興味深い朝食
――食堂ホール
寮の階段を下りて行くと、皆が皆一つの建物に吸い込まれる様に入って行くのを見るにどうやらあの建物が食堂のホールらしい。
ロザリアと共に入って行くと、長いテーブルが三列あり、その上に料理を乗せる皿などが準備されて各人が座り始めていた。
「一年生は一番左ね、それと部屋番号の札があるからあたし達の席は中央辺りになるわ」
彼女の言うように301から324の番号カードが交互に置かれている。301から312までが女子寮の生徒で313から324までが男子寮生徒の並びとなる。
「ふ~ん、一部屋二人だから新入生は私達入れて四十八人なのね」
「上級生は上に行くほど色々な事情で学園をやめてしまう人もいるから人数も少ないみたい」
中央と右側の並びを見るとたしかに一年生より席が少ないのが見て取れる。世知辛いわと思いつつ自分の席に座ると対面に311号室の人が座っていて目が合った。当初金髪の女性は先に席に着いたロザリアに部屋の騒音に対して注意をしていたが、私が席に着くと訝し気な顔でこちらを見るので私もジッと見ていると声をかけて来る。
「あなた……見ない顔だけど、ロザリアさんと同じ部屋なの?」
「ええ、ペルディータ・クロノスと申します。先ほどは荷物の整理で騒がしくしてしまい申し訳ありません」
部屋での騒音はロザリアの所為ではなく自分だという事を伝える。実際、侵入者をぶっ飛ばしてバタバタ騒音を出していたのは私だ。
「そうなの?それではロザリアさんには謝罪しなければならないわ。それにしてもクロノス?聞いた事ない家の名前ね、失礼だけどどちらの家系かしら?」
不思議そうな顔をして私の顔を観察して来ると、隣の席の娘が怪訝な顔をして金髪さんに耳打ちをした瞬間、彼女は驚愕の顔で立ち上がって私を指さす。
(淑女が人を指さすなんてはしたないですよ)
『あ、あなた!魔族って本当なの!?』
突然大きな声で叫ぶので食堂がシンと静まり、皆が一斉にこちらに振り向き注目されてしまった。案の定、皆の目は驚愕や嫌悪感、恐怖感など、色々複雑な感情が混じったものなのは仕方ないのであえて冷静に答える事にした。
「はい、アルカンディア帝国から留学生として招待されました。改めてよろしくお願いしますね」
「え、ええ、私はメティス・キオーネよ、よろしくお願いするわ」
ペコリと頭を下げて挨拶をし、周りの動揺を意に返さない様子の私に対しメティス嬢は驚いてはいるものの、普通に挨拶を返して来た感じを見るに、意外と素直なのかも知れない。ただその顔には複雑な感情が出ているのは致し方ない。
「え?あの子って魔族なの?」
「ええ?何で…」
「噓でしょ?なんでうちの学園に」
「どういう事?」
声を聞いた他の生徒の囁きが枯草に火を放つが如く広がり食堂全体がザワつき始めた様子を他人事の様に眺めていると、横に座るロザリアが小声で話して来る。
「どうやらあなたが留学して来た事をほとんど誰も知らなかったらしいわね、何故入学式の時にちゃんと説明しなかったのかしら?まったく、学園の落ち度もいいところね」
(たしかに。ただあの学園長が意図的にそんなくだらない事をする人物には見えなかったのだけど…)
「まあ、そんなには気にはしてないですよ、そもそもこのお話を頂いた時からこういう事態は想定済みだし」
「そう?それならそれでいいんだけど……」
もっとも想定内とはいえ、ここまで騒がれていると今後は極力目立たぬようにしなければ例の王子の様子見も難しくなりそうだ。そんな事を思っていると、左斜め前に座ってる見覚えがあるような男子生徒が手を振ってるのが見えた。
(あれ?どこかで会ったような……)
「ねえ君あの時の娘だよねえ、まさか魔国の令嬢だとは思わなかったよ」
騒がしい食堂内を気にする様子もなく、錆色髪の男子がニコニコしながら声をかけて来る姿を見て数日前の事を思い出す。
「ああ、あの時はご助力頂きありがとうございました」
そう挨拶していると、横からロザリアが驚いた様に聞いて来た。
「え?あなたってレイソードさんとお知り合いなの?」
