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姉のBLゲームの世界に転移したけど、“スペアミント”の俺は香りの終焉を止めに行く 〜香奏院とヴァイオレット・ノート〜  作者: あしゅ太郎


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穢香編 エピローグ

 世界が安定してから、季節がひとつ巡った。

 穢香の影は消え、香奏院には穏やかな日々が戻ってきた――

 ……はずだった。


 


 ミントの風がそっと頬を撫でる。

 “現実”で目を開けたはずの一葵は、気づけばまたこの世界に立っていた。

 ――どうやら、香りの道は今も彼を往復させているらしい。


 


「スペアくーん! 今日こそ僕と香水結びの続きをしよう!」

 朝の廊下にラベンダーの甘い声が響く。

 両手を広げて突進してくるその姿に、スペアは反射的に後ずさった。


「ちょ、ちょっと待て! 先約は私だろう!」

 すかさずゼラニウムが横から割って入る。

 花の香りがぶつかり合い、廊下の空気が一瞬で華やかに――いや、むしろ濃くなった。


 


「いやいやいや、授業始まるから! 今ここで混ざったら廊下が香害だって!!」

 カバンを抱えて逃げ場を探すスペア。

 その背後から、飄々とした声が落ちてきた。


 


「……人気者だねぇ、スペアくん」


 


 ジンジャー。いつものように試験管を弄びながら、にやりと笑う。


「昨日も三人と仮結びしてたでしょ? 僕のデータにもちゃんと残ってるよ」

「記録すんな!! てか何観察してんだよ!」

「研究の一環だよ。で、今日の午後、空いてる?」

「いやだから! 話聞けって!!」


 


 混乱の渦の中、低く凛とした声が響いた。


 


「――訓練室、集合だ。」


 


 ペッパー。黒のコートを翻し、静かな威圧感をまとって立っている。

 その一言で、周囲の香りが一斉に静まり返った。


 


「え、また特訓かよ?」

「お前の調香精度は、まだ甘いからな」

「うわ……またそれ……」


 


 渋い顔をするスペアの横から、オレンが割って入る。


 


「おい黒胡椒! お前ばっか訓練って言い訳してスペア独占してんじゃねーよ!」

「独占ではない。監視だ」

「どっちにしろ変わんねぇよ!」


 


 廊下に静かな火花が散る。

 その間で板挟みになったスペアは、げっそりとため息をついた。


 


「……平和になっても、俺だけ平和じゃねぇんだけど……」


 


 ペッパーがふっと目を細める。


 


「落ち着く必要はない。お前がこの学園の中心だ。

 ――“香奏院は、お前の香りで回っている”」


 


 真顔でそんなことを言うから、スペアの耳が真っ赤になる。


 


「お、お前な……そういうことサラッと言うなよ……!」


 


 隣でオレンがぷくっと頬を膨らませた。


 


「ずるい! そういう甘いセリフは俺の担当だろ!」

「いや、担当とかないから!」


 


 わちゃわちゃと騒ぐ三人を見て、ティーツリーとパチュリが小さく笑う。


 


「……結局、平和ってこういうことなんだね」

「うん。穢香が消えても、彼らの騒がしさは変わらないけど」


 


 窓の外では春の光がやさしく差し込み、風が花の香りを運んでくる。

 ミントと柑橘と胡椒が混ざり合い、穏やかに広がっていった。


 


「よし、みんな行こうぜ!」

 オレンが手を差し出す。

 スペアは苦笑しながらも、その手を取った。


 


 ――今日も香奏院は賑やかだ。

 異香班も献上側も、誰もが笑っている。


 


 ミントの風が吹き抜け、香りがひとつに溶ける。

 それはまるで、二つの世界が今も確かに繋がっていることを教えるようだった。


 


 「――香奏院の平和は、今日もいい香り……ときどき、刺激強め。」


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