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「――つまり、この式の裏側に、“匂い”が隠れてるってことだよ」
夜の香気塔。
淡く灯ったスクリーンの前で、ジンジャーが軽快にキーボードを叩いていた。
周囲には精油の面々。
スペアとオレン、ペッパー、ジャスミン、ラベンダー、ゼラニウムが集まっている。
「お前、また寝てねぇのか……?」
スペアが呆れ混じりに言うと、ジンジャーは片目を細めて笑った。
「寝てるよ? 三分だけ。香りを嗅ぎながら脳だけ起きてる状態」
「いや、それ寝てねぇだろ!」
ジャスミンが紅茶を啜りながら、ため息をひとつ。
「ほんとに、あなたって変人なのね……でも、頼りにはしてるわ」
ペッパーが腕を組み、スクリーンを見上げた。
「それで、結論を聞こう。ノートの痕跡はどこに?」
ジンジャーは指を止め、淡い緑光の立体式を呼び出した。
それは幾何学的な香陣――線ではなく、“香気の流れ”そのものが描く図形。
空間がかすかに呼吸しているように見えた。
「ノートの封印構文は“書く”んじゃなくて、“嗅ぐ”ことで完成する。
だから、封香の残り香を辿れば、発信元を逆算できる」
「封香……残り香で座標を読むってこと?」
オレンが目を丸くする。
「正解。普通は香感センサーでも拾えない微弱な波。
でも、“人工香”はどうしても不自然な粒子を残す。
僕が調香院の記録からそれを逆算した結果――座標はここ」
指先でスクリーンをなぞると、光が収束し、中心にひとつの名が浮かぶ。
《白頁》
「……ノートの中枢部か」
ペッパーの声が低く落ちる。
「推測だけど、ここは“香りが霞む場所”だ。
本来の香りが輪郭を失って、存在の奥に沈む。
精油を構造化して保存する、その中間層――つまり、“生きた香り”を凍らせる装置」
「エレミやベンゾインも、そこに?」
スペアの声がわずかに震える。
「たぶんね。
彼らは消えたんじゃない、閉じ込められたんだ。
香りを忘れられたままの姿で」
張り詰めた空気の中で、ペッパーが短く頷く。
「よし、座標を共有しろ。――異香班第二編成、出動だ」
「了解!」
スペアが力強く応え、オレンが頷く。
ジャスミンは髪を束ね、ラベンダーは眠そうに欠伸を噛み殺した。
ゼラニウムは鏡を閉じ、姿勢を正す。
「へぇ……なんか本格的になってきたな」
スペアが小さく呟くと、ジンジャーがにやりと笑う。
「気をつけて。
白頁の空気は“香りを鈍らせる”。
感じ取れなくなるのは匂いじゃなく――心の方だから。
……迷子になるなよ、スペア」
「お前、最後だけやけに不穏だな!」
冗談めいたやり取りの中、
香りの波が一斉に揺らぎ、転送陣が起動する。
眩い光が塔を包み、六人の姿が消えた。
残された部屋には、ジンジャーの小さな声だけが落ちる。
「――頼むよ。
あいつらの香りが、ちゃんと帰ってきますように。」




