ぷろろーぐ
突発的に思い付いた話ですが、一話毎が短く、更新は不定期になる可能性が多分にあります。
「遂に実現! 全感覚対応仮想現実によるMMORPG!!」
「その名は、“トワイライト・ゲート・オンライン”!!」
「画期的なシステムを利用して高いリアリティを実現! 異世界での血沸き肉躍る冒険が貴方の許に!!」
「現在βテスターを募集中! βテスターに当選された方には、専用ハードウェアを無料進呈中!!」
広大なインターネットの片隅の掲載されたとあるホームページに、この様な何処か胡散臭さの漂う文言がド派手なレイアウトとともに掲載された。
ウソかホントかとネット上でも一時期話題となったものの――二十一世紀初頭のご時世に、VRMMOが実現と言う煽り文句が眉唾物もいい所と言う訳で、多くの者達がまともに相手にすることなくこの話題も風化して行くものの一つとして消えて行った……
しかし、そんな眉唾物の代物に飛び付いた者がいない訳ではなかった。
* * *
アパートの扉を叩く音に、青年は立ち上がり、玄関に向かって歩みを進めた。
玄関の扉を開けた彼の前には、有名な某宅配業者の制服を纏った人物が立っていた。
配達員の快活な声に対して、青年は幾らかの言葉のやり取りと交わした後、段ボール製の小箱を受け取った。
配達員を見送った青年は、小箱を手に部屋の奥へと引っ込んで行く。そんな彼がやって来たのはパソコンが置かれた机の前――小箱を机の上に置き、早速その箱を開封する。その箱の中身は、頭をスッポリ被るヘルメット上の器具と、その器具やパソコン等に接続するであろう各種器具であった。
青年は、件の怪しげなHPに記載されていたVRMMORPGのβテスターに応募したのだった。
「……ホントに届いたよ……」
半ば呆れ混じりに青年は呟きつつ、小箱に同封されていた説明書に目を通しながら、梱包されていた器具をパソコン等に接続させて行く。
そうして、機器の接続を終えた彼はヘルメット型の器具を被り、器具の電源を入れて立ち上げた。
* * *
ヘルメット型ディスプレイを被り、システムを起動した彼が目を開ける、その対面にはスーツ姿の女性が立っていた。
「VRMMORPG“トワイライト・ゲート・オンライン”のβテストへのご参加……ありがとうございます」
そう言って深く首を垂れるその女性は、地味なベージュ色のスーツを纏い、ちょこんと触手の様に伸びる二筋の前髪が特徴の人物であった。
そんな彼女以外何もない空間の中で、彼女は更なる言葉を続けた。
「これより、アバターの作成を行います。お手元のモニターをご覧下さい」
その声と共に、彼の目の前にSF物でよく登場する様な虚空に浮かぶホログラムらしきモニターが出現する。
彼は現れたモニターへと目を落とした。そこには、彼自身の姿が映し出されていた。
このモニターの中央に彼の姿が表示されており、その左右にはアバターのステータス情報らしき数値などが表示されている。
モニターに目を落としている青年に向けて、先程の女性より言葉が紡がれる。
「ご覧になっているモニターには、今現在の貴方のアバターが持つ容姿やステータスが表示されていおります。
モニターの右上部分に表示されているAPと言う数値をご覧下さい。その数値を消費することで、各種ステータスの数値やアバターの容姿を変更することが出来ます」
女性の説明を聞いた通りに、モニターの右隅にはAPと称される箇所があり、そこには100と言う数字が規されていた。 それを目にして、彼はこの数値を元に、タッチパネル式だったモニターを操作して自分のアバターのステータスや容姿を変化させて行った。
幸いにして、変更のやり直しは可能であった。お蔭で彼は、かなりの時間を費やして自分のアバターの調整を行ったのだった。
* * *
「よし!……出来た」
相応の時間をかけ、彼は満足の行くアバターを完成させた。そんな彼の様子を静かに見守っていた女性は、その声に反応して言葉を紡ぎ出す。
「お疲れ様でした。出来上がったアバターを見せて頂けますか?」
その声に、彼は思わずと言った態で頷きを返した。すると、モニターは彼女の手元へと滑る様に移動して行った。
女性はモニターに表示される情報を見詰めていた。一頻りモニターに目を落としていた彼女は顔を上げ、青年に向かって軽く微笑んで言葉を続けた。
「問題は無いようです。これでアバターの作成作業は終了しました。
申し訳ありませんが、アバターの登録の為に18時間程度の時間を要します。一旦、機器の使用を中断して下さい。アバターの登録が完了しましたら、申込みの際に使用されていたメールアドレスへ連絡させて頂きます。
それでは、失礼致します」
そう言って、女性は再度深々と首を垂れた。そんな彼女を見詰める内に、彼の視界は次第に暗転して行った。
そして、現実に戻った青年は、約18時間の後にヘルメット型ディスプレイを被ることになる。
そんな彼を待っていたのは、正に“異世界”と呼べる世界だった。