ああ、俺はここで死ぬのか………。
「ぎゃあああああああああああ――――」
バッッッシャアアアアンッッッ!!!
ありえないくらいの音を立てて、俺の体は水面に叩きつけられた。体がバラバラになりそうな衝撃を受ける。運よく下は湖だった! 地面に叩きつけられてグチャグチャになって内臓とかぶちまけずに済んで良かった!
「でも痛てええええぇぇぇぇぇぇっ!!!」
あまりの激痛に叫んでしまう。そして痛みにより動けないせいで、俺は何の抵抗もできずに沈んでいった。はいていたジーパンが、水を吸って重くなっていく。
――――ああ、俺はここで死ぬのか………。どこかもわからない、こんなところで………。くそ……俺はまだ……死に…たく……な……い……。
消えゆく視界の中、なにか……人のような影がこっちに向かってくるのが見えた。
「大丈夫……。私が助けてあげるから……」
そこで、俺の意識は途絶えた。
■ ■ ■ ■
「――――きて……。ねぇ……起きて……」
かわいい声だ。それが俺の、意識が戻ったときの感想だった。静かで暖かく、このまま寝ていたいという気持ちになる。
俺の体は、誰かに抱かれている状態で半分水に浸かっているようだった。いい匂いがする。何かの花の匂いだと直感したが、まだ意識が朦朧としている俺には、何の花だったのか名前が思い出せない。
俺の胸には、布を挟んで何かとてもやわらかいものがつぶれている感触がある。今まで触ったことのないやわらかさ。
「目は覚めた?」
さっきと同じ、やさしい声が耳元から聞こえた。どう考えても女の子の声。そして聞こえてきた位置。
やわらかい感触とあの匂い。俺は、今の状況を少しずつ理解していく。
――――まさか。
目を開けた。俺は女の子に抱きかかえられていた。しかも、すごく密着した状態で。
彼女の肩にあごをのせているので、顔や体は見えていない。見えるものと言えば、肩胛骨付近まで伸びたキラキラとなびく金色の髪くらいだろうか。
いや、少し目線を下にやると、神話などに出てくる天使の羽のようなものがくっついていた。アクセサリーか何かだろうか?
――――つーか、早くこの状況を何とかしないと……!
しかし、離れようとしても背中に腕を回されているので身動きがとれない。
「ああ……あ……あの……えっと……」
俺が慣れないシチュエーションで動揺していると、
「あ、ゴメン!痛かった?」
と言って、彼女は俺を解放した。
「あ…いや、そういうわけじゃないけど……」
彼女から離れると、もっとやばいモノを見てしまった。
「な………ッッッ!!!」
その碧眼の少女は、裸だった。いや、一糸まとわぬ姿と言っておこうか。モデルだと言われても不思議じゃない、スタイルのいい体だ。
一つ気になるのは、髪の間から見える尖った耳。あれは何だろうか?
そして、やばいのはここからだ。
小柄な体のわりに大きな胸の膨らみ、そこからゆるやかな曲線を描いて細くなっている腹部、そして足の付け根の――――。とにかく、全てがさらけ出された状態なのである。
しかも、俺に――――男に見られているというのに全く隠す素振りを見せない。
「どうしたの?顔、赤いよ?」
――――ッッッ!? お前のせいなんだけど!?
とは言えるわけもなく、俺はバッ!と後ろを向き、
「と、とにかく……早く服を着てくれ!!」
と、服を着るように促す。
「うん、わかった」
バシャバシャと水しぶきを上げながら、少女は岸に向かって歩いていった。
■ ■ ■ ■
数分後――――。
「わたしはフィニア・アルディート。よろしくね」
「俺は不知火時雨だ。さっきは助けてくれてありがとう」
俺たちは岸に上がって、自己紹介をしていた。もちろん、少女――――フィニアは服を着ている。
フィニアは、水色のミニスカートに胸の少し下までしか長さのない無地のTシャツという、大胆な服装だった。金髪碧眼といい、アメリカ人を思わせる。
「なぁ、なんでおまえはその……は、裸…だったんだ?」
「水浴びしてたからだよ? 今日暑いから」
フィニアは自分の顔を右手でパタパタと扇ぐ。ついでに左手でシャツの胸元も。
確かに暑いけどさ!
でも、こんな森の中の湖で水浴びしなくても――。こういうの、漫画とか小説とかによくあるシチュだけど、まさか現実に存在するとは思わなかった。
まあそんなことより。
「なあ、ここはどこなんだ?」
俺は単刀直入に質問する。
「そうよね、まずはそこから……。ここは――――この世界はあなたのいた世界とは違う、もう一つの世界『イマジンワールド』。あなたは勇者としてこの世界に召喚されたの」
そんな、予測不可能でぶっ飛んだ答えが返ってきた。