バニラアイス2
スマートフォンの画面に映る日付を見た瞬間、息が詰まった。
──5月18日。
ありえない。オレが最後に覚えているのは──
5月13日。
5日間の記憶が、すっぽりと抜け落ちている。
耳鳴りがする。背中を指先でなぞられるような、不快な悪寒。思考が波打つ。
ふと、右手に違和感を覚えた。視線を落とすと、指先がかすかに震えている。
**“軽井沢土産”**と書かれた紙袋が握られていた。
こんなもの、買った記憶が、ない。
手の中の紙袋がやけに生々しく感じられた。指先に伝わるザラついた感触、微かに染みついた甘い香り。
──ありえない。
オレは軽井沢になんて行っていない。
なのに、まるで確かな証拠のように、それはオレの手の中にあった。
「……オレ、何をしていた?」
自分の声が、ひどく遠く聞こえた。頭がぐらつく。足元がふわりと揺れる。
そのとき──
「伸一郎?」
名を呼ばれ、心臓が跳ねた。
振り向くと、そこに雪がいた。
「雪、ちゃん……」
「どうしたの?」
首をかしげる彼女の表情は、いつもと変わらないはずなのに、何かが引っかかる。
違和感の正体が掴めないまま、オレは混乱した思考を押し殺しながら口を開く。
「ああ……あれ?さっき、雪ちゃん、夕飯を……オレ、なんで軽井沢土産なんて……」
言葉にしながら、また背筋が冷えた。
まるで他人事のようだ。まるで、“知らない誰か”の行動をオレが後追いしているみたいに。
「軽井沢に一緒に行ったんだよ」
雪は、静かに言った。
「……軽井沢に?」
「うん」
雪と、軽井沢に?
目を閉じ、必死に思い出そうとする。
頭の中を掘り返しても、何も出てこない。時間の空白がそこにあるだけで、その間に自分がどこで何をしていたのか、何一つ思い出せない。
──でも、雪が言うのだから。
「色々あったから疲れたんだね」
彼女はそう言って、オレの腕をそっと掴んだ。
オレは抵抗することなく、その手に引かれる。
ただ、微かに触れた雪の手は、氷のように冷たかった。