6.赤の夢
麗はホテルの一室のベッドの上で目を覚ました。 部屋は暗く、外の光がカーテンの隙間から差し込んでいる。 まだ朦朧とする意識の中、麗はベッドに座り、足を床に置き、立ち上がろうとした。 すると、生温かい妙な感触が足を包み込んだ。 暗くてよく見えなかったので、麗は電気をつけようと立ち上がろうとした。
しかし、なにかにツルッと滑り、尻もちをついてしまった。 何かが麗の体に飛び散った。 赤い。 これは…。 血。 血だ。 麗はふと、ベッドの脇を見た。
そこには、手足がバラバラに切り裂かれ、臓物を腹から垂れ流し、首をあらぬ方向へ曲げて白目を向いている中年男の姿があった。 その男の体から流れる血が、床に海のように広がっていた。
麗は叫んだ。 しかし、声が出ない。 いや、口が動かないのだ。 喉からヒューヒューと空気の漏れる音が聞こえるだけだ。
なんとか立ち上がってドアを開けようとした。 すると、ドアの向こうから聞き覚えのある二人組の怒鳴り声が聞こえてきた。
「おい、開けろ! どうしたってんだ!」
… 刑事たちだ! 私を捕まえに来たのだ。 ドンドンガチャガチャと荒々しく突破しようとしている。 麗はドアを開けずによろよろと引き返し、ついに観念した。 棚に装飾されたバラの花瓶を地面に叩きつけて割った。 その破片のひとつを手に持ち、浴室へと向かった。
浴槽に勢いよくお湯を噴き出し、自分でも考えられないくらいのスピードで湯はりを行った。 刑事たちはドアに体当たりを始め、今にも転がり込んできそうだ。
「大丈夫ですかー、すみませーん!」
(今さら丁寧さを装ったって、騙されて開けるわけがない。 )麗の心は頑なだった。
麗は制服を着たまま、まだ貯まっていく途中の湯舟に体を沈めた。 制服がお湯の中で体に張り付いて、その感触が気持ち悪い。 日常では滅多に感じることのない感触だった。 そして、目を閉じて、ゆっくり息を吸って、思い切って… 花瓶の破片で手首を切りつけた。
激痛。 ほとばしる血潮。 浴室の壁面は、一気に赤で塗りたくられた。 血が滴り落ちる。 水面が真っ赤に染まっていく。 麗は手首を湯舟の中に沈めた。
麗は少しずつ意識が遠のいていく感覚に包まれていった。 体が温かな水に包まれ、心地よい感覚が全身を満たしていく中で、彼女のまぶたは重くなり、周囲の音や景色がだんだんと遠のいていくように感じられた。
赤く染め上げられた湯水の表面に浮かぶ小さな泡が、ゆらゆらと揺れる光景が、麗の視界に映りながら、次第にぼやけていく。 彼女の意識は深みに沈んでいくような感覚に包まれ、最後には静かで穏やかな眠りの中へと導かれていった。