7.祈りの奇跡
麗は意識が戻った時、白い天井の下で自分が病院のベッドに横たわっていることに気づいた。 少し頭がぼんやりしていて、体中に疲労感が漂っていた。
ふと、ドアが開いて看護師がやってきた。
「おはようございます。良く眠れましたか?」 看護師が優しく微笑みながら声をかけてくれた。
麗は少し時間が経ってから、ホテルの浴室で気を失っていた出来事を看護師から聞いた。 清掃係が彼女を見つけ、緊急搬送されたという話を聞かされ、その時の恐怖と安堵が胸を締め付けた。 看護師の説明を聞きながら、涙がこぼれ落ちるのを抑えるのが精一杯だった。
やがて、医者が訪れてくれた。 「麗さん、今回はかなり体力を消耗しましたね。リハビリを通じてゆっくり回復していきましょう」と、医師が穏やかな口調で告げてくれた。
麗はその言葉に、初めて本当に生きたいと強く思った。 しかし、それからの日々、彼女は何度も悪夢にうなされることになった。
一つ目の悪夢では、彼女は塔の最上階に立っている。 突然、地面がガラガラと崩れ、彼女は果てしない暗闇の中に落ちていく。 その恐怖と絶望感が、彼女の心を締め付けた。
次の悪夢では、彼女は見知らぬ場所で追いかけ回される。 闇に包まれた背後から足音が迫り、彼女は逃げ惑う。 絶望の中で目を覚ますと、また同じ光景が繰り返される。
ある夜には、彼女はまた別の悪夢で目を覚ました。 そこでは、彼女が法廷で見知らぬ人々の前で犯罪者として告発され、追い詰められる場面が描かれていた。 彼女は無実を訴え、弁解するが、誰も彼女の言葉を信じてくれない。
そんな悪夢の中で、麗は時折自分を病室のベッドに見つける。 混乱し、息が詰まるような恐怖に襲われるが、現実の医師や看護師たちの優しさと支えが、彼女に勇気と希望を与えていた。
別の日の夜には、麗はまた新たな悪夢に襲われた。 彼女は見知らぬ闇の中で迷子になり、途方に暮れる。 足音が近づき、彼女の背中に冷たい息が感じられる。 彼女は汗に浮かぶ顔を背けながら、全身で恐怖に震えた。
「どこにいるの?誰か助けて…」彼女の叫び声は虚しく、闇に吸い込まれていくようだった。
麗は生きることに渇望した。 「生きたい… 生きたい… 生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい… いき… い… ゲホゲホッ… ッ…!!」
麗は点滴スタンドを振り乱しながら、真夜中の病院の廊下をふらふらと闊歩した。 廊下を息苦しく歩いていると、突如として壁に掛けられていた聖母マリア様の油絵が目に飛び込んできた。 麗は聖母の微笑みに魅せられた。
麗は聖母マリア様に自分の苦しみを解ってほしくなった。 そして、生まれて初めて聖母マリア様に祈りをささげた。
「マリア様、私はこのかた、神なんて信じることはなかった。だけど、今はそれを余儀なくされています。 藁をもすがる気持ちです。 なんでもいいから、この苦しみから解放してほしい。 お願いします。」
麗は一心不乱に祈りを捧げた。 すると、聖母様の美しい絵が輝きだし、麗の祈りにこたえるように聖母様が光臨したように麗には見えた。 麗は聖母様にすべてを打ち明けた。 すると、聖母マリア様はそっと微笑んでくれた。 麗は心が安らぎ、生きることを許してくれたのだと思った。 気が付くと、麗はその場にへたり込んでいた。 こんなにも温かい感情に包まれたのは、生まれて初めてのことだった。