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姉のBLゲームの世界に転移したけど、“スペアミント”の俺は香りの終焉を止めに行く 〜香奏院とヴァイオレット・ノート〜  作者: あしゅ太郎


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3-3

 放課後の教室。

 窓の外から差し込む橙の光の中で、オレンがひとり紙を握りしめていた。


「……え? 俺、異香班の再編メンバーに……?」


 紙に記された文字を何度も読み返す。

 《異香班第二編成 新規編入:オレンジ》

 見間違いではなかった。


 


 「オレン、どうした?」

 隣の席でノートをまとめていたスペアが首をかしげる。


「いや、その……俺、異香班に入ることになったみたいで……」


「は!? え、献上側の代表だろ? なんで戦闘班に!?」


「わ、わからないけど、“スペアとの連携が評価された”って……」


 


 スペアが絶妙な顔でオレンを見る。

 「……お前、俺と同室ってだけで巻き込まれたんじゃ……?」


「そ、そんなことないと思う! たぶん!」


 


 そのやり取りの最中、廊下から足音が近づいてきた。

 テンポの良い靴音と共に、扉がノックもなく開く。


 


「おいスペア、話がある――って、もう聞いてたか」


 現れたのは、異香班リーダー・ブラックペッパー。

 いつも通りのきっちりした制服姿に、無駄のない動作。

 真面目さが香り立つような男だった。


 


「再編の件、正式に伝達する。

 異香班第二編成として、香気塔防衛とノート迎撃の任務に当たる。

 スペア、オレン――訓練室に来い。内容を説明する」


「うわ、もうそんな急に!?」


「決定事項だ。異論はないな?」


「いやいやいや! 心の準備ってもんが!」


 

 スペアが慌てて立ち上がったそのとき――



「ちょっとお待ちなさい、ブラックペッパー。」


 扉の向こうから、ふわりと甘く上品な花香が流れ込んだ。

 まるで風ごと香りを纏って現れたように、ジャスミンが教室へ滑り込む。

 白いローブの裾が優雅に揺れ、どこか舞台の一幕のようだった。


「まさか……」

 スペアが眉をひそめるより早く、ジャスミンは微笑んで言った。


「私も、参加させていただくわ。ノートと戦うのでしょう?

 だったら、スペアを放っておけないもの。」


「いや、なんでそんな“姫の散歩みたいなノリ”で決めてんの!?」


「ふふ、軽くだなんて言わないで。

 本気よ。――だって、あの穢香事件で私たちを救ってくれたのは彼なんだから。」


 その声音は柔らかく、それでいて芯がある。

 美しい指先で髪をかき上げながら、ジャスミンは静かに続けた。


「今度は私が、彼を護る番よ。……そうでしょう、隊長?」


 


 ペッパーは一瞬たじろぎ、額に手を当てる。

 「……ジャスミン。お前、こういうのは正式な手順を――」


「申請書は提出済みよ♡」


 にっこりと完璧な笑み。

 香りと同時に空気まで支配されるような圧。


「早っ!!」とスペアが全力でツッコむ。


「ふふ。行動が早いのは“献上側のたしなみ”というものよ?」


「たしなみのスケールでかすぎるだろ!」


 


 ペッパーはため息をつきつつ、書類を確認する。

 「……確認した。確かに受理印があるな。お前、誰よりも動きが早い……」


「“美しい者は行動も優雅に”って、教わらなかった?」


「いや、そんな教育受けてねぇ!」


 


 教室の空気が一気に明るくなる。

 スペアは頭を抱えながらも、口元に苦笑を浮かべた。


(この人、ほんと強いな……いろんな意味で)


 


 その直後、別方向から声がする。


「ふぁ〜あ……僕も、行くよぉ」


 机に突っ伏していたラベンダーがゆっくり顔を上げ、

 眠そうな目で手を挙げた。


「ラベンダー、お前寝起きだろ!」


「眠いけど、スペアのためなら……頑張るぅ」


「いや、いいからそこで寝てろ!」


 


 笑いが起きる中、さらに追い打ちをかけるように、

 鏡を片手に優雅に現れたゼラニウムが言い放つ。


「当然、私も出るよ。

 この美しさを戦場で輝かせない手はないだろう?」


「お前は戦う前に髪いじるのやめろ!」


「身だしなみは戦いの基本だよ?」


 


 ツッコミが追いつかないスペアの横で、

 ペッパーは無言で深呼吸していた。


「……訓練前に市場の喧騒を聞くとはな」


「市場言うな!」


「だが、志願理由は全員“スペアへの恩返し”。

 理由としては悪くない。……却下する理由もないか」


「あるだろ!? 戦闘力とか!?」


「香りの潜在値は十分だ。

 むしろ、問題はお前の心臓の強度だな」


「俺の!? なんで俺基準!?」


 


 ジャスミンが楽しそうに笑い、

 ラベンダーは半分寝たまま「平和がいちばんだよねぇ」と呟き、

 ゼラニウムは鏡越しに「戦場の風も悪くない」とウインクを飛ばした。


 


「よし、決まりだ」

 ペッパーが手帳を閉じる音が、教室のざわめきを一瞬止めた。


「異香班第二編成――訓練開始は明日朝七時。

 遅刻者には追加走香(そうこう)二十周だ」


「うわ、地獄のやつ……!」とスペア。


「当然だ。香りは努力で磨かれる。

 ――お前たちがその証明になれ」


 


 そう言い残して去っていくペッパー。

 その背中を見送りながら、スペアは思わず苦笑した。


「……真面目にもほどがあるな、あの人」


「そこがいいんじゃない?」

 隣でオレンが微笑み、軽く肩を叩く。


「俺、あいつには絶対負けられないからな」


「お前までやる気かよ……!」


 


 教室には、笑い声といくつもの香りが混ざり合っていた。

 柑橘の爽やかさ、花の甘さ、スパイスの鋭さ――

 そのどれもが、確かに生命の香りとして調和していた。



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