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炬燵魔境(ウタほたるのカケラ〈US〉出張版【サイズL】第2iL片)

作者: 歌川 詩季

 意外と長くなった!



※noteにも転載しております。

 ぼくのおにぃちゃんはマンガが大好きで。

 もちろん、年がら年じゅう読んでるわけだけども。

 冬になったら、コタツに足をつっこんで読むのが、とくに大好きみたい。

 そりゃあ、おにぃちゃんにとっては、しあわせな時間なんだろうけどさ。

 遊びあいてをマンガにうばわれてしまったぼくにとっては、おおいに不満だ。


 読んでるマンガをうしろや横からのぞきこまれたくないおにぃちゃんは。

 ぼくには、コタツのむかい、おにぃちゃんと反対がわの正面がぼくの席だって、すわるところまで、指し図してくるし。

 ぼくだって、コタツのこと、きらいになりたくないのに。これじゃあ、はやく春になって、またしまわれちゃえばいいのになんて、かんがえたりもする。

 しょうがないよね。



 そんなある冬の日。

 おにぃちゃんはいつものように、コタツでマンガを読んでいて。正面で反対がわにすわっていたぼくは、ちょっとしたいたずらを思いついたんだ。

 コタツにもぐりこんで、机のした。ふとんのなかを進んだら、むかいのおにぃちゃんの横から、ばぁっと飛び出してやろう。

 きっと、ううん、ぜったいに怒られるはずだけど、なんかおもしろいからべつにいいや。

 マンガに夢中で、もぞもぞとやっているぼくに気づかないおにぃちゃんをよそに、行動は開始された。


 ふとんをめくってもぐりこんだぼくだけど、あれ? なんか、おかしいぞ???

 コタツのなかは、ライトに真っ赤で、おにぃちゃんがつっこんだ両足がにょきってのびてるはずなのに。

 赤くもなく、なんだか妙に暗いし、いっしょうけんめい目をこらしてみても、おにぃちゃんの足なんて見えない。

 コタツにはいりっぱなしなうち、だんだんあつくなってきたせいで、いったん足を出してるのかもしれない。

 そうかんがえたぼくは、そのまままっすぐ、よつんばいにはって進むと。おにぃちゃんがいるはずの、むかいの反対がわに顔を出してみた。


 だけど、びっくり!

 ここはどこだ!?


 マンガを読むおにぃちゃんどころか、ぼくのうちのあの部屋ですらない。

 コタツのしたにしかれてるはずの、もこもこのカーペットはとぎれてて。むきだしの地面があるものの、それはもう何歩かまで。そのさきは寒そうな風が吹き抜ける、崖のようになっている。おそるおそるのぞきこんでみても、どのくらい底が深いのかはわからなかった。

 そして、空を見上げてみれば。

 いくつものプロペラに吊るされた、さかさまのお城があちこちに浮いている。

 なんだろう、ここ?

 不安なきもちになって、おにぃちゃんを呼ぼうと声をあげかけたとき。

 空のむこうから、馬車の音が聞こえてきた。

 さかさまのお城のひとつへと帰ってくるに、ちがいない。

 高く飛ぶように走る馬車が、お城とおなじようにさかさまなのか気になって、たしかめてみたかったけど。みつかってしまえば、まずいことになるんじゃないかとおもったから。ぼくはあわてて、あたまをコタツのふとんのなかにひっこめたんだ。


 ふうっ。

 からだの半分はあの不思議な世界に出していたものの、足はまだちゃんとコタツのふとんにはいりっぱなしだったのが、よかったんだろう。

 ぼくはまた、妙に暗いコタツのなかに、ぶじ、もどってくることができた。

 ひと安心したぼくだけど、怖いおもいをしたってどきどきした一方で。こんな面白いこと、いままでなかったって、わくわくもしちゃってたんだ。

 よぉし、こんどはおにぃちゃんがいるはずの向かいじゃなくて、かどをはさんだ右となりから出てみよう。

 こたつの(あし)(あし)のあいだをくぐって、ぼくはまたふとんをめくりあげた。


 こんどの世界は、なんだかまぶしかった。

 コタツのなかが、妙に暗かったのもあるんだけど。

 まえの世界とはちがって、ちゃんと遠くまで床はあるものの、一面がきらきら光ってて。そのうえを、いろんないきものが、じぶんのからだにあわせたおおきさの岩をころがしてたんだ。

 そして、岩をころがすたび。ころがされたぶんの床のきらきらは、岩にまきとられたみたいに、すっかり消えてしまっていて。岩がころがされたあとが、道のようにあちこちにひかれている。

 これじゃ、いつか。床のきらきらはぜんぶ、ころがされた岩にまきとられちゃうんじゃないかとおもったぼくは。まえの世界のときとおなじように、空を見あげてみた。

 空からはたえまなく、こまかいきらきらが降りつづけていて、床に新しいきらきらをつもらせてゆく。岩をころがされたあとの道は、しだいにまたきらきらにうもれていくみたいだった。

