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チューニング
翌朝、伸一郎は目覚めてしばらく布団の中でぼんやりしていた。頭が重い。夢のせいで寝起きは最悪だった。
けれど——
(……なんだ?)
身体は驚くほど軽かった。
ここ最近のだるさや倦怠感が嘘のように消えている。
夏の湿気で寝苦しかったはずなのに、まるで一晩かけて全身を浄化されたかのようにすっきりしていた。
「……気のせいか?」
寝不足のわりには、頭も妙に冴えている。
そのまま大学へ行き、いつものアルバイト先で仕事をしていると、先輩の尾口が気楽な調子で言った。
「おっ、伸一郎。今日は顔色いいな」
「え、そうっすか?」
「おう、ここ最近は死にかけたみてぇな顔してるのに、今日はやけに元気そうじゃねぇか」
「ひどいですね……」
苦笑しつつも、伸一郎は心のどこかで違和感を覚えていた。まるで自分の身体が、何か見えない力でチューニングでもされたかのように。
(——でも、なんで?)
原因はわからなかった。
だが、この変化が『良いこと』であるのなら、わざわざ深く考える必要もないのかもしれない。
伸一郎はそう結論づけて、アルバイトに戻った。そのすぐ近くで、闇のような気配がひっそりと蠢いていることには、まったく気づかないまま——。




