表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/5

2  濃い家族と普通の私。


 彼はいつも腕を枕に眠っているようだが、知っている。

彼は寝ていない。半分は。

“半分は。”と付くのは何故かというと、寝てる時もあるから。

彼は恐らく気が付いていませんが、彼の耳は動くんです。

ぴくぴくと。可愛らしいじゃありませんか。猫の耳のように、寝たふりをしつつぴくぴくする訳。それで気が付いたんですけどね、寝てないって。

じゃぁ何故寝たふりをしているかというと・・・。

「山田君。 またバイト?」

この声の主のせい、というか声の主に声を掛けて貰うため、だ。

彼の席の前、いつもは背中を向けて座っている声の主は、彼、山田君が寝ているのを見つけると、必ず振り返って声を掛ける。そして・・・。

「ほら、飲みなよ。野菜不足だろう?」

と“いつも常備か!”と聞きたくて仕方がない私の前で、彼に野菜ジュースを渡すの。

カ〇メの。あれは野菜と果物が一緒になってるやつ。飲みやすいよね、私もそれ好きですが。毎日、飲んでます。

「こればっかかよ。」

文句を言いながらも、山田君は必ず起きるのだ。

「文句ゆーなよ。」

“心配してやってんだろう?”と軽口を叩く彼に山田君は一瞬眩しそうな目を向けながらも、それを手にとってカシュっと開けて飲み干した。

・・・そうです。世間で流行りのBLですよ。

世の中には沢山のその類の本が売られていて“腐女子”なる方々も多くいて、市民権を得た感じのあるBLですが、なかなか本物にはお目にかかれない。今現在、私の観察によると2年生ではこのカップルが発見されている。他の学年にも潜伏中かもしれないが、いかんせん他の学年では観察する時間がないので。

別に偏見はありません。

だって彼らを包む色は優しいから。

 

 さて・・・。

席を立って下校の波に飲まれるとしよう。 

とはいっても家はすぐ近くだが。正面から入ると、せっかく名前まで変えて(学校内の名簿だけだけど)いるのにバレてしまうので、遠回りをして反対の裏口から入るけどね。

「佐々木君。」

さっきの野菜ジュースの彼に声を掛ける。

「っなに?」

・・・そんなびっくりしたような顔して飛び上がらないで下さい。

「日誌、私が出して帰るね。教室の窓 お願い。」

・・・だってまだいるでしょう?

そんな言葉は口に出しませんが(顔にもね)。

「あー 悪い。俺いこっか?」

「いい。事務にもよるし。」

・・・山田君、睨むなよ。悪かったよ、邪魔もので。

“大丈夫だよ”と声を掛けてあげられないのは仕方ないのですが、この山田君の嫉妬ぶりは意外とすごくて、“バレるよ”とこっちが心配するほど。

その内忠告でもした方がいいのかもしれませんが、まぁその内。

 軽くため息つきつつ廊下を渡り、職員室まで行くと担任の机へ日誌を提出。そのついでにちょろっと職員室を見回す。

・・・いました。

「城嶋先生。」

何気を装って見てたよね。

彼女を。

「んー? お、志野山。」

いかにも残念、と言った顔しながら視線を外すくらいなら、何故アタックしない。

・・・慎重になるのは解りますが。

「相談したいことがあるんですが・・・。」

「俺? 向井先生は?」

「お話してあります。先生k大法科でしたよね。」

と言って、誘いだした。

 職員室の隣。相談室、と札のあるそこに、先生と二人で入る。が、“女生徒と二人っきり”は何かと不味いので、先生はきちんと扉を半分開けている。

これってどこの学校でも一緒だろうか?

