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9.ホブゴブリン(再)戦

ミドリたちは再びダンジョンへの攻略に訪れていた。

「そういえばこのダンジョンって名前あるんですか?」

「このダンジョンは『旅立ちの洞窟』と呼ばれていますね。難易度的に初心者を脱する指標になるようです。」

雑談をしながら入り口の横にある小部屋から5Fに転移し、6Fへと降りる。

「そういえばこのダンジョンは何階まであるんですか?」

「このダンジョンの最下層は10Fで、クリアすると【生活魔法】を習得できるスクロールが手に入ります。」

この世界のスクロールには2種類ある。1つは魔力を通すだけで魔法を行使できる魔術スクロール。もう1つが使用することで適正を無視してスキルが発現するスキルスクロール。魔術スクロールは使い捨てな必要な魔力量も普通に唱えるのと変わらない。しかし、詠唱する隙が無い場合や魔法スキルを習得していない者でも魔法を使えるので需要が高く、スクロール制作を専門とした業者も存在する。反対にスキルスクロールは非常に珍しいものの【生活魔法】のスクロールは低難易度ダンジョンの踏破報酬となっている事が多いため、一般人でも使える者は少なくない。

「【生活魔法】はもう習得してるから意味無いですねっと。」

歩きながら無造作にモンスターを切り捨てる。そしてボス部屋へと到着し、扉を開く。

扉の中には大型の犬のようなモンスターが中央に佇んでいた。

「あれはグラスウルフといい通常は草原などに生息している狼のモンスターです。群れると厄介な相手ですが、6Fでは1体だけ出現します。」

説明を聞きながらミドリはゆっくりと歩きながらグラスウルフへ近寄る。無遠慮に近寄る侵入者を警戒するように喉を鳴らすグラスウルフだが、剣の一振りで決着となる。

「この先のボス部屋は10Fまで今まで出現したモンスターが混合で複数体出るだけなので楽勝でしょう。」

「10Fのボス部屋は何がいるんですか?」

「ホブゴブリンが1体出現します。」

ふと先日のホブゴブリンが脳裏によぎる。

「しかし先日のゴブリンとは違いダンジョン仕様で知能が低いので罠等もありませんし大丈夫でしょう。」

そうだ、前回のホブゴブリンが特別だっただけだと頭に浮かんだものを振り払う。自覚は無いが言葉が通じ、人と似た姿のモンスターを殺したことがミドリの心に小さな棘を残していた。


危なげ無くボスフロアへと進むとキースがミドリの顔を覗きこむ。

「どうしましたか?ミドリ。少し顔色が悪いようですが?」

「へ…?いえ!大丈夫です!」

自分でも気づかない不調を言い当てられ、心配をかけまいと否定する。

「大丈夫であれば問題ないのですが…。ここのボスを倒したら少し休暇を取れるよう掛け合って見ましょう。」

「いえそんな……。前にお休みを頂いたばかりですし大丈夫ですよ。」

「もしミドリに何かあればみんなが困ってしまうんですよ。もう少し大人を頼って下さい。」

そう言い笑顔を見せるキース。その笑顔に当てられミドリの耳はほんのりと赤くなっていた。


扉を開くと中央に大人と同じ程のホブゴブリンが待ち構えていた。侵入者が小さな女だとわかりホブゴブリンの口角が上がる。その瞳からはおおよそ知性など感じられなかった。

「グギャギャギャ!」

当然ながら言葉を喋ることなど無く、ミドリは不躾な視線に不快感を感じつつも、『言葉を介さない下等な敵』であることに安堵する。

ホブゴブリンはミドリ目掛けて走り出し、大鉈を振り下ろす。が、そこに獲物の姿は無く、不思議に思い首をかしげる。

ザクリと肉を貫く音と共に血を吹き出しながらホブゴブリンはその場に崩れ落ちる。


こうしてミドリは『旅立ちの洞窟』を制覇した。その後【生活魔法】のスクロールをキースに預け王城へと帰還した。


◆◆◆◆◆◆

「ミドリ。紅茶を持ってきましたが入っても?」

湯浴みが終わり【生活魔法】で髪を乾かしていると、ノックと共にキースの声が響く。

「はい、大丈夫です。」

そう言い窓際のテーブルへと移動するミドリ。扉が開かれキースが部屋へと入ってくる。

「今日は体調が優れない様子でしたが良くなりましたか?」

「あ、はい。もう大丈夫です。」

「先日の依頼で倒したホブゴブリンが原因ですか?」

慣れた手付きで紅茶を注ぎながらキースが尋ねる。

「…はい。多分そうだと思います。」

「人型でなおかつ人の言葉を話す相手を殺すのはやはり抵抗があるでしょう。」

「…はい。」

紅茶を注ぎ終えたキースが席に着き、ミドリに飲むよう促す。

「ミドリは優しいのですね」

「いえ、そんな……」

「ミドリの優しさは美徳です。その様を見て守ってあげようと固く誓う者。命をかけて戦おうと一層奮起する者。様々な者があなたに惹かれるでしょう。」

「しかし、その優しさは人にだけ向けて頂きたい。以前も言いましたが魔物は生来人に危害を加える生き物です。その優しさはミドリとその周囲の者を危険に晒します。魔物は殺さねばならないのです。」

そう言いミドリの手を握るキース。その瞳には深い悲しみと憎悪の念が静かに渦巻いていた。

「キースさんは、魔物と何かあったのですか……?」

「以前ミドリには妻について話したことがありますよね?」

「…はい」

「その時は話すことではないと思い、流行り病で亡くしたと言いました。しかし実を言うと妻は魔族に使役される魔物に殺されたのです……。」

握る手の力が増す。

「仕事が終わり妻の待つ家へと帰ると、家の中は荒れ果てており慌てて寝室に向かうとそこには変わり果てた妻と屍肉を貪る魔物がいました。」

「妻は生前よく『魔物とも共存できるはずだ』『言葉さえ伝われば分かり会える』と言っていました。私も妻の言い分を信じ魔物の言語について研究を進めていました。」

「しかし、無常にも信じようとした結果は妻の死を持って叩きつけられました。」

痛いほどに辛く悲しい感情が伝わって来る。ミドリは言葉を詰まらせただキースの言葉を聞く事しかできなかった。

「だから、あなたには同じ過ちを繰り返させたくないのですミドリ……!」

俯いたまま懇願にも近い訴えをするキースに歩み寄り、頭を優しく抱き込む。

「わかりました」

大の大人であるキースが子供ほどの年齢のミドリに慰められる様は周りには滑稽に映るだろう。しかしそんな事も気にせずキースは堰を切ったように泣き出す。ミドリは子供をあやすように頭を撫でながら繰り返し「つらかったですね」と慰める。


ひとしきり泣き終わりキースは咳払いをしつつ枯れた声で話す。

「みっともない姿を見せてしまい申し訳ありません……。」

「わたしで良ければいくらでも胸を貸しますよ」

そう言い顔を赤らめてそっぽを向くキース。それを見て同じく顔を赤らめるミドリ。しばしの静寂の後どちらともなく笑い、キースが席を立つ。

「女性の部屋に夜遅くまで長いするのはいけませんね。では、私はこれにて失礼します」

「はい、明日もよろしくお願いします。」

挨拶を交わし部屋を後にするキース。ぼふっとベッド飛び込むと先程の行動を思い出し足をバタつかせるミドリ。こうして夜は更けていった。

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