更に続ける藍燐。
「黄蝶だって分かっているだろ? 仁志は雪絵さんが好きなんだよ、見ればバレバレじゃんか。巨乳女子大生&イケメン男子高生! どう考えても黄蝶の出番は来ませんな!」
そう言ってクルリと椅子を回して机に向かうと漫画の続きを読み始めた。
まったく、何処まで読んだか忘れちゃったよ。なんて言っている藍燐の背中が涙で滲んで見える。
雪絵さんは仁志の幼馴染で途中からこの家に貰われた私達姉妹より、ずっと仁志との付き合いが長い。
「雪絵さんなんて……付き合いが長いだけで……」
「萌えキャラ幼馴染。それに、巨乳! 更に美人!!」
私の言葉を遮って言う藍燐。
天才肌の藍燐は普段頼りになる。勉強はすでに高校受験の問題集も解いてしまうほどだし、格闘ゲームは異常に強いし、読んだ本(注:漫画)の台詞は1度で暗記するという超能力みたいな技も持っている。姉の私が藍燐に勝てるのは彼女の弱点であるスポーツでだけだ。
それだけに、目的に向かっての攻略を立ててもらう事が多々あるのだが、仁志の事になると何度相談しても、解決方法を示してくれない。
「藍燐ちゃん……何か方策考えて……」
「未来に期待! 何度も言ってるだろ! 他に策は無い!」
こうして、いつもの結論が出た時だった。玄関から声がした。
「こんにちは~! 2人共ぉいるでしょ~? 始めるよぉ!」
私のライバルであり、私達姉妹の家庭教師でもある雪絵さんだった。
週に2回雪絵さんに勉強をみてもらっていた。
「はぁ……またあの巨乳を見せ付けられるのか……」
「黄蝶はちょっと真面目に勉強しとかないとやばいよ?」
……う、言い返せない。
いつものように勉強道具を持って、キッチンの大きなテーブルへ向かう。
「わ~。黄蝶ちゃん~今日も可愛いね~その服のフリルもぉ自分で付けたの? 凄いな~私には出来ないなぁ~」
相変わらずのノンビリした話し方に、イライラしながら返事をした。
「どうも!別に簡単だよこんなの。とてもとても雪絵さんのオッパイには敵いません」
「えぇ……胸は、関係ないじゃないょ~」
胸元を押さえて口をすぼめる雪絵さん。
――ぐっ! 可愛い! 畜生!――
「そんな事よりぃ~、私の出した宿題、ちゃんとやったぁ?」
私は勢いよく座ると出されていた宿題の<小学6年生算数>と書かれたドリルを出した。藍燐も同じく出しているが表紙には<高校入試の為の数学>と書かれている。
ちなみに雪絵さんも私達の家庭教師を請け負うくらいなので、大学の成績は上位なのだそうだ。その雪絵さんが話し方からは想像も出来ないスピードで答え合わせをしていった。
「うぅ~。藍燐ちゃんにはぁ……簡単過ぎたかなぁ。もう高校LVに上げちゃってもいい頃なのかなぁ~う~ん」
藍燐のに続けて、私の宿題を見る。
「え~っと……黄蝶ちゃんはぁ、もうちょっと掛け算をおさらいしようかぁ。やっぱりぃ、掛け算間違っちゃうと、駄目よねぇ」
ぐっ……! 何か一つでもこの女に勝てる事が欲しい!
顔を赤くしている私を見て藍燐が溜息を吐いてから言った。
「あたしの勉強はそんなに進まなくていいからさ。黄蝶に集中してあげてよ。黄蝶は最近上の空だからさ……いや――いっそ空の上かな。もう、勉強してても雲の彼方へ思考が飛んでっから」
「ははは、空の上かぁ~。仁志君の事かナ? 大丈夫だょ~黄蝶ちゃん可愛いもん。それこそ空の上の天使様みたいにね。きっといつか彼にも黄蝶ちゃんの魅力が分かるよ~ぉ」
私は今すぐあんたに勝ちたい! 絶対、仁志に告白されてやる!
「天使様で~思い出したけどぉ。昔、仁志君は私の事を天使様って呼んでいたんだょ! 可愛かったなぁ~へへへ」
……何だと! 初耳だぞ。
藍燐が怒りに震える私を横目に聞いた。
「つまりそれ程、雪絵さんが好きだったって事?」
「ううん。そう呼べって言ったのぉ。さすがに中学くらいから呼んでくれなくなっちゃったけどぉ~懐かしいなぁ。6歳の頃から私を神聖視する様にぃ仕込んでいたのよぉ~。男に揉まれると胸が大きくなるってぇ聞いてぇ、何度も小さかった仁志君に揉ませたわ~ん。」
「………………」
姉妹で思い切り、ドン引きした。
1人思い出して身悶えする雪絵さんの胸が、暴れ狂っている。私はそれをみてイラ付いて言った。
「雪絵さんが変態だったとは、知らなかったよ!」
「あらぁ心外よ。私は仁志君の秘密を知っている・だ・け♪」
秘密? と姉妹でハモって聞いたが、内・緒♪ と返された。
私は怒りに任せて言う。
「そっか! だから仁志はそれがトラウマで巨乳が嫌いになったんだきっと! 幸恵さんのオッパイは人間離れしてるもんね」
「あらぁ、彼は喜んでいたわよ?」
「彼とか言うな! その胸はもう1日2回搾乳しなきゃいけないレベルだと思うな!」
「人をホルスタインみたいにぃ~言わないでぇ! それに、私の胸が大きくなったのは、仁志君のお・か・げ」
「そんな都市伝説で巨乳になるかっ! そのオッパイから出る母乳ビームには絶対放射能が含まれてる! 雪絵さんのオッパイは出荷停止処分に処されないと、日本の男子の危機だよ!」
「ちょっとぉ~母乳なんて出る訳ないでしょう? それにぃ~放射能はぁ~太陽光線にもぉ~……」
「あ~! もうっイライラする! どれだけテンポの悪い突っ込みなのよ?! 自分のボケの内容も、しまいにゃ忘れるよ!」
「とにかくぅ~仁志君の秘密がぁ~ある限りぃ……」
そこで玄関の扉が開く音がした。続いて、入れよ。と言う仁志の声が聞こえる。2人分の足音が2階の仁志の部屋に上がって行く音が響く。それから、すぐに一人で階段を下りる音がしてキッチンへ仁志が顔を出した。
「お、雪絵さんコンチワ。今日家庭教師の日だったんだ」
「そうよぉ~。お友達が遊びに来ているの?」
う、うん。と赤面して冷蔵庫の麦茶をグラスに入れている。
そして、おもむろに幸恵さんは言った。
「彼氏ぃ~?」
「…………まぁ、そうです……」
目をむいて固まる私達に向かって、幸恵さんがウィンクした。
――こうして私の初恋は終焉した――




