その一
読書感想文「おとうさんの日記を読んで」
下じま こお子
●八月二十五日。
おとうさんは、無ぼうびな人です。ぼうだんチョッキがないとか、たてを持っていないとかではなくて、とても無ぼうびなのです。
だって、おとうさんの机の引き出しにはカギがかかっていなくて、わたしは、かんたんに日記を見ることができたからです。日記をつけるくらいマメなくせに、つめが甘いです。
わたしだったら、日記は、ほかのひとに読まれたくないから、すごく、かくすと思います。キーワードでロックしたブログとかにして、わたしの心ぞうがとまった時に、ばくはつするように、せっていすると思います。
さて、ふだんのおとうさんは、おもしろいヒゲです。オヤジギャグばかり言って、ひとりで笑っています。時々テレビに話しかけたりしている、こっけいな人です。
だけど、日記の中のおとうさんは、ぜんぜんおもしろくない人でした。
家では、いつもふざけているのに、日記のおとうさんのしゃべり方は、むずかしいことばばかり使っていて、しかも、やけにしんこくなのです。養育費、慰謝料、家庭裁判所とか言われても、よめません。ちょっとよくわかりません。
そこでわたしは、イケメンであたまの良い弟に、おとうさんの日記を見せたのです。
「姉上さま、これは、大変なことだ」
弟は、落ち着いた声で言いました。
「父上と母上が、りこんしてしまう」
わたしは、わけがわからなかったので、「りこん?」と言いながら首をかしげました。そうしたら、弟は言いました。
「いっしょにくらすことを、やめてしまう。ぼくたちも、はなればなれになるかもしれない」
そいつぁナカナカ、たいへんなことだなぁとおもいました。
●八月二十六日
また日記を読むと、ぶんしょうが増えていました。おとうさんが夜おそくに書き足したんだと思います。
どうやら、おかあさんの気持ちは固いらしく、りこんへ一直線だそうです。
「だんだんヤケクソになっている」
というのは、弟の言葉です。言葉という字を、最近書けるようになりました。りこんは、まだ漢字で書けませんが、せっかくなので、なつやすみが終わった時には書けるようになりたいです。
ところで、なんでりこんするのかっていうと、おとうさんが悪いようでした。
おとうさんは、今日も「しごとにいってくる」と言って笑いながら出ていったのですが、日記を弟と一緒に読み進めた結果、いろんなことがわかりました。どうやら、おとうさんがアルバイトをクビになったことで、おかあさんがマジギレし、りこんをケツダンしたようでした。
「ながねんのストレスが、クビによって表面化したんだ。いいとしこいて、正しゃいんじゃないどころか、無しょくの男なんて、お先まっくら。未来が無いよね」
とは、弟の言葉です。
弟はきびしいです。さすがゆうしゅうな人間は言うことがちがいます。わたしなんて、何もできないおバカさんなので、しょうらいは、おとうさんと同じように無しょくになってしまいそうです。そんなわたしにも、やっぱり未来は無いのでしょうか。
「姉上さまはカワイイから、どっかヨユーで玉のこしだ。女だし」
弟が言いました。
「女ってのは、かえって何もできないクソバカの方がいいんだ」
おとうさんとおかあさんは、育て方をまちがえたかもしれません。女性を低く見る、さべつてきな発言をするマセガキに育ってしまったことは、とても悲しいし、いかりをおぼえます。
べんきょうができるからって、チョーシこいていると、ほっぺたなぐりますよ。