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扉の向こう側

作者: 解放さん
掲載日:2026/03/14

 ゾンビが現れた――。

 最初にそのニュースを見た時、主人公の佐久間ユウは冗談だと思った。

 発生源は北海道。

 画面の中では、ヘリコプターから撮られた映像が流れていた。

 道路には車が放置され、人が走り、そして――

 ゆっくりと歩く、人ではないもの。

 噛みつかれた人間が倒れ、数分後にまた立ち上がる。

 その目は濁り、口元から血を垂らしていた。

「……映画だろ」

 ユウはそう呟いた。

 だが数日後。

 感染は本州へ渡った。

 テレビでは「感染者」という言葉が使われていたが、誰もが分かっていた。

 ゾンビだ。

 ニュースでは東京へ逃げてくる人々の映像が流れていた。

 東北からの高速道路は渋滞。

 駅は人で溢れ、泣き叫ぶ声が響いている。

『政府は外出を控えるよう――』

 ユウはテレビを消した。

 部屋は静まり返る。

 カーテンの隙間から見える東京の街は、いつもと同じように見えた。

 だが人影はほとんどない。

 ユウは外に出られなかった。

 もし外にゾンビがいたら?

 もし噛まれたら?

 考えるだけで足がすくむ。

 コンビニに行くことすらできず、家にあるカップ麺で数日を過ごしていた。

 その夜。

 突然――

 ドン!!

 玄関の扉が激しく叩かれた。

 ユウの体が凍りつく。

 もう一度。

 ドン!!ドン!!

「ひっ……」

 呼吸が浅くなる。

 テレビでは言っていた。

 ゾンビは扉を叩く。

 音に反応する。

 もしそうなら――

 ここにいることがバレた。

 ユウは息を殺した。

 叩く音は続く。

 ドン!!ドン!!ドン!!

 汗が背中を流れる。

 そして。

「……た、助けて……」

 かすれた声が扉の向こうから聞こえた。

 ユウは目を見開いた。

 女の声だった。

「お願い……開けて……」

 人間?

 それとも――

 罠?

 テレビでは言っていた。

 噛まれてから発症するまで時間差がある。

 つまり。

 助けた人がゾンビになることもある。

 ユウの手は震えていた。

 開ければ助かるかもしれない。

 開ければ死ぬかもしれない。

 外から弱々しい声がした。

「寒い……」

 沈黙。

 ユウはゆっくりと玄関へ歩いた。

 足音がやけに大きく聞こえる。

 扉の前に立つ。

 覗き穴を覗こうとしたが、怖くて目を近づけられない。

 外の声はもう弱かった。

「……お願い……」

 ユウはドアノブに手をかけた。

 冷たい金属。

 もしゾンビだったら。

 もし噛まれたら。

 もし――

 ユウは目を閉じた。

 そして。

 カチャ。

 鍵を外した。

 ドアを開ける。

 廊下には――

 誰もいなかった。

「……え?」

 その瞬間。

 背後で、声がした。

「みーつけた」

 振り返る。

 ユウのすぐ後ろに、口を裂けるほど開いたそれが立っていた。

 腐った歯が、目の前に迫る。

 次の瞬間。

 ユウの悲鳴は、誰にも聞かれることはなかった。


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