なるほど。まるでチートだな。
「こ……これは……?」
俺の両手には、想像した2本の剣『不死の炎の刀剣』(消えない炎が相手に襲いかかる的な設定)と『不溶の氷の刀剣』(溶けない氷が相手を永遠の眠りへと誘う的な設定)の柄が握られていた。
つーかネーミングセンス無さすぎだな、俺。設定思い出すたび恥ずかしさがこみ上げてくるわ。
どうでもいいことであるが、この2本の剣は俺が中2のときに考えたものだ。中二病真っ盛りな時期であったため、こんなイタイ名前なのだ。名前を変えようと思えば変えることもできるのだが、これも一種の『思い出』というやつだ。変えるつもりは毛頭ない。
前を見ると、光の壁に弾かれて手から大量の血を流したアガリアレプトと、言うとおりにした俺を見て笑みを浮かべているフィニアの姿がある。
剣を出現させた俺を見て、アガリアレプトは驚きを隠せない様子だ。
「何……!?『想像具現化設定』が使える……だって!?」
それを聞いて、俺は吹き出した。
「はははっ! 何だその名前! 中二病かよ!」
すると、
「あぁ? 馬鹿にしたな? ……テメェ殺す」
口調が豹変し、アガリアレプトは地を蹴って跳んできた。すごいジャンプ力だ。だが今の俺の敵じゃないね。
俺は『不死の炎の刀剣』を自分の前に、敵の跳んでくるタイミングに合わせて振り下ろす。すると背中にヒットした。重力の関係もあってか、アガリアレプトは剣の勢いに負け、地面に叩きつけられる。血がドクドクと流れ、少しへこんだ地面に血だまりをつくっていく。
にしても、頑丈だなこいつ。普通死ぬだろ、斬られたら。やっぱり、こいつは人間じゃないのか?
そのとき、斬った部分がいきなり発火した。俺は急な出来事にビクッ!と震えてしまう。そして、こういう設定だったな、と思い出す。
だが、アガリアレプトは熱がる素振りも見せずに立ち上がる。
「こんなもん効かないよ。僕たち悪魔には」
「どういうことだ?」
そう訊いたとき、フィニアが教えてくれた。
「あいつら悪魔には、自然回復力が備わっているの! 並の攻撃じゃすぐ回復されちゃう!」
なるほど。まるでチートだな。
「そういうことだよっ!」
立ち上がり、手に闇のエネルギーの塊みたいなものをつくったアガリアレプトは、それを俺にぶつけようと手を伸ばす。黒球はバチバチと雷のように鳴っている。
それを避けるために、バックステップを駆使して敵の手が届かないところまで跳ぶ。これで……。
だが、黒球は俺の腹に当たった。
「ぐふっッッ!!」
俺は何が起きたのか理解できないまま吹っ飛んだ。
「シグレ!! Catch softly! 」
呪文を唱え、とっさにフィニアが魔法で俺の体を受け止める。
「げほっ……。あ…ありがとう、フィニア」
口の中の血を吐いて、礼を言い、立ち上がる。
「いいよ。こんな目に遭わせて……ゴメン……」
黒球をモロに受け、服を貫通し血がにじみ出ている俺の腹を見て、フィニアは少し涙目で呟く。
「いや、いいんだ。それより……」
何もよくはないが彼女を安心させるためにそう言って、俺はさっき起こったことを考える。
さっき、俺はあいつの手の届かない所まで下がったはず。なのに、どうして当たった?
あいつはあの場所から動いていなかった。手から黒球が離れてもいなかった。なのに……。まるで、奴の腕が伸びたかのような……。
そう考えたとき、またフィニアの声が頭の中で響いた。
【あなたの言うとおり、彼の腕が伸びたの。『想像具現化設定』を使ってね】
な――――マジか――――!?
「お、おい!?『想像具現化設定』って何なんだよ!?どうして腕が…………ッ!!」
そこまで言って、自分の失態に気付いた。フィニアは口で言わずにわざわざ脳に直接語りかけてきた。
つまり、俺が『想像具現化設定』を知らないということをあいつに聞かれてはいけない……。
「へぇ……。やっぱり剣を出したのは偶然だった? まあいいや。ならそこの女が教える前にさっさと殺す!」
アガリアレプトはもう一度、黒球をつくりだす。さっきの2倍の大きさで、2つ。
ヤバイッッッ!!殺される!
俺はもう、死を覚悟した。
そのとき。
【その氷の剣を使って! いくら自然に回復できても、凍らせればたぶん、何もできないはず! だから――】
「了おおお解いいぃぃッ!」
フィニアが言い終わる前に叫び、俺は左手に握られた『不溶の氷の刀剣』を横に薙ぎ、下から斬り上げ、斜めに斬り下ろす。それらの攻撃はアガリアレプトの肌を斬り、肉を断つ。
「ぐああああっ!!」
最後に一突き。
ドスウウウウゥゥゥ!!!!!
突きがきまると同時に、アガリアレプトの傷口から凍りつき始める。
「なぁ…………!?」
氷は、アガリアレプトの言葉を途切れさせた。未だに燃え続けていた背中の炎をも凍らせる。
そして、俺の人生初の異世界バトルは幕を閉じた。