8.覚醒
その日から、麗は不思議なことに気づき始めた。 病院の廊下をふらふらと歩く中で、突然、周りの病人たちの考えていることや心の中の声が、手に取るようにわかるようになったのだ。
例えば、白衣を着た男性の病人が、妻と子供たちのことを心配しているのが感じ取れたり、年配の女性が孫の笑顔を思い出して微笑んでいるのが分かったりした。
これはまるで、彼らの心の窓をのぞくような感覚だった。 麗は最初、自分の気のせいだと思った。 しかし、同じことが何度も起こるうちに、それが偶然ではないことに気づいた。 自分の不思議な力に戸惑いながらも、周囲の人々の思いや感情を知ることができることに少しずつ慣れていった。
(どうして私にこんなことが…? )
その力が役立つこともあれば、時には苦しいこともあった。 特に、他人の悲しみや苦悩を強く感じることが、麗にとって大きな試練だった。 しかし、それでも彼女はこの新しい世界に立ち向かっていく決意を強めていた。
しかし、ある日、事件が起こった。 麗はある人の心の声を読みすぎてしまったようで、その内容が問題だった。 その心の声とはこうだった。
(ー 今、この小娘が何を考えているかを知りたい。 ー )
この声を聞いた麗は恐怖で震え上がった。 もし自分の考えていることが相手に知られるとすれば、それは丸裸にされるのと同じことだ。 しかもその声の主が誰なのか、麗には見当もつかない。 それがまた彼女を悩ませた。 そしてついにある日のこと、その声の主のあるまじき声が聞こえてきてしまったのだった。
(ー 畜生! あの娘は一体なんてことを考えているんだ! ー )
それを聞いた麗は絶望した。 今まで自分が考えていたことは全て相手に筒抜けだったのだ。 しかし、それは一体誰の声なのだろうか? その声の主は一体誰なのか?
(同じ能力を持つ者が、他にもいるっているの? )
麗は悩み続けた。 そしてある日、彼女は遂にその答えを知った。
(ー 麗…麗…ほら麗…、そんな能力を持つなんて、これから大変だねぇ。それなりの覚悟は、できてるんだろうねぇ? ー)
(あなたは…誰!?)
(ー 私?ハハ。麗は麗だよ。麗の麗は…なんだったっけなぁ?アハハハ ー)
(…!?)
(ー もう死んじゃったほうがマシなんじゃないかなぁ?あの時は、惜しかったなぁ。もう一度、私が殺してあげようか?アハハハ ー)
(…おまえは…!)
なんと…彼女は自分の心の声を聞いていただけのことだった。 そう、彼女こそが真犯人だった…。他ならぬ彼女自身が、彼女を苦しめていた。まるで永久機関のように…。 それを知った瞬間、麗は力が抜けると同時に、正常な心が保てなくなった。
(こんなことに慣れろっていうの…?こんな毎日が、一体あと何年続くというの…!?)
とうとう頭を抱え発狂し、それが原因で病院の階段から転げ落ちてしまった。 落下の衝撃で頭を強打し、緊急手術が必要となった。
その日を境に、麗の容態は急変し、医師たちは彼女を長期的なリハビリケアが必要な状態に置くことを決断した。 麗はその日から、車椅子を必要とするようになった。 そして生まれて初めて、”特例者”としての認定を受けることとなった。しかも、非常に稀なケースである、身体特例手帳・精神特例手帳、同時に両方所持者となった。
ただ、良いこともひとつあった。それは、あの謎の声が手術後にピタッと聞こえなくなったということであった ー