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父達からの要請


 皆にジッと見られて思わず聞き返す。

「えっと、お父様?それはどういう御冗談ですか?」


 困惑している私に目線を上にしながら言葉を選ぶかように考えながら、改めてこちらを見て口を開いた。


「うむ、実は兼ねてより先方さんから要請があってな、互いの国の交流の一環でとの事なんだが……」

 父上の様子を見るに、やたらと言葉を濁すのが気になってしまい思わず返事まで生返事をしてしまう。


「はぁ」


「いや、本来はラティア皇女殿下をという事だったんだが、殿下はまだ成人前だし色々未熟でな、十年以上経ったとはいえ他国へ留学、ましてやマージナルとなると反対する者も多いのだ」


 ラティア皇女殿下と言えば現皇帝陛下の異腹の妹君で私より一つ下にあたる年の方だが非常に快活な性格が災いしてあちこちで小さなトラブルを起こす事で有名だ。そんな彼女を他国に送るのを(はばか)っての事もあるのだろう。



「――なるほど、変わりとなる適当な人物よりは将軍の娘であれば、相手国の面子を潰さず希望に沿う事が出来ると」


「ん~まあ、単刀直入に言えばそう言う事になるが……」


 頭を掻いて言い難そうにしていたのはそう言う事か。国としても嘗ての敵国へ何の保証もなしに皇族を留学名義で送ると言うのは、まるでこちらから人質を送る様なおかしな真似をする事になるのだから反対が多いのも納得出来る。


 しかし、要請して来た内容が「交流」とふわふわした内容で、そこまで強い要請でもないのにそれを受ける国の方針が今一つ分からない。

 そう思ったのが顔に出ていたのか、横にいたベクタール様が私の疑問に答えてくれた。


「実は、同じ時期にマージナルの第二王子が入学予定をしていてな、その人物像を見て来てほしいのだ」


「人と…なりですか? でも第二王子ですよね?」


「そうなのだが、我が国の諜報部によれば、あちらの第一王子はかなりの放蕩者で第二王子の方は幼少の頃より神童と言われる位に優秀なゆえ、国の立て直しを考えてる貴族達が色々と水面下で派閥闘争しているらしい」


「なるほど……たしかにあの国はまだ太子を決めてない様ですね」

 放蕩者が君主になるか、優秀な者が君主になるかで今後の国同士の付き合いは大きく変わる。噂だけでなく、その本人の見極めを見て来てくれという事らしいが、私としても自国以外の植物や薬などの学問に興味がある。


 返事をしようと口を開きかけた時、横から聞いていたラディード兄様が持っていたフォークを指でプラプラさせて口を出してきた。


「ほう、すげえな諜報活動か、ペル!お前の無駄にデカい乳とケツで第二王子とやらを篭絡(ろうらく)しちまえば色々と情報を集めやすいんじゃないか?」


(むかっ!)


「お兄様……私は王子を誘惑しに行くわけではないですが……」


――キリキリキリキリ


 怒気を強めてそう言いながら強い視線を兄の持っているフォークに注ぐと先っぽから巻いた羊皮紙の様に綺麗に丸まって行く。その様子に気が付き眉毛を吊り上げこちらを睨めつけ怒鳴って来た。


「てんめ、またやりやがったな!!!」

「なんです?やりますか!!」


 お互い席を立ちあがり、睨み合いが始まると父から怒号が飛ぶ。


『やめんか!!』


「「!?」」


 父の大声でビクリと体が停止したが、隣で朝食を食べていた妹のノイが涙目になる。


「うっ……おねぇたまとおにぃたまはケンカするの?」


「おおう!そ、そんな事はないよ~二人共なかよし~」

「そうそう、ちょっと大きな声だったね。ごめんねえ」


 二人して引きつった笑顔でテーブル挟んで握手を見せると、少し安心したのかノイは涙目で笑顔を零すと二人でホッとする。横を見るとお父様もホッとしてる様子。末っ子にはとことん甘い一家だ。


「それはそうと、ペル……分かっているとは思うがその力を人前ではなるべく使うな」


「――はい、申し訳ありません」


 父の顔は怒ってるというより、困った顔をしていた。そう、魔力はあるが魔法は使えない私には先天的に”星のギフト”と呼ばれる不思議な力を持っていて、つい使ってしまうと昔から怒られてしまうのだ。正直な話、名称も私が初めて見せた時に、父親の口から小さく洩れた言葉を当てているだけで何を示しているのか知らない。




 気が付いたのは10歳になる頃、遊んでいる最中廊下に飾ってある高価な花瓶を落としそうになった瞬間”落ちないで!”と強く念じると、不思議な事に花瓶が床ギリギリの位置で停止したのだ。結局、ホッと息をつくと同時に花瓶は床に転がり水を撒いてしまったが、花瓶そのものは無事だった。


 つい嬉しくなってこの事を父に報告すると、驚愕したように”星のギフト”と言う言葉を小さく呟くと共に何時もは見せない様な厳しい顔で”外では決して使うな”と言いつけられたが、密かに鍛錬を続け15歳を迎える頃には自由に複数を動かしたりする得意技となっていたが、大っぴらに披露する機会は今の所はない。




「うむ、まあ兎も角話を戻すが、お前は今回の話しをどう考えておる?」

 父の顔を見る限り、あまり乗る気ではない様にも見えるのも当然だろう。でも突然の提案とはいえ常々思っていた”外の世界を見てみたい”という夢の一つが舞い込んで来た事は私にとっては大きなチャンスだ。


「はい、私自身もかの国に興味はありましたし、同じ学び舎であれば自ずと情報も入って来ると思いますのでこのお話を受けてもよいと考えております」


「お前に要請しておいてこんな事を言うのも勝手なのだが、我が国は戦勝国ではあっても元々魔族は人族に忌避される存在だという事を(かんが)みた上での決断か?」


「もちろんそれを考慮した上で、決めました」


「そうか、ではそのように話を進めよう。改めて言うがお前が感じたままの報告をしてくれればよい。それと書物だけではわからない色々な事を学べるこの機会を十分に生かせ」


「はい、お父様有難うございます」


 私の返事を聞き、父とベクタール様はお互い(うなずき)き合い食堂を後にすると、少し冷めてしまった朝食を再開する。


「ねえ、おねぇたまはどっか行っちゃうの?」

 気が付くと食事の終わったノイが隣へやってきて心配そうに聞いてくる。


「う~ん、おねえちゃんはちょと遠くの学校へお勉強しに行く事になっちゃったんだよね」


「え!?おねぇたまかわいそう……」

 普段勉強嫌いで逃げ回ってるノイからすると私は勉強を強要される可哀そうな姉らしい。


「大丈夫よ、お休みにはお家に帰って来れるしお土産も買って来るよ」

 そう言いつつノイを抱き上げて膝の上に乗せると嬉しそうに足をバタバタさせて私の顔を見上げながらおねだりして来た。


「ほんとぉ、じゃあノイね、おねぇたまのつくったおかしがほしい~」


「ん?そんなのでいいの?いいわよ、沢山作ってあげるわ。それと向こうのお菓子も買って来るね」


「わーい!」

 喜ぶノイの顔をみて頭を撫でていると、兄が手を上げて割って入って来る。


「あ、俺あっちの珍しい酒欲しいからあったらダースで買って来てくれ」


 兄の言葉に少し呆れながらもニッコリと今朝一番の笑顔で答えた。



「ふ・ざ・け・ん・な」

 






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