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22.初めての海外旅行(後編)

ミドリとヤンは王へと報告をする為に謁見の間へと来ていた。


「そうか、魔族が我が国に……。して、他の二人は大事ないか?」

「はい、手加減されたのか命に別状はないそうです」

「それは良かった。我が国で使者様が死ぬなんて事になれば友好関係がどうなることやら……」

「そんくらいのことであのタヌキが戦争仕掛けるとも思えないけどね」

「ヤン!言葉が過ぎるぞ!」


ヤンの軽口をダーレンが諫める。注意されたヤンは不満そうにブツブツと小声で何やら文句を言っている。


「弟が失礼した。王族に連なる者としてあるまじき言動であった。」


そう言って頭を下げるダーレンにミドリは慌てて制止する。


「いえ、今の話は王様には伝えないから頭を上げて下さい!」

「感謝する。ミドリ殿」

「それで、大体察しがつきますけど、ヤンさんがダヤギームさんってことですよね?」

「あぁ、そういうことになる」

「兄者を責めないでやってくれないか?ミドリちゃん。今回の件は完全に僕のわがままでね。迷惑をかけたね」

「いえ、ワタシは問題ないですけど。どうしてこのような事を?」

「いやさ、友好国に勇者様が召喚されたって言うから気になってね」


そう言いながらヤンはミドリに近寄り耳打ちをする。


「勇者とは最強の称号でもある。君が頼りになる仲間なのか、それとも倒すべき敵なのか見極める必要があると思ってね」


声色は優しいままではあるが、その言葉には確かな圧が込められていた。ミドリは恐怖に似た感情を感じつつも次の言葉を待つ。


「ま、悪い子じゃなさそうだし。このままオリンピアとは友好国のままでいた方が良いだろうね♪」

「そうか、まあお前がそういうのなら大丈夫だろう」


敵対の意思は無いと思い胸を撫で下ろす。


「で、お前は今回迷惑をかけた責任をどう取るつもりだ?」

「え?責任取らないとダメ?」

「ダメだ。もし無責任に投げ出すならお前は今後国に入れん」

「ジョーダンだって兄者!流石に僕もそこまでボンクラじゃないさ」


そう言って先程と同じように槍を取り出すヤン。するとおもむろに槍の石突の部分をへし折りミドリに手渡す。


「な、何を!?」

「受け取ってよ。今回の謝罪と感謝を込めて」


恐る恐る受け取ると槍の石突は小さな槍へと変化していた。


「これは?」

「この槍の分体ってところかな?もし勝てない敵に遭遇したら魔力を込めて投げつけて見てよ。面白い物が見れるよ」

「面白い物?」

「それはその時になってからのお楽しみだよ。あ、くれぐれも女の子には投げないでね?」

「はぁ……」


そうして謝罪の証(?)を受け取り謁見の間を後にする。


「ミドリ様!ご無事でしたか!?」

「すまんな嬢ちゃん。情けないとこ見せたわ……」

「二人共!もう大丈夫なんですか?」

「医者が言うにゃどっちも軽症だったみたいでもう動いて問題ないってよ」

「それより自分が気を失ってからの話を聞かせて貰っても?」


そしてミドリは二人が気絶した後の出来事を伝える。


「やっぱりあの男は只者では無かったか……」

「ポセイドンの槍を召喚したって事は愛し子の中でも相当高位なヤツだな」

「愛し子に序列とかあるんですか?」

「あぁ、一口に愛し子と言っても様々でな。神から愛されるだけで特別何かの能力が備わらない場合もあるし、試練と言う名の災害に巻き込まれる不運なやつもいる」

「昔王国に居たという愛し子は特に何の能力も授からなかったらしいですが魔物が視界に入る瞬間消滅したと伝えられています。」

「という風なもんでな。ただ愛されるだけのヤツもいる中本人の武器を授けられるやつってのは稀なんだ。最低でもあの男はその武器を持つにふさわしい実力と人格が神に保証されてるってこった」

