もしかしてデジャヴですか?
鬱蒼と茂った森。その薄暗い森の中を、俺達――不知火時雨とフィニア・アルディートは歩いていた。
「おかしーなぁ……この辺に反応あったんだけど……」
現在俺達は、俺と同じく勇者としてこのイマジンワールドに召喚された7人のアースワールド人を探す旅をしている。
どうしてそんなことしてるのかっていうと、話は数時間前に遡る――――。
■ ■ ■ ■
俺達はアガリアレプトと名乗る悪魔を倒した。
「す……すごい!悪魔を倒しちゃった…………!」
フィニアは歓喜の声を上げている。ああそうさ。俺もびっくりだ。あれだけなりたかった剣士になって、敵を1人倒したのだから。
「じゃあ、早くここを離れよう、シグレ」
「え?」
反射的に声が出る。
「アガリアレプトを倒したことがあいつらに知られたら、また別の悪魔が襲ってくるよ」
「……そうだな」
わからないことばっかりで困っているのだが、ここは素直に従ったほうがいい。
あんなのがまた来たら、今度は勝てるかわから――――
「……シグレ!?」
視界が歪み、地面が反転した。
急に足の力が抜け、体重を支えきれなくなって俺は地面に倒れたのだ。
うぅっ、頭が痛い。
その痛みは地面に打ちつけたのが原因ではなく、疲れか何かが内側から襲ってきたかのようだった。
心配そうなフィニアの顔が、じわじわとぼやけ、ついには見えなくなった。
「シグ……!大……夫!?ねぇ――」
声もだんだん聞こえなくなり――――
俺は気を失った。
■ ■ ■ ■
「ねぇ……シグレ……大丈夫……?」
ああ、この感じ。前にもこんなことあったなぁ……。背中に圧迫感、というのは前と違うが。もしかしてデジャヴですか?
…………いや、違う。これは――――。
目を開けると、すぐ前に綺麗な2つの碧眼があった。涙で潤い、エメラルドのように輝いている。その少し下、彼女の口元を見ると、まるでキスをする寸前のように軽く開かれている。俺の上にパラパラと零れた金色の髪と彼女の口から時折り出てくる甘い吐息が、俺の鼻腔を刺激する。
俺の顔とフィニアの顔の間の空間は、10cmも無いだろう。鼻と鼻が触れ合うぐらいに――――
「――――って近ッ!!?」
ゴツン!!
「「痛ったああああああああぁぁぁぁぁ!!!!!」」
俺達は同時に叫ぶ。
「もー!急に顔上げないでよっ!」
フィニアが目を><にして、赤くなった額をさすりながら講義する。
「おまえが近すぎるからだろうがッ!」
俺も必死になって怒鳴る。
「だって、シグレが急に倒れるから『ジンコウコキュー』してあげようと思って……」
『ジンコウコキュー』の部分の発音が少し変だったので、たぶんこの世界には『人工呼吸』というものはないんだな、と俺は推測する。
そして、彼女は続ける。
「アースワールドでは倒れた人に『キス』するって習慣があるんでしょ?」
「ねぇよ! んな習慣ッ! ってか習慣って何! 毎日人が倒れてるみたいじゃん! つかいま『人工呼吸』がどんな単語のルビだった!? 人助けのはずがただの犯罪者になるわッ!! んなこと誰が教えたんだよ!!」
「だ、大丈夫? シグレ?」
あんた頭がおかしいの? みたいな目で見てくる。やめろよその目。トラウマ思い出すじゃねぇか。そう、あれは2年前――――ってやめろやめろ。
頭を振って忘れようとする。そして、
「あ、ああ。ちょっと頭が痛いだけだ」
俺は自分が大丈夫なことを伝える。
「なんだ。力の使いすぎね」
力?力ってあの、イマジネーションなんとかってやつのことか?
「そういや俺何も知らないんだけど。説明の前にあいつが襲ってきたしな」
「あ、そうだったね。じゃあ今から教えてあげる」
そう言うと、フィニアは俺の顔を軽く掴み、俺の額に自分の額をくっつける。
甘い吐息が顔にかかり、すぐさま顔が熱くなった。
「ななな何をするん――」
「静かにして」
「はい……」
言われたとおりに静かにしてると、フィニアは呪文を唱えだす。
「The memory about this world of mine is given to you …… 」
すると、額の触れ合っている部分が光りだし、大量の何かが流れ込んできた。これは――――記憶? イマジンワールドについての記憶と情報が流れてくる。大量の記憶の渦は、まるで嵐のように脳内を埋め尽くしてゆく。やがて記憶の奔流は徐々に消えていき、それに比例するように、額から溢れる光も弱まっていった。
光が消えると、フィニアは顔を離した。
そして、俺の脳内で記憶の再生が始まった。