「知り合いっていうか、国境付近で野盗に襲われてる所で助太刀してくれたのよ」
「助太刀って言っても彼女のメイドさんが強くて出番はあまりなかったけどねえ。それより隣に並んでるって事はロザリアちゃんと同室なんだ。こりゃ運命だねえ、益々……おっとやべえ」
急に話を切り上げたレイソード氏の視線の先を見ると、丁度怒った様な表情の寮母が食堂に入って来る瞬間だった。
――食堂に入って来た寮母の怒声がホールに響く。
『お静かに!なんですか、食事の前にはしたない!!』
寮母カルデナの声に皆が委縮して、ホール全体がしんっと静まり返ると彼女はツカツカと正面に立ちジロリと見渡す。すると、三年生らしい一人の女生徒が手を上げ、発言を求めていた。
「どうぞ、メイザー嬢」
メイザー嬢と呼ばれた空色の髪をした綺麗な女性がスッと立ち、寮母に一度会釈をしてから口を開く。
「お騒がせして申し訳ありません、生徒会長として今後このような事のないよう注意していきます。ただ、一部の生徒達はアルカンディア帝国からの留学生の存在を知らされてはいなかった様でこのような騒ぎになっております。なので、食事の前にご紹介した方が良いかと思いますので少しお時間を頂いてもよろしいでしょうか?」
生徒会長らしい彼女の言に寮母は頷き、私の方を見ると声をかけて来た。
「よろしいでしょう、クロノス嬢、こちらへ」
「え?あっ、はい」
否応がなくとも従うしかなく、顔に出さない様に渋々前に行くと見える顔は歓迎という顔ではないなと見て取れる。そんな彼ら彼女らの顔を見ていると横に生徒会長がやって来て私の肩に手をおいて紹介を始めたのだ。
「みなさん、静粛に。今回我が学園はアルカンディア帝国との友好と文化交流を目的に留学生の招致をお願いした所、此処に居られるペルディータ・クロノス嬢が来訪して下さいました。過去マージナルとアルカンディアは不幸なすれ違いがありましたが、それを越えて両国友好の懸け橋となってくれること期待していますので、皆さまも同じ気持ちでいてくれる事を切に願います」
そう生徒会長が言い終えるとパチパチパチと拍手が鳴り響く。それを見た彼女は満足そうに頷き、私の方に振り返ると握手を求めて来た。
「改めまして、わたくしはこの学園の生徒会長サーディアル・メイザーです。何か困った事があったら、わたくしに相談して下さい」
「はい、ありがとうございます。これからもよろしくお願い致します」
差し出された彼女の手を取るとぞわっと背筋がゾワっとする感覚に襲われる。特に笑顔の奥に悪意は感じないのだが何故か体中鳥肌が立ってしまう。顔に出さない様にぎこちない笑顔で見守る生徒達の方に頭を下げると再び拍手が広がる。
なんとなく彼女に対しては注意はしておいた方が身のためだろう。
――ぱんぱん
「さあ、時間も押していますからお祈りを始めなさい」
寮母が手を叩き、号令をかけると皆一斉に目を瞑り祈りを始める。私といえば、席に戻ると取り合えず皆の真似をしてみるが、こちらの神にでも祈っているのだろうか?そういえばマナーの勉強で聞いた様な気がする。そうこうしている内に、大勢の配膳係が一斉に動き出し皆が食事を開始したので合わせて食べ始めた。
食事の内容はパンと野菜の入ったスープに主菜は厚切りだけど小さいお肉といった感じだ。少し濃い味だが味も悪くないなと思いつつ食べていると、隣のロザリアや正面のメティスが興味深そうに見ている事に気が付いた。
「あの、何か?」
「あ、いえ、ごめんなさい、魔族の人ってどんな感じで食べるのかと思って……」
「うん?質問の意図が分からないけど、ちゃんと口から食べますよ?鼻からは食べないわね」
真面目に答えると二人共、唖然としたあと吹きだしクスクスと声を殺しながら笑いだす。
「ごめん、そう言う…意味じゃなくて…クスクス」
「あなた面白いわね、魔族のイメージが少し変わったわ」
――なんか珍獣扱いされている気もするが警戒されるよりはマシだろう。後で生徒会長さんから聞いた話だと入学式で副学長が留学生の件を話す予定だったが、スピーチの原稿に書き忘れたとかなんとかで学園長に怒られてたらしい。




