4-2
朝の光がカーテン越しに差し込み、
ミントと柑橘とスパイスの混ざった、妙に刺激的な空気が漂っていた。
「……なあ、スペア」
隣で寝返りを打ちながら、オレンがぼそりと呟く。
「寝返り打つたびに胡椒の香りで目ぇ覚めたんだけど……結局、朝までいたのかよ」
「……いたな」
低く落ち着いた声が返る。
ベッドの向こう――黒いコートのまま、ブラックペッパーが真顔で座っていた。
「お前……ほんとに朝まで監視してたのか?」
オレンが眉をしかめる。
「監視ではない。確認だ。――防香結界を張った」
「……防香?」
身を起こすと、確かに周囲の空気が違っていた。
淡い胡椒の膜のような香気が、俺の周囲だけをやわらかく包んでいる。
「穢香の干渉を防ぐためだ。
お前は“混ざりやすい体質”だと前から言っている。
何かあってからでは遅い」
「……つまり」
オレンが腕を組み、半ば呆れ顔で言う。
「スペアをお前の香気で囲ってたってことか?」
「そうだ」
「開き直るなよ! 完全に独占行為じゃねぇか!」
「違う。保護だ」
ピリッと空気が弾ける。
オレンの柑橘の香りがふわりと膨らみ、ペッパーの胡椒とぶつかった。
スパイスとシトラス、鋭さと甘みがぶつかるたび、空気の温度が一度ずつ上がっていく。
「……じゃあさ」
オレンが小さく息を吐き、挑むように笑った。
「穢香を防ぐためって言うけど、
要するに“香水結び”をしなきゃ関係ないってことだよな?」
「理屈の上では、そうだ」
「なら――こうしても問題ないよな?」
次の瞬間。
オレンが俺の肩を軽く引き寄せ――
ちゅ。
柔らかな音が響いた。
柑橘が弾け、瑞々しい香りが一気に満ちる。
「っ……!?!?!?」
脳が一瞬、完全にフリーズする。
「キスじゃ香水はできねぇし。……ノーカンでいいよな?」
オレンが勝ち誇ったように笑う。
その言葉の直後。
「なっ……!! それはダメだ!!!」
ペッパーの声が鋭く跳ねた。
「なんで? 香水結びじゃねぇだろ? だったらお前には関係ないよな?」
オレンが肩を抱いたまま、挑発的に目を細める。
「……離れろ」
「やだね。俺、同室の特権あるし」
柑橘の甘さと胡椒の刺激が正面からぶつかる。
空気が一瞬、火花のように明滅した。
その間に、ミントの清涼が中和するように広がっていく。
3つの香りがせめぎ合う。
けれど不思議と不快ではなく、
むしろ体の奥が熱くなるような、心地よい混ざり方をしていた。
「お前ら、朝からやめろよ……」
俺は両手で顔を覆い、半分呆れたようにため息をついた。
それでも、3人の間に流れる香りは――
どこかあたたかくて、少しだけ甘かった。




