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姉のBLゲームの世界に転移したけど、“スペアミント”の俺は香りの終焉を止めに行く 〜香奏院とヴァイオレット・ノート〜  作者: あしゅ太郎


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4-5

 カーテンの隙間から、淡い朝光が差し込んでいた。

 昨夜、眠る直前までオレンの腕に包まれていたはずなのに、

 目を覚ますと、胸の奥がやけに静かだった。


 


 そんな時、扉を叩くノック音が響く。


 


「スペア、オレン。起きているな?」


 聞き慣れた低音――ブラックペッパーだ。


 


「……朝から呼び出しか」

 オレンが眠そうに目をこする。


「報告がある。すぐ来い」


 


 慌てて上着を羽織り、扉を開けると、

 いつものように無駄のない姿勢のペッパーが立っていた。

 朝日を背にしたその輪郭が、どこか戦いの予兆を孕んでいるように見える。


 


「異香班第二編成――本日より正式に任務に入る」


「……任務?」


「目的は“奪われた香り”の奪還。

 対象は二名――ベンゾインとエレミだ」


 


 その名を聞いても、もう驚く者はいなかった。

 エレミがミドルクラス寮で姿を消したあの日から、

 香奏院全体がずっとその名を口にしてきたのだ。


 


「ベンゾインは、例の実験棟事故でノートに封じられたとされる精油。

 そしてエレミは――最近、奴らに奪われた。

 共通点は、“ノートの《白頁》で香気反応が観測された”ことだ」


 


 ペッパーの声には、余計な感情がなかった。

 けれどその奥に、わずかな悔しさの熱が滲んでいた。


 


「異香班第二編成は、《白頁》への潜入を行う。

 敵の支配香を遮断し、封香域の香気核を回収するのが目的だ。

 香りの混合を防ぎつつ、スペアを中心に結界を展開する――

 蒸留結界(スチーム・ブレンド)だな」


 


 俺は深く頷いた。

 ――防香と調和。混ざらず、けれど離れない。

 それがこの班の強みでもある。


 


 そのとき、扉が勢いよく開く。


 


「おはよ! また朝から真面目な顔してるわねぇ、ペッパー隊長!」


 香り高く現れたのは、いつものジャスミン。

 その後ろから、寝癖のままのラベンダーと、鏡片手のゼラニウムも登場した。


 


「……お前ら、誰が許可した」

 ペッパーが眉をひそめる。


「だって、あたしたちも関係あるでしょ? 仲間を取り返しに行くんだもの」

 ジャスミンが涼しい顔で言い返す。


「ふぁ〜……僕、朝弱いけど……スペアのためなら行くぅ……」

「寝言じゃなくて起きてから言え」


「まったく、緊張感のない奴らだな。

 だが――美と勇気は比例する。君たちも、私のように完璧を目指せ」

 ゼラニウムが鏡をパタンと閉じてドヤ顔を決める。


「……はいはい(もう慣れた)」

 俺は小声でツッコんだ。


 


 ペッパーは深く息をついて、全員を見渡した。


「献上側の精油を前線に立たせるのは本来、規定違反だ。

 だが――“スペアに恩を返したい”というその意思を、否定する気はない。

 その代わり、各自覚悟を持て。失敗は許されん」


 


 空気が一瞬で引き締まる。

 オレンが一歩前に出て、真剣な目で言った。


「……もちろん。俺が守ります。スペアも、みんなも」


 


 ペッパーの目がわずかに和らぐ。


「言うようになったな。――異香班第二編成、出撃は明朝六時だ。

 集合に遅れた者は、走香二十周」


「うっ、またそれ……!」

「訓練とは香りを整えることだ」

「なんか名言ぽくてムカつく!」


 


 そんな朝の喧騒の中、

 俺は小さく息を吸い込んだ。

 ――ミントと柑橘の香り。仲間たちの気配が重なり合う。


 


(……もう怖くはない。今度こそ、取り戻す)


 


 その決意が、静かに胸に灯った。


 


 ――同じ頃。


 香奏院・最上階の調香室。


 報告書を手にしたローズマリーは、窓際で小さく息を吐いた。


 


「……やれやれ。献上側がここまで出たがるとはな」


 それでも、その目には苦笑が浮かぶ。


「いいだろう。心を結んだ香りは、命より強い。

 せいぜい奴らに見せつけてやれば良い」


 


 朝の風がカーテンを揺らす。

 ローズマリーの机の上で、淡い香水瓶が光を放った。



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