4.外堀が埋まりました
姉の部屋を訪ねると、姉も用件を察していたらしく出迎えてくれた。
「いらっしゃいリリー」
「お邪魔しますお姉様」
姉が進めてくれたソファに腰を下ろすと、姉付きのメイドがお茶を出してくれる。
姉が人払いを命じるとそのまま一礼して立ち去り、部屋の中には私と姉だけになった。
お茶を一口飲んで心の準備をすると、用件を切り出した。
「お姉様、先ほど私の婚約者のジャックが『お姉様に求婚したいから』と、婚約破棄を求めてきたので、了承しました」
私の言葉に、姉が顔を曇らせる。
「えぇ聞いたわ…貴方には申し訳ない事をしたわ」
「そうおっしゃるという事は、お姉様はジャックの求婚を受け入れるおつもりなのですか?」
すると姉はカップを横に退けると、突然頭を下げた。
「ごめんなさい!貴方には本当に申し訳ないけど、私にはこれが最後のチャンスなの!売れ残りの年増女の汚名や、修道院行きを避けるにはもうこの機会しかないのよ!」
(確かに格下の伯爵家に圧力をかけてまで結んだ婚姻も破綻した以上、アホのジャックに賭けるしかないだろう)
そう思えば姉に同情こそすれ、恨む気持ちはない。
姉がジャックを誘惑したわけでもなく、内々の婚約だったので破棄されても傷物にはならず、何より次の機会を狙える私と違って、姉には後がないのだ。
「お姉様頭を上げて下さい、私は気にしてません」
そっと姉に手を伸ばして、顔を上げさせると姉が泣きそうな顔でこちらを見ていた。
「…本当に?」
「えぇもちろんですわ。悪いのはジャックですもの。お姉様を案ずる気持ちはあれど、恨む気持ちなんてこれっぽっちもありません。その代わり必ず幸せになって下さいませ」
笑顔で言うと、姉もようやく笑顔になった。
「ありがとう、私必ず幸せになるわ」
数日後両家立ち合いの元、私とジャックの婚約が破棄され、代わりに姉とジャックの婚約が結ばれた。
私の要望で姉とジャックの婚約の書類にきちんと『いかなる理由があろうと、ジャックからの離婚は認めない。姉を冷遇した場合は、相応の慰謝料を貰う』旨の内容を確認し、私は心の中でコッソリと嗤った。