プロローグ 2
「……このままでも、良いんですよね?」
「…………はい……何とかさせて、頂きます……」
何もない茫漠たる空間の中、二人の女性の間で一つの決着が付いた。
彼女等の間に浮かぶモニターには、猫耳と猫尻尾を持つ黒髪白皙碧眼の女性――“ねこ”の姿が映し出されている。普段の擬装用の茶色い瞳ではなく、本来の金属光沢を秘めた緑の瞳を持つ姿が映しだされたモニターの右隅に位置するAPの欄には、-300前後の数値が表示されている。
本来なら0以下の数値となる様なステータスの割り振りは出来ない筈なのだが、諸般の事情から初期値が-350であったことや、“ねこ”とスーツの女性――ミキが旧知……と言うか、ミキの側に多くの負い目があったこと等が作用して、“ねこ”の要求は概ね受け入れられる結果となった。
「……特例の措置と言うことで、アバターの作成は50時間程度を要すると思われます。このことは、御了承下さい」
幾分憔悴した様子で、彼女――ミキは“ねこ”に向かって言葉を紡ぐ。
「それぐらいは、全然気にしませんよ……それじゃあ、よろしくお願いしますね♪」
対して、“ねこ”は嬉々とした様子で彼女に向けて言葉をかけた。そうして、“ねこ”は現実世界へと立ち戻った。
* * *
「「「…………」」」
ヘルメット型ディスプレイを脱いだ“ねこ”は、自分を取り囲む娘達の姿を目にすることになった。
黒髪に白皙の肌、黒いエプロンドレス風の洋服を纏うその姿は、“ねこ”を幼くした様な容姿をしている。勿論、猫耳と猫尻尾もキチンと付いている。そんな少女達の瞳や表情からは、溢れんばかりの好奇心が窺えた。
自分を見詰める娘達の姿に若干引くものを感じつつも、落ち着いた声音で言葉を紡いだ。
「どうしたの、貴女達……?」
「ねぇ、ママ……それってゲーム?」
「どんなゲーム?……どんなゲーム?」
「あたし達も遊んでいい?……遊んでいい?」
口々に飛び出る娘達の言葉を遮る様にして、大声を上げた。
「駄~目……!
これは、ちょっと調べて貰わないといけなさそうだから……それまで、貴女達は弄ったり、遊んだりしないこと!」
「「「えぇ~~!」」」
“ねこ”の言葉に、三人の少女達から不平の声が上がる。
「何と言っても、駄目と言ったら駄目……!」
そう言いつつ、彼女はその瞳の色を、普段の焦茶色から本来の緑色をした猫の瞳へと一瞬戻して見せる。
「「「…………!」」」
それだけで、娘達は恐怖で尻尾を膨らませて黙り込んだ。
(さて、このゲームにミストレス・グレイが絡んでいるのは間違いなさそうだし……明日にも“たま”ちゃんを呼んでみるか……それとも、ミストレスに連絡を入れて、“ひぃ”さんの協力を求めた方が良いかなぁ……?)
身を縮こまらせる娘達を目にしながら、“ねこ”は早めにこの機器の解析を依頼しなくてはと思い巡らせていたのだった。
そして、今回も主人公未登場……(苦笑)
今回は少しばかり登場人物の紹介を……
+ + +
・ ミキ(茶羽 御器)
(自称)長科学研究者ミストレス・グレイに仕える秘書的な役割を務める女性。ミストレス・グレイに仕える者達の長姉的存在でもあり、生真面目で礼儀正しい性格をしている苦労人。
その正体は、昔々にミストレス・グレイが虫取り罠で捕まえた御器被から生まれた虫の化身。
ファミリア・ランク:C+
・ ねこ(黒木 美猫)
魔女ミストレス・キリクに仕え、“ミストレスハウス二号店”の会計・料理担当を務める女性。どこぞ乙女ゲームみたいな境遇を経た結果、四姉弟に恵まれている。
その正体は、とある事情でミストレスに仕えることになった元人間な猫の化身。
ファミリア・ランク:C-
・ こう(飛夜 蝙治)
魔女ミストレス・キリクに仕え、“ミストレスハウス二号店”店主にしての飲料物・音楽担当を務める男性。一見粗野な言動の反面で気配りの効いた性格をした苦労人。
その正体は、とある事情でミストレスに仕えることになった元人間な蝙蝠の化身。
ファミリア・ランク:B-
※“こう”を空気……にしようとちょっとばかし思ったのは内緒にしたい話……(笑)