プロローグ
俺は今、墜ちていた……。
何故俺はここに在るのかなんてことは、神のみぞ知ること。
ふん、《無敗の無限創剣の騎士》の異名を持つこの俺ならば、すぐさま風を操りし双剣《強風を巻き起こす双剣》を『創剣』し、この程度の危機など一瞬で脱することが可能だ……。
ふはははははは――――ッ!
では、このへんで思考を正常化させてもらおう。
俺の名は不知火時雨。普通の高校生である。と同時に、中二病患者である。今更憶えてないけど、たぶん名前がかっこよかったから、選ばれし者だとか思ったんだろうよ、昔の俺は。中二病と言っても、どこでも中二っぽく振る舞うような世間知らずじゃない。俺は自分の中に中二病スイッチを設置していて、TPOをわきまえてオンオフしている。
確かに俺も、昔はところかまわず中二病スイッチオン状態だったこともあったが、それはもう昔の話。俺はもう17歳、現実を知り、理解し、受け入れた。ちょっとかっこよく言ったが、まあ、単に人前じゃ恥ずかしくなっただけだ。
ともかく、スイッチをオンにするのは自宅ぐらいなんだが、今はちょっと別だ。
なぜ俺がスイッチオンにしていたのか、今の状況を教えてやれば真面目な政治家だって気持ちは分かってくれるはずだ。
最初に中二的に言ったとおり、落下中である。それも、目算ではあるが下に広がる森まで数百メートルはあるぞ。
あと海の向こうには大陸一つ見えず、日本は山だらけのはずが山一つ見えないとはどういうことだ? 新大陸発見ということですか? それにしても、遠くに人工的な建造物がみえるんですがね、あれは先住民の建物か何か? あの巨大な――――城は。
どう見ても日本じゃねぇだろここ……。
しかも、この紐無しバンジージャンプ状態。
こんな状況じゃあ、中二病スイッチ入れて強気にでもなってないとやってらんねぇよ。
そして、このありえないシチュエーション、なんとこれは夢じゃなく現実なのである。
ほっぺつねると痛いし(これ夢かどうか調べるときのお約束)、そもそもやろうと思った行動ができる時点でこれが夢じゃないなんて即座に理解できる。
ナニコレ俺死ぬの?