てっきり進路相談だと思っているらしい先生の前に座り、椅子の横に鞄を置く。

「今日部活は?」

「江波先生が出張で休みです。」

そういうと、あーそうだっけ?って頭を掻く。

 城嶋 友幸 33歳

1年Aクラス担任で、担当は生物で、部活動は水泳部。

四国に実家があり、大学がこっちでそのまま就職。実家は妹が婿を貰って継いでいて、二男。

性格はわりと慎重な方だが、じめじめしてないあっけらからんとした感じ。

1年前、結婚に踏み切れない彼に彼女が別れを告げ、以来彼女なし。

身長178㎝ ほっとけば将来はきっとメタボだが、今のところ標準。

好きなものはビールにカラオケ。そして“綺麗なお姉さん”。

・・・事前調査はバッチリです。

なんたって情報源は暁ちゃんですから。あの人は人を調べるのが趣味、いや好きですからね。所謂職権乱用ってやつですが、別に悪用してなければ、よし(よしか?)。

「志野山、うち受けるのか?」

先輩として聞きに来たんだと思い込んでいる先生には悪いんですけどね。いや、必要になったら、ちゃんと聞きますけどね。

「はい。でも今日はそれとは違うんです。」

「ん?」

じゃあ何だ?という顔をしてる。

「先生は、怖がりですか?」

「・・・いや?」

「では偏見はありますか?」

「ないと思うが・・・何だ?」

「“綺麗なお姉さん”は好きですか?」

いうと、いぶかしんでいた顔が慌てたような表情になって、ガタンと席を立った。

私は座ったまま、ただ先生を見上げていた。

窓に寄り窓を閉め、先生は私を振り返り”あ~っ”と一言。

「誤解がないよう言っておきますが、けしてからかっている訳ではありません。」

「・・・。」

「そしてそれをネタに強請ろうという訳でもありません。」

「志野山。」

「私はただ幸せになってもらいたいだけです。」

「・・・何で?」

「私の兄と“彼女”は親友で、私が生まれた頃にはいつもうちに遊びに来てました。私はよく遊んでもらって二人目の兄だと思って来たんです。今では“姉”ですが。」

先生は元の席に座って話を聞いてくれた。

「兄は“彼”が“彼女”になってからも変わらず友人として付き合っていました。ここに勤めることになったのも兄が勧めたからです。私は近くで見てきたから“彼女”の人となりを少しは知っています。けして強い人ではないんです。 何時も微笑んでますが、何事も始まる前から終わりを覚悟して諦めてしまっているから微笑んでいるんです。私は、ちゃんと怒って泣いて笑っていて欲しいんです。・・・ここ禁煙です。」

煙草をつけようと咥えた先生に一言。

「あっ・・悪い。・・・・志野山。」

煙草を手持無沙汰のようにくるくると指で回しながら先生はため息をついた。

「何でしょう。」

「何で知ってる?」

「“何を”でしょう。」

とぼけてみる。

「俺が見てること。」

「さっきもね。」

というと、30男の顔がうっすら赤くなる。

・・・う~ん微妙。

だって外見 中井貴一だよ。

「強引に、引っ張り出してくれる人がいいんです。“彼女”が逃げ込んでいる安全圏から。出来ますか?」

「出来なかったら?」

「傍に寄らないでください。“彼女”が傷つく。」

「はぁ~・・・でも、さ・・。」

「知っていらっしゃいますか?“彼女”は“女性”です。“女性”として“結婚”出来るんです。」

戸籍の名前も性別も。それこそ国から認められてきちんとしてるから。

「知らな・・・。」

「興味本位で見つめているだけなら・・・。」

と言ってみる。

「違うっ!本気でっ・・。」

・・・おぉ熱血です。

立ち上がって声がでかいですよ。

「ならば、行動あるのみでしょう?」

鞄を持って席を立つ。

「城嶋先生。モットーは?」

扉に手を掛けて。

「“有言実行”。」

「ありがとうございました。」

頭を下げて扉を閉めた。





 何時の頃から観察が好きになったのかは解らないけど、気が付くと人を見ていた。

見ていると、その人が出しているオーラが解る気がした。別にオカルトとかファンタジーな意味でなく、本当に“気がする”だけだ。実際に目に見える訳ではなく、表情や気配、言葉の端端から“感じる”のだ。

その人の気分や感情が“視える”と醸し出している”色”が見える。此処で“色”と言っているのは、まさに“色”のことで、私はそれを見ているのだ。

怒っていれば寒色系に、微笑んで楽しんでいれば暖色系にと“色”は変化する。それは周囲の温度まで左右する気がして、だから自分の周りには暖色系が多い方がいい気がするのだ。

