2.もちろんタダじゃ済ませません
笑う門に福来る。被災された皆様が、少しでもお元気になられますように<(_ _)>
「ほ、本当か?いやぁ~さすがリリーだなぁ。こんなにあっさり承知してくれるなんて…」
ジャックが嬉しそうに言う。
その姿を見てイラッとした。
醜聞にならないとはいえ数年の努力を無にされるんだから、ささやかな仕返しくらい良いよね。
そう言い聞かせて、怒りを呑みこむ。
「ただし条件があるの」
「条件?」
ジャックがピタッと止まる。
「必ずお姉様を幸せにしてちょうだい。もちろん婚約破棄も離婚も許さないわ。その時は2倍慰謝料を貰うからそのつもりで」
「それはあり得ないが、君が心配だというなら約束しよう。姉想いの君の気持ちに配慮しよう!」
「ありがとう。それじゃあ私はお父様に伝えてくるから、貴方もお姉様とおじ様に伝えてきて頂戴。後日改めて婚約破棄と再婚約の書類を作りたいからって」
「わかった!」
ジャックは喜び勇んで、駆けて行った。
その背中を見送ると、ため息をつく。
「ふぅ~」
「お嬢様お疲れ様でした」
ずっと黙って控えていたアリスが、お茶のお代わりを淹れてくれる。
一口飲んでホッと息をつく。
「お嬢様、本当によろしかったんですか?婚約解消なんて…」
「…ねぇアリス、彼の事どう思った?」
「何というか…面白い方ですね」
アリスの返事にクスッと笑う。
「そうね、見ていて面白いわ。バカで扱いやすくて、根は良い人で私を大切にしてくれたから、結婚してもいいかなって思ってたのよ」
「褒めてるのか、けなしてるのか、分からない感想ですね」
「一応褒めてるのよ。生涯の伴侶として、あれだけ理想的な人はいないわ」
一生共に生きていくのだから、それなりに賢く、私を大切にしてくれる人でなければならない。残念ながら賢いという部分は当てはまらないが、そこは私が手綱を引けばいい。幸いジャックは素直で、こちらの言う事を聞くから、円満にやっていけるだろう。
「私なりに真剣に考えて、上手くやって来たつもりよ。それなのに姉に乗り換えるなんて…」
また怒りがぶり返してきた。
物に当たりそうになるので、残りの紅茶を飲み干すとそっとカップを遠ざけた。
「それならなんで、婚約破棄なんか承知したんですか?」
察したアリスが、そっとカップを片付ける。
「だからこそ、よ。お姉様の幸せを願ってるのは本当だし…あの様子じゃ、お姉様が男性に敬遠される理由には気づいてないみたいだしね」
ジャックの言動を思い出し、再び笑う。
「あぁ…そのようですね。あれ?するとローズ様の離婚の理由も…」
「気づいてないでしょうね」
「それはそれは…何というか」
近い未来を予想したアリスが、苦笑いする。
私も同じく予想して、留飲を下げる。
「さて、お父様に婚約破棄を告げられたとお伝えするわ。貴方は使用人達に、お姉様の離婚理由について口外しないよう伝えておいて」
「かしこまりました」
そう言うと席を立ち、お父様の執務室に向かった。