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学園にて

 ローブレルの街で王国からの案内係らしい二人の騎士と合流してから、首都へ向けて出発となった。しかし、この二人は仕事だから仕方なくやってる感が露骨で、最終目的地までずっとこちらとは必要最小限の会話以外一切なしという態度であったが、こちらとしても逆に気を使う必要もないのでお互い様だったのかもしれない。


 そうして六日目のお昼近くにやっとマージナル王国首都のカグメイアに入ることが出来た。案内役の二人は首都に入って手続きをすると役目を終えた途端、礼儀は正しかったが挨拶もそこそこに帰って行ってしまった。


「招待したなら、もう少し歓迎ムードで対応してくれてもいいのにね」

少し呆れつつ窓の外を眺めると、街の露店などに人々がにぎわっている。その活気の中にえらく武装した傭兵の様な者達や魔法使いがいくつもの集団になって歩いてるの気が付いた。


「魔族は戦争うんぬんより元々忌避されてますし、特に気にする必要はないと思われます」


「そうね。 ところであの武装した集団は何?」

私が指を指すとネコマルさんが覆いかぶさる様にして小窓から外を見ると、”ああ”と納得したように自分の席に戻る。


「あれはギルドという組織に所属している冒険者ですよ」


「冒険者?」


「ええ、国軍が動かない討伐系や探索、護衛などの依頼をギルドと呼ばれる民間団体に個人や町、村の人々が依頼料を払って登録している冒険者が自分に合った依頼を受ける制度らしいです」


「へ~私達の国にはない面白い制度だけど、税を払っても領主や国はトラブルの解決には動かないのかしら?」


「よくわかりませんが、人同士の犯罪や争い以外は自分達で対処しろって事じゃないですか」


「え~世知辛いわね」


「そうですね、まあ取り合えずそんな事よりもうすぐ到着しますから早く制服に着替えてください」


「ああ、そうだったわ」

指定の制服に着替えながら考える。今後この国や人族について勉強すれば色々と彼らの考え方も学べると思えば楽しみな所でもある。



 王都カグメイアの街並みは城を中心に貴族の住む上層、商人など富裕層が住む中層、庶民が住む下層という形で成り立っており、目的の学園はお城と上層階の間位にある為、結構距離を馬車で移動しなければならない。

 移動の途中、アルカンディア帝国大使館に寄りベクタール宰相の縁者でもあるギーゼ・レティクス大使にご挨拶をしてからしばらく馬車で揺られ王城を遠目に整備された森の道を抜けると、外部の侵入を防ぐ高い壁が見えて来た。


 どうやら此処が王立ファールバウティ学園らしい。非常に広い敷地に三階ほどの立派な建物に時計塔、奥に礼拝堂や講堂などが立っていた。よく見ると贅沢なガラス張りの建物も見える為、植物の温室などもあるようだ。全寮制で基本すべて学園内で完結出来るが、夏季休暇などの期間は外へ出る事が可能と聞いている。



――学院内応接室


 馬車が学園内に入って来る様子を確認した職員が近くのソファーに座っていた気難しい顔の男に耳打ちをすると、やれやれ面倒ごとがやって来たなという表情をして重い腰を上げた。


「どうやらお着きになられたようだ」

 誰に言うでもなく呟きながら部屋を出て行くと、隣のソファーに座って書類見ていた黒ひげの男が慌てた様子でカバンに仕舞い、身だしなみを整い始める。そんな二人の様子を気に留める様子もなく老人は窓際で外の様子を見ながら何かを期待するかの様な笑みを浮かべていた。



◇◇◇



 指定の場所へ馬車が移動すると出入り口に数人の出迎えが立っており、その前で馬車を止め先にネコマルさんが降りて私のエスコートをしてれた。


「これはこれはクロノス様、ようこそ王立ファールバウティ学園へ。私は当学園の副学長を任されているアシッド・マーベリクと申します」


(なるほど見た感じ愛想の良い普通の紳士だけど、目が笑ってないよね)


「初めまして、アルカンディア帝国から参りました、ペルディータ・クロノスです。こちらは私の後見人で世話係のネクマールです。しばらくお世話になります」

 スカートの端を摘まみカーテシーで挨拶をすると少し驚いた様な顔をする。その表情から察するに礼儀もままならぬ蛮族とでも思っていたのだろうか?