 「透さん、今帰り?」

そう声を掛けてきた人は、私の周りでも暖色系の割合が多い人。

「理子さんも、ですか?」

うちの学校の事務のお姉さん。

「そう。一緒しない?」

「いいですね。」

並んで歩くと何時もは同じくらいの身長が、ヒールの分だけ理子さんが高い。

何てことはないふわりとしたスカートに真っ白なブラウス。その上からカーディガンを羽織って5㎝ヒールを履いている理子さんは何時もふんわりと笑う。

ドジっ子で有名で、小さくてわたわたしている印象があるが、それは彼女が童顔なせいである。おそらく周囲から見て、私とそう変わらない歳と見えるはずだが、彼女は23歳のれっきとした成人女性だ。何時も学校を訪れる訪問客に学生と勘違いされているのを知っている。

「今日部活なかったでしょ?」

「はい、今日は進路相談だったんです。」

「へぇ・・あ、そうか。もう2年生なんだね。」

彼女は話し方もおっとりしていて、それが暁ちゃんのお気に入りだ。

濃くない化粧に、薄い香水。清潔そうな彼女はいつも暁ちゃんによって拉致される。理子さんを拉致する時の暁ちゃんは、全体的に真っ黒で(表情も態度も)、何時も何故それに気が付かないのかと彼女を不思議に思う。

彼女にとって暁ちゃんは“優しい”のだという。

いや確かに兄として彼は優しい。何だってしてくれるし、助けてくれる。

でもそれは私が家族だからだ。暁ちゃんは自分の領域内の人間とその他の人間に対する態度があからさまに違う人だ。最初っからそう態度には表さないが、一度暁ちゃんの琴線に触れてしまうと顕著に現れる。私は“それ”を一度しか見たことはないが、そりゃぁ、もう・・・・真っ黒、でした。真っ黒オーラが暁ちゃんの身体中からぶわっと噴き出して来て、覆い尽くすようでした。

そう言えばあの時は確か理子さん絡み。もう今現在はいない英語の教師が関わってたな。

 校門を出て左に曲がって、塀に添って歩いて行く。今度またビデオでも借りて“オールナイト・ショー”でもしましょうよ、と話していると、鳴りました・・・。

久しぶりの理子さんとのデートだったのに・・・。

「ごめんね。 はい、瀬野です。 ・・うん、え?ちょ・・、あっ・・。」

切れちゃった、と言って理子さんは携帯を閉じて鞄に落とす。

「嫌な時はしっかり嫌って言わないと、図に乗りますよ。」

と言うと、

「嫌じゃないんだけどね・・・。何とゆーか、ほら変なところでマイペースでしょう?絶対譲らないというか・・・。」

理子さんは困ったような顔をして苦笑する。

・・・あれはマイペースとは言わないんですよ。“俺様”ですよ。

暁ちゃんはマイペースというよりは、むしろ他人を無視、というか関係ない、と切るタイプ。だから“気にしない”のではなくハナから“眼中にない”人なのだ。

注意して見てはいるが、それは有益か無益か、有害か無害か、を見ているのであって、“その人個人”が気になって見ているのではない。

だから昔から人と張り合うという事はなく、ただ自分の行く道を邪魔する者を排除しているだけ。

例えば一番を取りたかったら一番の人と張り合うという感覚ではなく、ただ自分で一番を取りに行くだけであって、彼の中では目の前の障害をどかす、という感覚。彼は基本他人に興味がない人である。

