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姉のBLゲームの世界に転移したけど、“スペアミント”の俺は香りの終焉を止めに行く 〜香奏院とヴァイオレット・ノート〜  作者: あしゅ太郎


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4-4

 湯上がりの体をタオルで拭きながら、

 自室の扉を静かに開ける。


 灯りは落とされ、カーテンの隙間から月の光が差し込んでいた。

 同室のオレンはすでにベッドの片側に入り、

 ぼんやりと窓の外を眺めていた。


 


「……おかえり。

 ゼラニウムと一緒だったのか?」


「……なんでわかるんだよ」


「残り香がする。……あと、その顔。完全にのぼせてる」


「……あいつの話、終わんねぇんだよ。

 風呂なのに、俺の精神が試された気がする」


「ははっ、らしいな」


 オレンが笑いながら、布団を少しめくってくれる。

 俺もそのまま隣に潜り込んだ。

 この部屋のベッドは二人用。

 最初は気まずかったけど、今はもう、

 この距離の近さにどこか安心している自分がいる。


 


 湯気の残る体温が混ざり合い、

 寝息みたいな静けさが部屋を包む。


 


「なあ、オレン」


「ん?」


「……もし、俺が“ノート”に奪われたら……

 どうなるんだろうな」


 


 オレンの表情がわずかに動いた。

 俺は天井を見たまま、ぽつりと続けた。


 


「ノートの中に閉じ込められるだけじゃない気がしてさ。

 “スペアミント”としての存在が消えるだけじゃなくて……

 “久城一葵”としても、現実世界から消えるんじゃないかって思ったら、

 なんか、すげぇ怖くなってきて……」


 


 自分でも情けないと思うくらい、

 声が震えていた。

 けど、止められなかった。


 


「……俺、消えたくないんだ。

 この世界でも、現実でも。

 どっちの俺も、ちゃんと生きてたい」


 


 静寂のあと、

 布団の中でオレンの腕がそっと伸びてきた。


 温かい手が俺の肩を抱き寄せ、

 頭を優しく撫でてくれる。


 


「そんなこと、俺がさせないよ」


 


 その声は低くて、真っ直ぐで――

 まるで誓いみたいだった。


 


「お前はこの世界で、みんなを繋ぐ香りなんだ。

 ノートなんかに奪われてたまるか。

 ……俺が、守ってみせるから」


 


「……オレン」


 


 胸の奥がじんわり熱くなった。

 オレンの手が髪を梳くたび、

 不安が少しずつほどけていく。


 


「大丈夫。

 お前の香りは、ちゃんとここにある」


 


 その囁きが耳のすぐそばで落ちる。

 ミントと柑橘の香りが混ざって、

 あたたかい空気が一つに溶けた。


 


 涙が出そうになるのをこらえて、

 俺はオレンの胸に顔を埋めた。


 


「……ありがとな。

 お前がいると、怖いの半分になる気がする」


「半分? じゃあ残りの半分も、明日奪ってやる」


「はは……頼もしいな」


 


 オレンの笑い声が小さく響く。

 指先が俺の頬を撫で、

 そのまま頭をやさしく引き寄せた。


 


「おやすみ、スペア」


「……おやすみ、オレン」


 


 まぶたを閉じると、

 遠くで香奏院の風がやさしく吹いた気がした。


 ――この香りがある限り、俺はここにいる。


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