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21.初めての海外旅行(中編)


「では、キングアリゲーターの討伐、よろしくお願いします」


そう言って深々とお辞儀するヤム。


「任せて下さい!」


ミドリは胸を張り精一杯の力こぶを作るが、大して強そうには見えない。


「お前さんも冒険者何だろ?一緒にヤらねぇのか?」

「いえ、私は皆さん程強くは無いので……。死なない程度に戦いを見守るのが精一杯ですよ」


逞しい筋肉を小さくし、ヤムは苦笑いをする。


「まぁ、我々の戦力であればキングアリゲーターぐらいなら何とかなるでしょう」

「そうだよ!私達だって強くなってるんだし!」

「まぁ、お前さんがそれで良いならナンも言う事は無いけどな」


戦闘には参加しないもののヤムは王へ経過を報告する義務があるのか戦いを見守る選択をした。


「ここです。あの小さな陸地でキングアリゲーターを見かけたと報告があったようです」

「何か、少し神々しいですね。あのオブジェはなんですか?」

「古くからあるとは聞いていますが、何かは地元の住民にも分からないそうです」


水に囲まれ孤立した陸地にはボロボロになった石の像が建てられていた。その像は長い月日によるものなのかボロボロにくずれており、元がどんな形だったのかは分からない形をしていた。そして周りの建物のせいか陸地だけが陽に照らされており、一種の神々しさを演出していた。


「……!来たようです!」


そう言いヤムの指差す方向を見ると水面に気泡が浮かんでおり、徐々に量を増やしていきキングアリゲーターが姿を現す。その大きさは大型の車両程もあり、歴史を感じさせる傷が体中に刻まれている。キングアリゲーターはミドリ達を一瞥し、敵にもならぬと言うように背を向け陸地で体を丸めて眠りへと着いた。


「完全にナメられてるな」

「そう……みたいだね……」

「でもちょうど良かったですね。流石にミドリ様でも水面で戦うのは不利ですし」

「では、船を陸地に寄せましょう」


そう言ってヤムが慣れた手付きで船を繰り上陸する。


「ここまで来ても無視ですね」

「なら一発景気づけにでかいのお見舞いしてやるか」


ロビンは不敵な笑みと共に懐から布に巻かれた丸い物を取り出し、導火線に火をつける。


「オメェら!鼓膜破られたくなけりゃ耳塞いで口開いときなぁ!」


そう言い切るか言い切らないかでロビンは丸い物を数個キングアリゲーターに向かって投げる。すると轟音と共に土煙があがる。


「爆弾……ですか?」

「お、物知りだな嬢ちゃん。最近南の方から仕入れたんだが、音がデカいのと狭い場所で使えないのとでお蔵入りだったんだが、こんな形で役立つとはな」

「あのなぁ!投げる前に一言相談するべきだろう!?だから冒険者はイヤなんだ!」

「皆さん!まだです!」


ヤムのその声と共に土煙を切り裂きキングアリゲーターの尻尾がギルバートを捉える。


「っがは!!!」


何かの折れる音と共にギルバートが吹き飛び建物のひとつに叩きつけられ水へと沈む。


「ギル!」

「チッ!頑丈なやつだ!傷ひとつ付いてねぇじゃねぇか!」

「ギルバートさんは私が救出しますのでミドリ様はキングアリゲーターに集中して下さい!」


そう言いヤムは上着を脱ぎ捨て綺麗なフォームで水中へと飛び込む。


「嬢ちゃん!最初から全力で行くぞ!」

「はい!」


ミドリ達を敵と認識したのかキングアリゲーターは侵入者を噛み砕くべく口を大きく開けミドリへと突進する。


「いくら頑丈でも目玉まで固くはねぇだろっと!」


ミドリへと肉薄するキングアリゲーターだったがロビンの放った短剣が左目へと深く突き刺さり、痛みに耐えかね目をつぶりながら尻尾を大きく薙ぎ払うように振る。ミドリは反り返る形で攻撃を避け、右手の剣でその尻尾を切り上げる。


「ガァァァァア!」


初めて感じる痛みに悲鳴を上げるキングアリゲーター。ミドリが剣の血を払うと同時に地面に尾が着地する。キングアリゲーターはその光景を見て怒りを感じたのか先程よりも勢いを強めて突進を仕掛ける。


