プロローグ 4
その日も、青年は休日であることを活かして日がな一日VRMMORPG――“トワイライト・ゲート・オンライン”を楽しむつもりで、その装置を被った。
一人暮らしの青年は、一日中ゲーム三昧であっても問題はないと言えた。
これ――“トワイライト・ゲート・オンライン”は、夢の様なゲームなのだ。平日の限られた時間だけで楽しむだけでは、物足りない面白さを感じていた。そんな彼としては、こうした機会を逃すつもりはなかった。
だが、そんな彼にも予想出来ないことなぞ、存外そこここに転がっているものなのだ。
青年がゲームにダイブして小一時間も過ぎようかと言う頃、彼の住む部屋の扉の鍵が外される音が鳴った。
次いで、その扉は開かれ、部屋に向かってひときわ大きな声が投げかけられる。
「お~い、***!……もう起きてるの?」
そう言って部屋に入って来たのは、中年と呼ばれる年代の女性――青年の母親であった。彼女は度々、彼の部屋を訪れて掃除等をしていたのだ。
そんな彼女が目にしたのは、奇妙な機具を被り寝台に横たわった青年の姿だった。そんな彼の許に歩み寄る。
「もう、また変なことをして……」
呆れた様子の彼女は、寝台に横たわる息子の許へと近付くと、彼の被る機具に手を伸ばす。
彼女は特に機械やゲームに関して指して興味がある訳でもなく、VRゲームを題材としたライトノベル等を読んだこともない様な人物であった。
故に、無造作にヘルメット型の機具を半ば引き剥がし、再度彼に向かって声をかける。
そんな彼女は知らない。その行為が、どの様な結果を齎すかを……
+ + +
一方で、“ミストレス・ハウス 二号店”のカウンターにて、“トワイライト・ゲート・オンライン”の世界へと飛び込んでいた女性――“ねこ”の許に、店の奥より三人の少女達が駆け寄って来た。
「「「おはよう、ママ!…………?」」」
元気良く自身の母に向けて声をかけた少女達だったが、その声をかけた母の反応がないことに気付き、三人ともが一斉に首を傾げる。
「「「……ママ……?」」」
一頻り首を傾げていた少女達だったが、その中の一人が彼女の傍らにある装置へとその関心を移した。
「「……テンコ……?」」
その少女は、テンコ――“ねこ”の二番目の娘に当たる。彼女は白い眉の眉頭の辺りから伸びる触角を母親の傍らに置かれた機器のケーブル接続部に近付けつつ、姉妹達への返答を口にする。
「ママがどんなゲームをしてるのか見てみる」
「「おぉ……!」」
白眉の少女――テンコは、雷猫の娘でもある。母や義姉である“たま”の薫陶を受けて、電子機器の情報を読み取ることが出来る。そう言う訳で、彼女は偶に母が持っているゲームをこの様に覗き込んだりしていたのだ。
「どれどれ……」
そう言って、テンコは額の触角を機器の接続部に触れさせる。次の瞬間……
――バチッ!――
「……痛ッ……!」
少女が伸ばしていた触角と機器の接触部付近で小さな火花が飛び、当の少女が悲鳴と共に跳び退る。
「ど、どうしたの?」
「大丈夫、テンコ?」
尻餅を付いた格好となった姉妹の許に残る少女二人が近寄る。
「……アイタタタ……うん、大丈夫、大丈夫……」
姉妹の言葉に答えたテンコは、そう返事をしつつ立ち上がる。そんな彼女の視界に、母が愛用するPCのモニターの表示が映り込んだ。
「…………え……?」
そこに映し出されたのは、“System Error”と言うアルファベットであった。
※注意※
・ “トワイライト・ゲート・オンライン”専用機器(以降、本品)を使用中に、ログアウト処理を経ずに本品を使用者から取り外さないで下さい。
・ 本品を使用中に、停電等による電源の切断や周辺機器のフリーズ等による不具合が生じた場合、当方での保証は致しかねますので、御了承下さい。
(VRMMORPG“トワイライト・ゲート・オンライン”取扱説明書より抜粋)