「こちらこそよろしくお願いします。ささ、学園長と大臣がお待ちですのでこちらへ」


 副学長さんに案内され、学長室らしい部屋へ通されると正面の椅子に白髪で長い髭を蓄えた老人が居り、横の応接ソファーに恰幅の良い黒髭の男が私が入るのと同時に立ち上がった。


「はるばるアルカンディアからよくぞ参って下さいました。わたしはマージナル王国外務大臣のロジーク・シルベルトと申します。わざわざこちらの要請を聞いて頂き、感謝の念に堪えません」


 うやうやしく頭を下げて来るが、こちらも目の奥は否定が見て取れる。それでも礼儀正しく挨拶して来るのだからこちらも先ほどの様に丁寧に挨拶をすると、正面に居た老人が杖を突きながら前に出て来た。


「わしはこの学園を預かるベルロー・アイガイオンじゃ、ペルディータ嬢、よくぞはるばる遠いこの学園へ参って下さった」

 この人からは敵意や否定的な感じは受けない。むしろ興味の方が高いのかも知れない。


「ありがとうございます学園長殿、三年の短い間ですがご指導ご鞭撻(べんたつ)、よろしくお願いいたします」


「うむうむ、学園には他種族の者は居らぬゆえ、魔族の御仁は貴方が初めてであってな、もっとこう違う印象かと思ったが、意外と人族と変わらぬのなあ」


「学園長のおっしゃり様はこういう姿だと思うのですが」

 ストレートな物言いに苦笑したけど、多分容姿の違いを言いたいのだろうと思い、角などを隠す指輪を取って見せた。


――シュルルル


「おお、そうそう、そんな感じじゃ」

 元の姿に戻った私を学園長は感心したように寄って来てマジマジと角や尻尾などを見るが、副学長と大臣は驚いた形相で二、三歩さがってしまった。まあ、当然ですよね。


「副学長殿と大臣殿が驚いたように、魔族に対して忌避(きひ)する学生もおられると思いますので当学園にいる間はなるべくお見せしない様にと思っております」

 そう言いつつ、指輪を付け直してニコっとすると学園長も満足したように笑顔を返してくれる。


「うむうむ、いやご配慮には感謝いたしますぞ、しかしそんなに気負う必要もありますまい。要は皆があなたの本当の姿をいずれしっかりと受け入れる様になればよいのじゃがな」


「はい、私もそう願いたいです」

 笑顔でウンウンと頷く学園長とは対照的に、副学長も大臣も複雑な顔をしているのがちょっと滑稽に見えた。


 その後はしばらく学園の歴史や行事、授業内容などの説明を受けながら聞いていると、学園長はともかく大臣は今回の招待をきっかけに外交へ繋げていきたい思惑が見え隠れする話が多かったのが気になった。外交特権がある訳もない小娘に頼まれても困るのだが。

 それを知ってか知らずか困り顔で愛想笑いしている私を見て学園長は副学長に合図をすると、彼はコクリと頷き手をパンパンと鳴らす。


 部屋の横にある隣室のドアが開き、髪をキュッとまとめた目つきの鋭い長身の女性が入って来た。年は四十かそこらだろうか?


「失礼致します。 お呼びでしょうか、学園長」


「カルデナ君、ペルディータ嬢を寮の部屋まで案内してくれないか?一緒に寮での過ごし方や授業の時間なども」

「はい、心得ております」

 そう学園長に言われ、カルデナと呼ばれた女性はこちらにツカツカと歩み寄って、私の前までやって来た。


「わたくしの名はカルデナ・オーダー、貴方がこれから三年間過ごす寮の寮母です」


「ペルディータ・クロノスです、よろしくお願いします」


「わかっていると思いますが、寮生活に置いては例えやんごとなきお方でも平等に規則にはしたがってもらいますのでお間違いないようお願いします」


「は、はい、わかりました」

(うわ~、座学中の先生に似てて苦手かも……)




評価、ブックマークなど有難うございます。書き溜めがありますのでしばらくは一日一回更新に出来ると思います。

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