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姉のBLゲームの世界に転移したけど、“スペアミント”の俺は香りの終焉を止めに行く 〜香奏院とヴァイオレット・ノート〜  作者: あしゅ太郎


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3-5

 異香班第二編成の訓練が終わった午後。

 香奏院の上層階、執務室。

 重厚な香木の扉の向こうで、ローズマリーが書類を整理していた。

 そこへ、規律正しいノック音が響く。


 


「入れ。」


 扉が開き、黒の制服を纏ったブラックペッパーが姿を現す。

 香りは清廉で、彼の性格そのままだった。


「異香班第二編成の再編完了を報告します。」


「聞こう。」

 ローズマリーが視線を上げる。


 


 ペッパーが書類を差し出す。

 「――新規編入メンバーとして、献上側の精油、

  オレンジ、ジャスミン、ラベンダー、ゼラニウムの四名を認可しました。」


 


 その言葉に、ローズマリーの眉がわずかに動いた。


「……献上側、だと?」


「はい。彼らは自ら志願してきました。

 “スペアへの恩返しがしたい”と。」


 


 ローズマリーは静かにため息をつく。

 「異香班は、本来“混ざらない香り”の集団。

  献上側の精油が入るのは、前例がないな。」


「承知しております。」

 ペッパーは頭を下げた。

 「私も止めたのですが……彼らの熱意に、押し切られました。」


 


 しばしの沈黙。

 やがてローズマリーが、ゆるく笑った。


「……ふむ。お前が折れるとは、よほどのことだな。」


「はい。

 彼らの香気は、異香班の理念にはそぐいません。

 だが、スペアを中心に形成した“蒸留結界”において――

 混ざらずに共鳴することが、すでに可能だと確認しました。」


 


 その報告に、ローズマリーの瞳が一瞬だけ輝く。

 「……蒸留結界。

  なるほど、スペアの調香感覚が献上側精油をまとめあげるほどに昇華されたか。」


「はい。あの少年は、香りの“境界”そのものを媒介できるようになっています。

 異香班と献上側の“中間点”――新たな調香理論が、確立しつつある。」


 


 ローズマリーは机上のペンを転がし、軽く息を吐く。

 「本来なら止めるべきだ。

  献上側の精油が戦闘に出るというのは、

  “香りを奪われる”リスクがある。」


 そこまで言って、少しだけ口元を緩める。


 「……だが、止められんだろうな。

  心がひとつになった精油たちを。」


 


 ペッパーが静かに頷く。

 「彼らは戦いを恐れていません。

  ただ守りたい香りがあると言っていました。」


「……仕方ない。

 調香師様には、俺がうまく伝える。」


 ローズマリーは立ち上がり、

 窓の外に沈みかける夕陽を見つめた。


「異香班の再編――悪くない。

 だが、嵐が来る。香りの均衡が揺らぐ日が、近い。」


 


 その言葉が、静かに部屋に溶けていった。


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