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姉のBLゲームの世界に転移したけど、“スペアミント”の俺は香りの終焉を止めに行く 〜香奏院とヴァイオレット・ノート〜  作者: あしゅ太郎


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18/83

3-2

 穢香事件のあと、俺は決めていた。

 ――もうこれ以上、ルート分岐は増やさない。


 誰かと関われば、香りが混ざる。

 混ざれば、何かが変わる。

 それが怖かった。


 だから授業が終わればすぐ寮へ。

 オレンとは相変わらず同室。でも変な空気にはなっていない。

 ラベンダーとゼラニウムは相変わらず張り合ってくるが、俺は“平和的スルー”を徹底していた。


(……この調子で期末まで、何も起きなければいい)


 そう思っていた、ある日の午後。

 図書館で、事件は起こった。


 静かな館内。ページをめくる音。

 棚の向こうから、ふわりと花の香りが流れてくる。


(……この香り)


 初日に一度だけ混ざった、あの“ジャスミン”。


「やっぱり、あなたなのね」


 白い衣のような長髪の青年が立っていた。

 柔らかな微笑みなのに、どこか挑発的。

 光に透ける金の瞳が、まっすぐ俺を捉える。


「“スペアミント”。あなたと、また会いたかったの」


「……ジャスミンさん。お久しぶり、です」


 彼は軽やかに歩み寄り、手の本を閉じる。

 仕草ひとつで空気が香りに染まる。華やかで、強い。けれど嫌じゃない。


「あなたの香り、覚えているわ。

 あの時、私の香水が“混ざった”のは、あなたが初めてだった」


「……混ざった?」


「私はね、香水を作ると相手の香りを打ち消してしまうの。

 どんな香りも、私の中で“消える”。それがずっと悩みだった」


 ジャスミンは微笑む。

 ほんの一瞬だけ、影が差す。


「でも、あなたは違った。

 あなたは消えなかった。むしろ――私をより“美しく香らせた”」


 指先が机上に香水瓶の形をなぞる。

 指から立つ香りが、図書館の空気をやさしく満たした。


「……お願いがあるの。

 もう一度、私と香水を作ってほしい」


「え……」


(待って、完全にイベント発生じゃん……! いやフラグ立てないって決めたのに!)


「あなたの香りを研究したいの。

 どうして“消えない”のか。どうして私を惹き立てるのか。

 香りの理を超えている――まるで、“運命”みたいに」


「いや、運命とか言われても……俺、ただの……」


「スペアミント」


 熱の宿った呼び方。

 図書館の静けさの中で、二人だけの空気が濃くなる。


「あなたが私の隣にいると、世界が鮮やかになるの。

 お願い。もう一度――“私の香水”を一緒に作って」


 祈るような光が、その瞳に揺れていた。


(……断れないやつ、これ)


 深くため息をつき、俺は――頷いてしまった。


 その瞬間、香りがふわりと弾ける。

 まるで“新たなルートが解放されました”と告げるみたいに。


(ああ……また分岐した……!)


 頭を抱える俺の前で、ジャスミンは嬉しそうに微笑んだ。


「ふふ。ありがとう。あなたの香りが、待ち遠しかったわ」


 窓から差す光が、金色の花弁みたいに揺れる。

 その真ん中で、ジャスミンの香りが優雅に舞い、

 俺の心を――静かに、確実に染めていった。

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