「確かに……。槍を出す前から圧倒的な強さだった……」

「ま、比べるもんじゃねぇわな。でも嬢ちゃんも一応愛し子の部類なんだぜ?」

「え?」

「考えてもみろよ。喧嘩もしたことも無いようなお嬢様が今やモンスターをバッタバッタと切り倒す一端の剣士だ。しかも魔法が無い世界から来たのにこっちの世界でも珍しい無詠唱と来た。これで愛し子じゃなかったら稀代の天才ってこったな」

「ワタシが愛し子……。一体何の神様に愛されたんですかね?」

「お?嬢ちゃん聞かされて無いのか?」

「はい、特に聞いては無いですね」

「おっかしぃな?キースが言い忘れたとも思えんが帰ったら聞いてみると良いんじゃないか?」


そんなこんなで一行は船へと乗りオリンピアへと戻る。日は暮れていたもののそこまで遠方でも無いので日帰りでの任務となった。


「で、お土産は?」


ニコニコと笑った顔で圧を掛ける王様。後ろではポセイドン戦の後よりも顔色の悪いキースが山積みになった書類と格闘している。


「えーと……。トラブルがあってそれどころじゃ無くてですね……」

「お土産無いの?」

「あ!そういえば向こうの英雄様と偶然会いましてコレを貰いました!」


そう言ってヤンに渡された槍を差し出す。王様は興味深そうに槍をまじまじと眺める。


「ほぅ、あの青臭いガキがこんな物を……」

「え?」

「いや、こっちの話さ。ソレはミドリちゃんが持っておきなよ」

「え、でも……」

「だって僕それ触れないし」


そう言って王様が槍を指先で触れようとするとバチッと音を立てて弾かれる。


「ってことだからさ。ね?」

「じゃあ、ありがたくワタシが頂戴します」


ミドリが観念したようにそう呟くと満足げな笑みを浮かべ、王様はロビンとギルバートの方を見る。


「で、君らは女の子一人に任せて仲良くお昼寝してたと?」

「も、申し開きもございません」

「すみませんね旦那。俺もそろそろ歳なモンでね」

「少し君らは鍛え直す必要があるようだね」


そう言って指を鳴らすと扉が開かれ片目だけ覗いている仮面を付けた筋骨隆々な男が数人部屋へと入る。


「ちょっとこの二人のこと鍛え直してやってくれないかな?」

「「御意」」

「「!?」」


驚愕する二人をそのまま拘束し連れ去る男たち。ミドリは苦笑いをしながらその二人を見送る。


「じゃあご苦労さまミドリちゃん。とりあえずキースの仕事と二人の訓練が終わるまで休暇と言うことで」


振り返らずに手を振りながら部屋を後にする王様。キースと二人きりで部屋に取り残されたミドリは書類と格闘するキースへ声を掛ける。


「何かお手伝いしますか?」

「大丈夫……。いえ、では紅茶を入れて貰っても?」

「はい!」


一息着くキースと談笑しながらミドリも一緒に紅茶を楽しむ。今日の出来事やセイレーンの景色などを話しながら夜は更けていく。



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「で、あの娘はどうだった?」

「うーん、ダメっぽいね。ポセイドン様が言ってた通りだと思う」

「じゃあ、あの娘はどうするんだ」

「どうするって言われてもねぇ。この国を離れる訳にもいかないし、救ってあげたいとは思うけど僕には難しそうだ」

「でもポセイドン様に頼まれたんだろう?怒りを買うつもりなのか」

「ポセイドン様はそこまで狭量じゃないさ。僕が手出し出来ないことも承知の上で言ってただろうしね」

「そんなものか」

「そんなもんだよ兄者。ポセイドン様とは結構長い付き合いだしね。まぁ、僕の手が届く範囲で便宜を図る形で納得してくれるさ」


そう言ってヤンは夜空の星を眺める。その表情に昼の軽薄さは無く、哀れみと慈しみに満ちた目をしていた。


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