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その四

●八月三十日


 今日、わたしはビンタをしました。弟に対してではありません。変な男がいたので、たたいてやりました。

 みちばたで、クラスメイトの太郎くんに出会ったんですけど、そいつがいきなり、こう言ってきたからです。

「おまえんち、りこんするんだってな」

 そんなことを言われて、殴らないわたしではありません。もうおもいきり、ばちーんです。

「手が痛いよ、女の子にいたい思いをさせるなんて……」

 わたしが、そう言ってやると、太郎くんは怒りました。

 でも、わたしは、りこんのことを言われたのがショックで、すでに泣いてしまっていたので、まわりから見たら、太郎くんが、いっぽうてきにわたしを泣かしているようにしか見えなかったでしょう。

 さいわい、太郎くんも、いけ好かない野郎とはいえ、いちおうはシンシらしいところをかねそなえていたようで、こぎたないハンドタオルを差し出してきました。

 これでナミダをふけよ、とでも言いたげでした。

 受け取って、ふみつけてやったら、さすがに怒って飛びかかってきました。激おこぷんぷん丸というのは、ああいう感じのことを言うのでしょうか。

 そこに、ケンカ最強のゲンジくんがとおりかかったのは、スーパーラッキーだったと言わざるをえません。

 太郎くんはわたしを泣かせたということで、れんこうされて行きました。きっと、フルボッコにされたでしょう。ゲンジくんマジファイナリティックイケメン。

 でも、どうして、太郎くんは、りこんしそうなことを知っていたのでしょうか。なぞです。

 そのあと、家に帰ると、おとうさんとおかあさんの様子が、おかしかったです。ピリピリしていると言えばいいのかな。おたがいに、ぜんぜん、目を合わせなくって。なんだか、ふーふゲンカをしているっていうのとも、ちがっているみたいで。いままで、こんなことなくって。

 まに合わなかったのかな。



●八月三十一日


 わたしのおかあさんは、すごいひとです。何でもできるスーパーな人です。スペシャルな上に、スーパーです。おとうさんが何もできないかわりに、お料理もするし、おせんたくもするし、おそうじもヤバいです。エグいです。しかも、正しゃいんだし、すごく心もつよくって、絶対、ずっとひとりでも生きていけると思います。さいきょうです。

 おこるとこわいし、すぐおこるけど、わたしはおかあさんが大好きです。

 いやだよ。

 はなればなれは、いやだよ。

 おとうさんとも一緒がいい。みんな。四人じゃないと、いやだ。

 もう困らせるようなことをしないから、どうかりこんしないでほしいよ。

 もうキライなものを残したりしません。

 もうおねしょしません。

 ゲームは一日三十分にします。

 マンガもよみすぎません。

 しゅくだいも、ちゃんとやります。

 ほかにも、怒られたらいうとおりにします。

 だから。

 おかあさん。おとうさんと、りこんしないで!

 わたしは、おとうさんと、おかあさんに、言いました。

「りこんしないで」

 って言いました。

 そしたら、ふたりは顔を見合わせたあと、ふたりであたまをなでてくれました。

「大丈夫よ」

「りこんなんかできないからなぁ」

 わたしは、うれしくて、泣きました。

 二人のりこんを、わたしのがんばりが、やめさせたのです。

 せっとくが、うまくいったのです。

 よかった。よかった。

「姉上さま、さすがです」

 わたしは、弟をだきしめました。あつくるしいよと、いやがられても、けっして逃がしたりしません。わたしたち四人は、いつもいっしょです。


 この夏、このすばらしい夏。

 おとうさんの日記は、わたしに、いろんなことをおしえてくれました。

 家族のきずなや、家族の愛を知ることができました。

 この夏やすみは、だれともはなればなれになることのなかった、ほっとした、すごくたのしい、なつやすみだったと思いました。

 わたしは、みんなが、大好きです。





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