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姉のBLゲームの世界に転移したけど、“スペアミント”の俺は香りの終焉を止めに行く 〜香奏院とヴァイオレット・ノート〜  作者: あしゅ太郎


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4-7

 「――つまり、この式の裏側に、“匂い”が隠れてるってことだよ」


 


 夜の香気塔。

 淡く灯ったスクリーンの前で、ジンジャーが軽快にキーボードを叩いていた。

 周囲には精油の面々。

 スペアとオレン、ペッパー、ジャスミン、ラベンダー、ゼラニウムが集まっている。

 

 


「お前、また寝てねぇのか……?」

 スペアが呆れ混じりに言うと、ジンジャーは片目を細めて笑った。


「寝てるよ? 三分だけ。香りを嗅ぎながら脳だけ起きてる状態」


「いや、それ寝てねぇだろ!」


 


 ジャスミンが紅茶を啜りながら、ため息をひとつ。

 「ほんとに、あなたって変人なのね……でも、頼りにはしてるわ」


 


 ペッパーが腕を組み、スクリーンを見上げた。

 「それで、結論を聞こう。ノートの痕跡はどこに?」


 


 ジンジャーは指を止め、淡い緑光の立体式を呼び出した。

 それは幾何学的な香陣――線ではなく、“香気の流れ”そのものが描く図形。

 空間がかすかに呼吸しているように見えた。


 


「ノートの封印構文は“書く”んじゃなくて、“嗅ぐ”ことで完成する。

 だから、封香の残り香を辿れば、発信元を逆算できる」


 


「封香……残り香で座標を読むってこと?」

 オレンが目を丸くする。


 


「正解。普通は香感センサーでも拾えない微弱な波。

 でも、“人工香”はどうしても不自然な粒子を残す。

 僕が調香院の記録からそれを逆算した結果――座標はここ」


 


 指先でスクリーンをなぞると、光が収束し、中心にひとつの名が浮かぶ。


 


 《白頁(ブランク・ノート)


 


「……ノートの中枢部か」

 ペッパーの声が低く落ちる。


 


「推測だけど、ここは“香りが霞む場所”だ。

 本来の香りが輪郭を失って、存在の奥に沈む。

 精油を構造化して保存する、その中間層――つまり、“生きた香り”を凍らせる装置」


 


「エレミやベンゾインも、そこに?」

 スペアの声がわずかに震える。


 


「たぶんね。

 彼らは消えたんじゃない、閉じ込められたんだ。

 香りを忘れられたままの姿で」


 


 張り詰めた空気の中で、ペッパーが短く頷く。


 


「よし、座標を共有しろ。――異香班第二編成、出動だ」


 


「了解!」

 スペアが力強く応え、オレンが頷く。

 ジャスミンは髪を束ね、ラベンダーは眠そうに欠伸を噛み殺した。

 ゼラニウムは鏡を閉じ、姿勢を正す。


 


「へぇ……なんか本格的になってきたな」

 スペアが小さく呟くと、ジンジャーがにやりと笑う。


 


「気をつけて。

 白頁の空気は“香りを鈍らせる”。

 感じ取れなくなるのは匂いじゃなく――心の方だから。

 ……迷子になるなよ、スペア」


 


「お前、最後だけやけに不穏だな!」


 


 冗談めいたやり取りの中、

 香りの波が一斉に揺らぎ、転送陣が起動する。


 眩い光が塔を包み、六人の姿が消えた。


 


 残された部屋には、ジンジャーの小さな声だけが落ちる。


 


「――頼むよ。

 あいつらの香りが、ちゃんと帰ってきますように。」


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