心配
二人で折り畳みテーブルを出し、唐揚げを盛りつけた。久しぶりに食べる揚げ物に、伸一郎は思わずほっとした。香ばしい香りが部屋中に広がり、胃が喜ぶのが分かる。
「作った自分で言うのもなんだけど、上手いな」
伸一郎が一口頬張りながら呟くと、雪も静かに頷いた。
彼女は箸を取ると、揚げ物をひとつ選んで口に運ぶ。あまり多くを語らず、けれどその表情には心地よさが漂っている。
伸一郎はその様子を見ながら、少し迷っていた。
(雪は……あの男と何を話していたんだろう)
その疑問が頭をよぎる度に、気持ちがモヤモヤと重くなる。彼女がどうしても他人と関わるのを許せない気持ちが、伸一郎の中にあるのかもしれない。
やがて、伸一郎は意を決して、口を開いた。
「「……あの」」
伸一郎が声を掛けたその時、ちょうど雪も伸一郎に尋ねた。お互いが驚いたように顔を上げ、静かに見つめ合った。
「雪、どうした?」
伸一郎が少し緊張しながら尋ねると、雪はしばらく黙った後、小さく声を漏らした。
「最近……伸一郎の様子が、心配」
その言葉に、伸一郎はぎくりとした。
「心配って……」
言葉がうまく続かない。どうしてそんなことを言われるのか、少し戸惑いながらも、伸一郎は内心で焦っていた。
すると、そのとき——
テレビの音声が急に大きくなった。
『昨晩未明、宿泊施設の一室で飲食店従業員の◯◆さんが意識不明の状態で倒れているのを、宿泊施設の従業員が発見しました。病院に運ばれて治療を受けておりますが、意識不明の状態。宿泊施設の監視カメラはなにものかに破壊されており----』
その言葉に、二人は一瞬でテレビの画面に目を向けた。
伸一郎はなんとなく背筋を伸ばしながら、「事件かな? 雪も気をつけろよ」と言い、リモコンでテレビのチャンネルを変えた。
雪はその言葉に、小さく頷いたが、視線はテーブルの上に落ちたままだった。
「……うん」
短く答えた後、雪は睫毛を伏せ、食卓の上をじっと見つめる。
その沈黙に、伸一郎は少しだけ胸が痛くなった。心のどこかで、雪が心配している理由を知りたかった。でも、それを口に出すのは何となく怖かった。
食卓の上には唐揚げの香りがまだ漂っていたけれど、その美味しさがどこか遠く感じる。二人の間に漂う空気が、静かに、しかし確実に変わっていくのを感じながら、伸一郎はもう一度、雪の顔をちらりと見た。