 ぼくは、岩をころがしてるいきものにみつからないうちに、コタツのなかにもどることにした。


 さて、これまでふたつの世界を見てきたぼくだけど。

 そこのいきものにみつからないかぎりは、べつに危険でもなかったことに少し油断していたのかもしれない。

 もしみつかったところで、ひどいめにあわされるともかぎらなかったし。

 だから、ぼくは残された、もうひとつの世界——つまり、コタツの左となりからつながる世界へも。このあと、迷わず顔を出してしまったんだ。

 だって、もときた入り口をそのぞくと、コタツの出口はぜんぶでみっつ。残りはひとつしかないってことは、おとずれることができる世界はあとひとつだけなんだし。

 そもそも、おなじ出口からふたたび顔を出したとしても。またおなじ世界につながるのかなんてことは、あんまりかんがえたくはなかった。だって、めくるたびにちがう世界にいっちゃうんなら、もときた入り口からも、ぼくのうちの部屋へもどれなくなっちゃうってことだよね?

 だから、よけいなことはかんがえずに。

 ぼくは不安より、まだおさまらないわくわくから、さいごの冒険を楽しむことにしたのさ。

 ほんと、不用心だよね。


 ふとんをめくったさきにひろがっていたのは、世にもおそろしい世界で。

 ぼくはそのあまりの恐ろしさに、あっというまに気絶してしまって。そのときの記憶さえ、まったく残らなかった。

 ただ、ただ。

 世にもおそろしいものが、世にもおそろしいやりかたで、世にもおそろしいことをしていた世界とだけしか。


 つぎに、目をさましたとき。

 あおむけに寝かされたぼくが見たのは、天井を背景にしたおにぃちゃんの顔だった。



「だいじょうぶか?

 コタツになんてもぐって、なにやってたんだよ?!

 のぼせて眠っちゃうなんて、気をうしなってるんじゃないかって、心配したんだぞ!!」

 怒ってるのか、ことばどおりに心配してるのかわからなかったおにぃちゃんだけど。

「のどかわいたろ?

 これ、飲めよ」

 ちょっと濃いめにつくったキャルピスに、ストローをさしてもってきてくれた。氷が入ってなかったのは、飲みやすくてこっちのほうがいいや。

 どうやら、ぼくのすがたが見えないのに気づいて。コタツのなかをのぞいてくれたみたい。

 足のうらをくすぐっても反応がなかったから、あわてて足首をつかんで、ひきずり出したんだって言ってる。

 ぼくがふとんのなかにもぐったら、おにぃちゃんの足はなかったのに。どうして、おにぃちゃんはぼくの足をみつけられたのか? あとできいたら、コタツのなかはちゃんと赤いライトが、ともっていたらしい。

 それにおにぃちゃんが、さきにぼくのあたまのほうをたしかめようと、コタツの左(おにぃちゃんから見たら、右だ)がわのふとんのそとにまわりこんでたら。ぼくのあたまはそこにあったのだろうか? あのおそろしい世界に置き去りで、足をひっぱってコタツのなかにもどしてやるまでは、この部屋には存在しなかったんじゃないのか?

 不思議におもうこと、こたえが出ないことはたくさんある。

 ひとつ言えるのは、コタツのなかが、あんなふうにほかの世界につながるなんてことは、あれ以来、二度となかったってことだ。

 こりないぼくは、おにぃちゃんにぜんぶ説明して、ふたりで探検しようとコタツにもぐったことが何度もあったけど。

 コタツのなかは赤いライトがともったままで、ふとんをめくっても、そこはぼくのうちのこの部屋のままだったんだ。


 残念なのもたしかだけど、どこかほっとしてもいるよ。

 だって、またあの世にもおそろしい世界につながってしまったらとかんがえると。どんなに弱虫と笑われたって、まずおにぃちゃんから、おさきにどうぞってなっちゃってたぼくだから。


 みんなも、コタツにもぐりフトンをくぐって、ほかのがわから出ようとするときは、どこかの世界につながっていないか注意したほうがいい。

 そして、もしものときのために。

 足はぜったいにコタツから、出さないことと。なにかあったら、コタツからその足をひっぱってくれるだれかがいるときにしか、その冒険はしないこと。

 このふたつはぜったいにまもるようにって。

 おにぃちゃんに助けられた、ぼくから忠告しておく。



 コタツの正面、むかいがわで。きょうも、おにぃちゃんがマンガを読んでいる。

 こんなとき、ぼくも恐竜や昆虫の図鑑を読むことにした。

 世にもおそろしい世界、描写しないことにしました。

 そうゆうお話でもないしね。



挿絵(By みてみん)

制作:歌川 詩季


挿絵(By みてみん)

制作:冬野ほたる先生

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― 新着の感想 ―
 オチは酸欠による幻想なわけですが、それでも精神世界は本当に繋がっていそうで……。  死の世界は異世界の誘いのように、ある意味洒落になっていませんね。(苦笑)
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