だから友人も少ないし、でも仲良くなると深くなる。自分の領域内に入れてしまった人間を放っておけないという、人情に厚いんだか薄いんだかわからない面倒な人だ。

でも私は好き。

それは兄だから、という事じゃなく、その屈折具合が好きだ。とても正直で。

その暁ちゃんの一番が理子さんだ。彼女に関する事に置いて暁ちゃんの辞書に“妥協”という文字はない。

その上初恋であるから、尚更手に負えない。

「今からデートですか?」

そう聞くと、さっと頬に赤みがさす。

・・・可愛いです。

「・・迎えに来てくれるって。」

・・・そーですか。

明日はお休みでしたね。

「楽しんで来て下さい。じゃ、また来週ですね。さようなら。」

その角を理子さんは真っ直ぐ、私はまた左。

「うん、またね。」

くるんと踵を返す理子さんの肩から、染めてない綺麗な黒髪が靡く。

その背中に、合掌。

・・・御愁傷様です。

きっと朝まで寝ることはないだろうから。

だって、暁ちゃん今日出張から帰ったばかりだもん。



 裏門の前に立つ家の脇を通り抜け、その奥、本当の自分の家に入る。裏門の前の家は、実はパパの仕事場だったりする。

締め切りが迫って自分を追い込む時に籠る、通称“瀬戸際の家”。

一通り何でも揃ってはいるけど、普段は使わない。

 玄関を開けると、ちょうど暁ちゃんが出て行こうとしている場面に出くわした。

「せっかくデートのお約束を取り付けようとしてたのに。」

と言って暁ちゃんを睨んでみる。

兄しかいないから理子さんと一緒に居るのはとても楽しいのだ。

「何? 誰が? 誰とデートだと? お前にはまだ早っ・・。」

「違います。理子さんです。今度またビデオ・ショーしたいって思って。暁ちゃんの電話が邪魔した。」

あからさまにほっとしちゃって・・。どうせ彼氏なんて出来ませんよ。

「そうか、悪かったな。今度な。但し俺も一緒。」

「じゃ、暁ちゃんのミニシアター貸して。」

「了解。」

・・・やった!

「行ってらっしゃい。きっと理子さん今頃着いた頃だよ。」

靴ベラを受け取る。

「行ってきます。」

何時もの通り、頬にキスして行った。

この頬にキスは、うちの決まり事だ。

“欧米か!”って誰かのギャグみたいだが、発案はママ。

何でも留学中に習慣付いたらしく、絶対自分が結婚したら挨拶をこれにすると心に誓ったのだとか。

それにパパが反対する訳もなく当然のように受け入れて、その子供である私たちに拒否権はない。

・・・毎朝行ってきますのチューをすると寿命が伸びるってデータもあるらしいし。

ちょこっと恥ずかしいけど。

 パパとママは学生結婚だった。

ママが大学2年生。パパは院に行く予定の4年生で。

どうやって知り合いになったのかは聞いてないけど、その歳には妊娠が解って結婚したらしい。それが暁ちゃん。

その後ママは学園を継ぐ為に祖父について勉強。パパは院に行った後出版社を経て物書きになった。

裏手にある、パパの“瀬戸際の家”は元々パパ方の祖母の家だった。誰も住んでいないその家に最初は住んだらしいが、その後ろの敷地を買い取ってこの家を建ててくれたのは志野山の御爺様だった。

早くに結婚したものの、駆け出しのパパにそうそう印税が入る訳もなく、かといってママの仕事を考えてみればある程度の箱モノは必要だから、と。


豪邸、ではないけどそこかしこにママの趣味が入ったこの家は、“メルヘンハウス”と呼ばれてる(親類縁者から)。

表の通りと隔てる壁はレンガで造られ、庭は全面芝生。

家の壁はうっすーいピンク、西洋の宮殿のように(大きくはないよ)左右対称で作られた表から入ると、いきなり階段があって、それも右と左にループしつつ。中はシックなベージュなんだけど、勿論座敷とか畳とか、ない。

メイドさんなんかはいないけど、お手伝いさんならいる。だって、共働き(・・・と入ってもパパは家に居ますが)だから、代わりに家の事をやってくれる。でも基本、自分のことは自分で。掃除だって自分たちでやるし夕飯は手伝って貰って私とお手伝いさんでする。

お手伝いさんは夕方6時には帰宅し、水土日は休み。だから後の日は大抵私の仕事になる。何故なら一番の暇人が私だからだ。

ママは仕事、暁ちゃんはママの補佐兼秘書。パパはアイデアが出るまでは手伝ってくれたり一緒に居てくれたりするけど、一旦お仕事モードになったら籠って出てこないモグラになる。

肩書きだけは豪華に見える、これが私の家族。

スーパーキャリアみたいにビシーッとしているお仕事モードのママは実はものすごく乙女で可愛いもの好き。

その横で同じくインテリ風の風を吹かしてる暁ちゃんは、女性不信気味(理子さん除く)の好青年ぶってる腹黒星人(理子さん限定)。

人当たりのいい顔をしている作家のパパは、実は結構醒めた人で“やられたらやり返す”を笑顔でやっちゃう真っ黒な人。

そんな濃い家族の中で、私は至って普通の高校生。


やっと書けました。パソコンが調子悪くって、何度も消える。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