表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
姉のBLゲームの世界に転移したけど、“スペアミント”の俺は香りの終焉を止めに行く 〜香奏院とヴァイオレット・ノート〜  作者: あしゅ太郎


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

31/83

4-4

 翌朝の香奏院は、まるで学園祭でも始まったみたいに騒がしかった。


 どこへ行っても、誰かが俺の名前を呼ぶ。

 いや、正確には――「異香班と香水結びしたスペアミント」の名前を。


 


「スペアくんっ! 本当にブラックペッパーと香水結びしたの!? すごい!!」

 ラベンダーが両手をぱたぱた振りながら駆け寄ってくる。


「なっ、なんでその話知ってんの!?」


「オレンが言ってたよ!“俺の同室は異香班にまでモテるんだぜ”って!」


 


「オレン……!!!」

 振り返ると、教室の後ろでオレンがパンを頬張っていた。


 


「だって隠してもバレるだろ? なら先に俺が広めた方が得じゃね?」


「なにが“得”だよ!? おかげで今、俺の席までたどり着けねぇんだけど!?」


 


 案の定、あっという間に囲まれる。


 


「次は僕とも香水結びしようよ!」

「いや、俺が先だって!」

「順番を決めよう。美しさの序列に従って」

「は? 何だよ“美しさの序列”って!!」


 


 全方向から漂う花と果実とハーブの香り。

 頭がクラクラする。


 


「なぁ……これ、地味に命の危険あるやつじゃね?」

 オレンが苦笑いしながらつぶやいた。

 「……いや、笑えねぇ。マジでスペア、最近いろんなやつと結び過ぎてねぇ?」


 


「は?」


「ほら、前はゼラニウムとラベンダーとの三重ブレンドだろ?

 その次はジャスミン、で、最近はペッパー。

 ……どんだけ寝盗られてんの、俺の知らねぇとこで」


 


「別に寝てねぇよ!! 語弊があるからその言い方やめろ!」


 


「いや俺から見たらそう見えるんだよ!

 同室のくせに、夜になるといっつも他の香りまとって帰ってくるしさ……!

 俺の立場どこ行ったんだよぉ……!」


 


 最後の方、ほんとに涙ぐんでいた。

 柑橘の香りまで、しょっぱく感じる。


 


「……なんだこの空気」

 俺が頭を抱えた瞬間――

 廊下の向こうから、低い声が響いた。


 


「――訓練の時間だ」


 


 黒いコートの裾が風を切る。

 現れたのはブラックペッパー。

 その目は、まっすぐ俺だけを射抜いていた。


 


「おはようペッパー。てか、今!? 最悪のタイミングすぎる!」


「当然だ。お前の香気はまだ不安定だ。放置できん」


「いやお願いだから今は放置してくれ!!!」


 


 教室全体が静まり返る。

 そして、空気を読まないゼラニウムがぽつり。


「“香気が不安定”って、つまり“混ざりやすい”ってことだろう?

 ……ふふ、やっぱり君は罪な体質だね、スペア」


 


「もうやめろその言い回し!!!」


 


 混乱の中、ペッパーは俺の腕を掴んで引いた。


「行くぞ。訓練だ」


「ちょ、無理矢理すぎ!!」


 


 その背中を、オレンが唇を噛みしめて見送る。

 柑橘の香りが、微かに滲んだ。


 


「……俺、また寝盗られたのかよ……」

 ぽつりと落ちたその言葉は、やけに寂しげで。


 次の瞬間、ラベンダーが肩を叩いた。

 「オレンくん、元気出して。“寝盗られ属性”も一種の才能だよ」


「うるせぇ慰めんな!!」


 


 結局、俺はまたペッパーに引っ張られていった。

 教室のざわめきが遠ざかる。


 


(……俺、どこ行ってもモテるっていうより、

 トラブルメーカー扱いされてね?)


 


 苦笑いしながら振り返ると、

 廊下の奥でペッパーが小さく呟いた。


「……混ざりやすいのは、悪いことじゃない。

 でも――俺以外に混ざるのは、面白くないな」


 


 その声は、誰にも聞こえなかった。

 けれど、俺の心臓だけが確かに反応した。


 香りが一瞬、熱を帯びて揺らぐ。

 ――それが、恋の香りだと気づくのは、もう少し先の話。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