「はぁぁぁぁぁ!」


掛け声と共に構えた剣が青く光る、そして迎え撃とうとしたその時上空から何かが降り注ぐ。


「シャオラァアアアアアアアアア!」


降り注いだ何かは叫び声を上げながらキングアリゲーターの頭へと墜落し先程の爆弾とは比にならない程の土煙を上げる。


「何だぁ!?」

「今の声は……!?」

「何だ?ミドリじゃねぇか!」


土煙が晴れ、声の主が姿を現す。しなやかな肢体に猫のような獣耳。以前遭遇した魔族の「タマ」だった。


「どうしてアナタがここに!?」

「あぁ、オレはちょいとこのワニ公をぶっ殺しにな」


唖然とするミドリとロビンを他所にタマは笑いながらも眼光鋭く周りを注視する。


「サシ……とは行かねぇが、前回程邪魔者は多くなさそうだな?」

「いや、でも別に今回は戦わなくても……」

「理由なんか後で考えりゃいいだろうが!」


そう言いタマはミドリへともの凄いスピードで直進する。それを防ぐべくミドリは剣を構えるがピタリとタマは動きを止めロビンへと勢いの乗った蹴りを放つ。


「がはっ!!」

「ロビン!」

「まずは邪魔者からご退場願おうか!」


予想もしていなかった一撃をモロに受けたロビンは吹き飛び陸地を何度か跳ねたあと水際へと着地する。


「んじゃあ、心ゆくまでヤろうぜ!勇者様よぉ!」

「なんなのよ!アンタはぁ!!」


お互いに間合いを読みつつ契機を探る。動きを止め沈黙が空間を満たすとザバァと何かが上陸する音がし、両者が同時に音の方向を素早く確認する。


「えーと……どういう状況で?」


ギルバートを救出し終えたヤムが不思議そうに尋ねる。


「何だぁ?お前?」

「ヤムさん!逃げて下さい!魔族です!」

「え!?魔族!?」


ロビンの横にギルバートを寝かせながらヤムは驚愕の表情を浮かべる。


「せっかくいいところなんだから邪魔すんじゃねぇよ!」

「……ダメ!!」


ヤムを排除しようと走り出すタマを止めようとするが位置取りが災いし、ミドリでは追いつけない。


「そいつらと一緒に寝とけぇ!」


助走の勢いを殺さずに右手を支点にその場で回転し、そのままヤムの頭目掛けて蹴りを放つタマ。実力の無い者が喰らえば首から下と別れを告げるのは必至だろう。


「女は殴らない主義なんだがね……」


もうダメだと思ったミドリの目にはタマの蹴りを片手で受け止めるヤムの姿が映った。ヤムは蹴りを受け止めた手とは逆の手で頭を掻きながら続ける。


「まぁ、蹴りなら問題ないか……」

「あぁ?何言って……!」


タマがそう言いかけると轟音と共に吹き飛ぶ。ヤムの様子を見るに前蹴りを放ったようだ。


「かはっ!」

「あ、ゴメン!何か言いかけた?」


石の像に叩きつけられるタマに緊張感無くそう問いかけるヤム。


「て、てめぇ!」

「おー!流石魔族だ。頑丈だねぇ」


そう言いながら何事も無いかのように歩きながら近寄るヤム。


「できれば女の子とは戦いたくは無いんだけど……。だって僕紳士だし?」

「紳士は女の子が吹き飛ぶ蹴りを腹にぶち込まねぇよ……!」

「ん~、流石に君じゃ僕に勝つのは無理だと思うんだけど、どうしたら諦めてくれる?」

「やってみ無けりゃわかんねぇだろうがよ!」


血を吐きながら啖呵を切るタマ。少し考える素振りをしてからヤムは右手を宙へと差し出すとどこからとも無く水が集まり槍を象る。


「分かるんじゃないかな?」


離れた位置にいるミドリでも分かる程濃密なプレッシャーと魔力が空間を支配する。


「その槍は……ポセイドンの……!?」

「そ!ポセイドン様の槍とおんなじヤツね♪で、魔族の君はどうする?死ぬ?生きる?」

「クソッ!!」


そう言いあぐらの形で地面に座り込むタマ。


「煮るなり焼くなり好きにしやがれ!」

「だってよ?勇者様?」

「え!?私ですか!?」


ミドリの問いに微笑みで返すヤム。観念しとりあえず疑問だったことを口にする。


「じゃあ、質問だけど……。アナタはどうしてここに?なんでキングアリゲーターを殺したの?」

「あ?あぁ……。一部の魔族から依頼があったんだよ。自分達の聖地を守ってくれってな」


そう言って石像をコンコンと叩く。


「コレはソイツらの神様の像らしいぜ?今じゃ見る影もねぇけどな」

「で、君はソレを守る為に不埒者を排除したと」

「そうだ、ワリィか?」

「いや、結構イイヤツなんだな君は」

「ならワタシを襲ったのは?」

「ただ喧嘩したかっただけだよ!」


そう言ってプイと横を向くタマに苦笑いするミドリ。


「ん~喧嘩を止めるのも無粋なんだけど。流石に俺の国で勇者様が死んだりしたら事だから他所でお願いできるかな?」

「わかったよ!流石にアンタには勝てる気がしねぇしな……」

「なら良かった。じゃ、帰ろっか勇者様?」

「え?タマはこのままで良いんですか?」

「流石に僕も女の子殺したくないし、ソレに向こうもお迎えが来たみたいだしね?」

「迎え?」


ヤムが指差す方向を見ると水面に黒い影がいくつも浮かんでおり、姿を表す。体表は水色の鱗に包まれた人型の魔族「魚人族」だ。彼らは陸地へと上がるとミドリらにお辞儀をしてタマに肩を貸しシャチのような生き物の背に乗せその場を後にする。


「色々聞きたいことはあると思うけど僕らも帰ろっか?」


疑問を持つミドリへヤムはそう言いギルバートとロビンを抱え船へと乗せ、ミドリと共に元来た水路を辿り王城へと向かった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 素晴らしい戦いでした! [気になる点] 海神の槍! [一言] もし暇があれば、私の作品を読んでもいいかもしれません。
2023/08/26 17:51 退会済み
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