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違和感

「尾口先輩、あれ……なんなんですか?」

「あー……この建物を管理してる奴だよ」

「建物の管理? それにしては……」


違和感。


「建物の管理」というには、妙だった。

そもそも、この建物の管理者が自分たち警備員と直接顔を合わせることなんて、今までほとんどなかった。


「あの人、上のフロアの人たちには伝えたんですかね?」

「ああ。問題ない……が、一つあるな」

「問題?」


尾口先輩は腕を組み、少しだけ考え込んでから言った。


「今日、産業医が来ててな……上のフロアで健康診断やってるんだよ。でも、急にこんなことになっただろう? 工事の話が出たのも今朝だし、バタバタしててな」

「あーご愁傷様です」

「オレはこれから他のバイトに連絡したり、本部に行ったりしなくちゃならなくなったんだ」

「はぁ」


「だからさ、伸一郎。オレの枠で受けといてくれよ」

「はぁ?」


「伸一郎、お前、どうせ夜の授業までヒマだろ? 健康診断の枠、穴を開けるわけにはいかないんだよ」

「え、でも俺、単なるバイトですけど……」

「いいから受けとけって。お前、健康診断受けたがってただろ? タダで受けられるんだし、悪い話じゃないぞ?」

「いやいや、そんな話してないですよ。尾口先輩、それはおかしいですよ。はっ。もしかして、酒が抜けてないから健康診断受けたくないだけじゃ……」


「バ、バカ言え! そんなんじゃねぇよ!」


慌てたように手を振る尾口先輩だったが、そのタイミングでポケットの携帯電話が鳴った。


――携帯?


尾口先輩は普段、警備室に私物を持ち込まない主義のはずだ。それが、今日は携帯を持っている。珍しいな、と伸一郎が思ったのも束の間、尾口先輩は素早く携帯を取り出して着信を確認した。


「……っと、悪い。ちょっと出るわ」


電話に出る間際、尾口先輩は素早く言い放った。


「じゃあ、伸一郎。そういうことだから頼むぞ。お前が健康診断を受けるって話はもうしてあるから」


「は!? いや、ちょ――」

「医務室は7階だからな!」


伸一郎の返事も聞かず、尾口先輩はさっさと警備室から出て行ってしまった。


伸一郎は呆然とする。


「……マジかよ」


気がつくと、テーブルの上に一枚の紙が雑に置かれていた。


『問診票』――そこには、伸一郎の名前がしっかり印字されていた。

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