休憩室・唐揚げ弁当・犯罪
尾口先輩は、立派な体格と悪そうな人相とは裏腹に、オレには優しく接してくれた。
警備員の仕事をイチから教えてくれたのも尾口先輩だし、たまに飲みにも連れて行ってくれた。
職場ではぶっきらぼうだけど、面倒見のいい兄貴分みたいな存在。……いや、ぶっきらぼうどころか、周囲からはちょっと怖がられている。まあ、見た目がアレだからな……。
そんな尾口先輩に、昨日の出来事を簡単に話した。
尾口は黙って話を聞きながら、インスタントの味噌汁の蓋を開け、湯気を避けるように目を細める。
「なら、しばらくは飲みにも誘えねーな」
弁当をつつきながら、ボソリと呟く。
「そうです、尾口先輩。本当に残念で申し訳ないのですがね……可愛い幼馴染を1人にしておくのは可哀想ですから」
「“可愛い”ねぇ……」
伸一郎はわざと大げさに肩をすくめ、悲しそうな顔をしてみせる。
尾口先輩は「へぇ」と薄く笑った。
「可哀想ったって、ずっといるわけじゃないんだろう? その、雪って子か?」
「まあ……それは……」
言いよどむオレに、尾口先輩はじっと目を向ける。
「お前なぁ……女が1人で、独身の男の家に来るって相当だぞ」
「相当ッて、ナンですかっ!?」
――その一言で、伸一郎は思わず唐揚げを飲み込んだ。ゴホッ、とむせる。
「そもそも未成年だろう?親は知っているのか?知っていたとしても幼馴染とはいえ、お前のやってることは完全に犯罪だぞ」
「……」
痛いところを突かれて、口の中が一気に乾く。
そうだ、雪ちゃんは未成年なのだ。
“大丈夫だ” と言いたい。
でも、その根拠がない。
「まあ、お前らがどういう関係なのか、知らんオレが言うことでもないがな」
そう言いながら、尾口先輩は雑に味噌汁をすすり、チラリとこちらをうかがう。
「……仕事が、終わったら、親御さんのところに……電話します……」
搾り出すように言うと、尾口先輩は短く頷いた。
「そうした方がいい。早く迎えにきてもらえよ」
尾口先輩は、箸で唐揚げをつまみながら、いつもとは違う静かな声で言った。
「そうでないと――情が湧くぞ」
カリッ――衣を噛み砕く音が、休憩室に響いた。
「そうなれば、おかしなことになっても、離れられなくなる。……辛い思いをするのは、伸一郎。お前なんだぞ」
低く、静かな声だった。
冗談でも、からかいでもない。
まるで――“知っている” みたいに。
伸一郎は、箸を止めたままじっと尾口先輩を見つめた。だが、尾口先輩は何も言わず、ただ黙々と唐揚げを口に運ぶだけだった。
念の為に書きますけど、本当にしたら犯罪ですからね。これはフィクションですからね。