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姉のBLゲームの世界に転移したけど、“スペアミント”の俺は香りの終焉を止めに行く 〜香奏院とヴァイオレット・ノート〜  作者: あしゅ太郎


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1-5

 翌日。

 香奏院の中庭に行くと、すでに二人の柑橘兄弟――レモンとグレープフルーツが険しい顔で立っていた。

 空気がぴりついてる。どう見ても“家族会議”の真っ最中だった。


 


「兄貴さ、昨日……他のヤツに圧搾頼んだって本当?」


「うん。スペアに手伝ってもらったよ。ほら、これ見て。」


 


 オレンがポケットから小瓶を取り出す。

 瓶の中で、金色の液体が陽光を受けて揺れた。

 それは昨日、俺が“絞った”やつだった。


 


「兄貴……よりによってスペアって……!」

 レモンが目を丸くする。


「相性良すぎるって有名じゃん! 危険だよ! 香りが混ざったら、“恋の調香”になるんだよ!?」


 


「“恋の調香”ってなにそのイベント名!?」

 思わず口を挟んでしまった俺。

 次の瞬間、言わなくていい一言が、つい口をついて出ていた。


 


「あ、でも大丈夫だと思うぞ? ……オレン、くすぐったくて声出てただけだったし。」


 


 ――沈黙。


 


 あ。

 やらかした。

 これ、確実に言っちゃいけないやつだった。


 


「……え、兄貴?」

「声? 兄貴が? どういう意味?」


 


 二人の視線が、ぴったり揃って俺に突き刺さる。

 オレンは顔を真っ赤にして飛び上がった。


 


「ス、スペア!! それは違うっ!! くすぐったかっただけで! 変な意味じゃないからな!?」


「え? でも、“あ、ん……そこいい”って——」


「言うなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 


 オレンの絶叫が中庭に響き渡った。

 レモンは顔面蒼白。グレープフルーツは変な咳をしている。


 


「兄貴……まさか……“初絞り”で……?」


「違うっっ!! だから“初絞り”とか言うなって!!」


 


 もう無理だ。

 俺は両手で顔を覆った。

 どう言い訳しても、誤解しか生まれない。


 


「ちょ、ちょっと待て! 誤解だって! 本当に大したことじゃなくて!︎︎変な意味じゃない!

 その……押した時に反射で、こう……!」


 


「“反射であん”はないだろ、スペア……」


「だから違うんだってばぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 


 わちゃわちゃと混乱する中庭。

 そこへ、のんびりとした声が割って入った。


 


「なにしてんの、柑橘の皆~。今日もにぎやかだねぇ。」


 


 ふらりと現れたのはラベンダー。

 紫の髪を風に揺らし、眠そうな目でこちらを見る。


 


「……ん? なんか“声が出た”とか聞こえたけど?」


 


「忘れろォォォォォォォ!!」


 


 オレンの悲鳴が、再び香奏院の空へと響いた。

 レモンはうなだれ、グレープフルーツは爆笑。

 ラベンダーは「青春っていいねぇ」とか言いながら去っていった。


 


 ――柑橘の香りが、甘酸っぱくて、どこかくすぐったい午後だった。

 それは笑いの残り香みたいに、いつまでも消えずに漂っていた。



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