のんきにいい夢(?)見てんじゃねぇ!
草を掻き分け、木の陰から出てきたのは、膝より長く伸びる白衣を着た少年だった。
あちこちに跳ねた寝癖のような、濃い緑色のくせ毛。眠そうな目元。半開きの目の中の蒼い瞳は光すら映しておらず、まるで海の底のようだ。背は俺より少し低いぐらいだろうか。
そして、首にはエメラルドのような色の球がついたペンダント。
つまり、アースワールドから召喚された勇者だとわかった。
「誰……?」
少年はだるそうに口を開いた。
「俺は不知火時雨。この倒れてるヤツは、フィニア・アルディートだ」
軽く自己紹介をする。
「……合歓木宵春」
少年も短くつぶやいた。
合歓木宵春……? どこかで聞いたことがあるような……。
…………。(5分ほど沈黙)
気まずい! こいつぜんぜんしゃべらないからなんか気まずい! とりあえず、この世界とか勇者のこととか説明しないといけないんだよな!?
なんかこの状況だと言い出しづらいし、まずはフィニア起こすか……。
「おい、フィニア。起きろ」
激しく揺さぶっても起きる気配がない。それどころか、
「もう食べられないよぉ……」
とか典型的な寝言言ってる。お前は気絶したんだよなぁ!? のんきにいい夢(?)見てんじゃねぇ!
もっと激しく揺さぶる。すると、
「あれぇ? もう朝ぁ?」
と、寝ぼけてはいるが起きた。とりあえず、口元のよだれを拭え。
「おぉー、シグレ。おはよー」
「『おはよー』じゃねぇ、もう昼だぞ」
時間的なあいさつの間違いを指摘する。
「寝過ごした!?」
「違ーよ!!」
「ああーっ! ご飯6回も逃した!!」
「だから違う――ってご飯の回数多くない!?」
「昨日の昼、おやつ、晩、夜食、今日の朝、昼よ」
「食いすぎ! 昼食ってたじゃん! ってか、おやつもカウントすんの!?」
「あたりまえでしょ」
「あたりまえじゃねぇ!」
「ああもう、こんなことしてる場合じゃない!」
「そうだぞ、宵春に説明しないと――」
「5回分のご飯食べなくちゃ」
「食うな! まだおまえが気絶してから5分しか経ってねぇ!」
「正確には7分38秒よ」
「知ってんならボケんな! つーか正確すぎる!!」
「だってそのほうが面白いし」
「面白がるな!!」
ちなみに、宵春は地面に寝ていた。
「おまえも寝るなぁぁぁぁぁっ!!!」
■ ■ ■ ■
「――――ということで、あなたも私達についてきて」
「……ふぅん。……いいよ」
フィニアが宵春に全てを説明すると、すんなり理解したようだ。
「で、ここは?」
前言撤回。理解してないな。
そのとき、変な気配がした。
「! なんだ……?」
まわりの草木が急速に枯れていく。腐敗して倒れた木の向こうから、男が現れた。
「見つけた。アガリアレプトを倒した男」
悪魔だった。