20.初めての海外旅行(前編)
本当にすみません!私生活のトラブルで更新止まってましたが一段落したので更新再開します!
「良い風ですね~」
「ミドリ様!そんなに身を乗り出すと危ないですよ!」
「あ、すみません。海に来るのなんて初めてで……」
「前の世界じゃ海は無かったのか?」
「いえ、そういうわけでは無いんですけど……その……」
「その?」
「友達が居なくてですね……」
「意外ですね。ミドリ様はご友人が多いものと思っていましたが……」
「いや、意外って程でもないんじゃねぇの?実際こっち来てから結構経つがメイドの2人くらいしか仲良いところ見たこと無いしな」
「おい!言葉に気を付けろ!ご友人が少なくたってミドリ様の魅力は変わらないんだ!」
「ギル……ワタシのライフはもう0よ……」
「おじさんもそれはちょっとどうかと思うぜ?」
今回ミドリ、ギルバート、ロビンの三人は王国の交易国からの救援要請により船で移動していた。向かう国は水の都と名高い「セイレーン」である。
「そういえばキースは今回来ないのか?」
「お前は会議で何を聞いていたんだ?今回キース様は火急の用があって来れないと言っていただろうが」
「来れない以外に何も聞いてないじゃねぇか。お前は算数の答えを聞かれたら『数字』って答えんのか?流石騎士様は下々の者とお考えが違うようで」
「何だと!?」
「まぁまぁ二人共それくらいでやめましょう。他のお客さんにも迷惑ですし……」
二人を制止するも言い争いが終わらず、ますます激しくなるのを見てミドリは小さくため息をつき拳に息を掛ける。
「ィダッ!!」
「オグッ!!」
「良いですか!二人共!今回私達はオリンピアからの使者として他国に赴くんですよ?その使者達がくだらない事で争っていたら向こうの国に不信感を抱かせるでしょうが!」
「嬢ちゃんのステータスで殴られたら頭の形変わっちまうよ……」
「ミドリ様……自分も悪かったですが兜が凹む程の力で殴られるのは……」
「いい歳して言い争いしてる人たちが悪いんです!」
そう言われ肩を小さくする二人。他の乗客はそんな様子を見て微笑んでいる。
「じゃあ、会議で話を聞いてなかったロビンさんの為にもう一度今回の任務についておさらいしましょうか」
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「と、言うわけで君たちにはセイレーンで特別任務を行ってもらうよ☆」
キースの部屋で次のダンジョン攻略について話しをしていた四人の前に突然現れそう告げる王様。その様子はどこか楽しげだ。
「『と、言うわけで』と申されましても……一体何があったのでしょうか……?」
「ん~話すと長くなるから省くと友好国に救援要請を貰ってね。断る訳にも行かないからちゃちゃっと解決してもらいたいと思ってね☆」
「救援要請とはただ事では無いですね。依頼内容はどのような?」
「成長しすぎた『キングアリゲーター』の討伐とのことだよ」
「キングアリゲーター?救援要請を送るということは彼の国の英雄でも対応出来ない程なのでしょうか?」
「それがねぇ、運悪く複数の地域で大量発生しちゃってるみたいでね。流石の英雄様でも手が回らないとのことだよ?」
「なら仕方ないですが少し引っかかりますね。彼ならキングアリゲーターなど物の数にもならないでしょうし……」
「流石にミドリちゃん達をどうこうする気は無いでしょ。そんなことすれば即開戦だしね」
「分かりました。そういうことであれば私も最大限の注意をもって任務に当たりましょう」
「あっ、キースは今回お留守番ね☆」
「えっ……!?」
「君、結構仕事溜まってるからね、これを機に片しちゃいナ☆」
唖然とするキースを尻目に王様はミドリに耳打ちをする。
「セイレーンという国はポセイドン様を崇拝していてね……。いくら国の使者だとしても崇拝している神から怒りを買った人間が行くのは余計なトラブルが起きかねないから君ら三人に頼んだよ☆」
「そういうことでしたら任せて下さい……!」
王様は満足そうに微笑むとみんなに向き直り大きな声で言う。
「んじゃ頼んだよ!お土産は美味しい海鮮物でヨロシク☆」
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「にしても王様の無茶振りには困ったもんだねぇ……」
「仮にも国の権力者だから首を縦に振らざるを得ないが、流石今日伝えて今日行けと言われるとは思わんかったぜ」
「まぁ、依頼内容自体はそこまで難解なものでは無いですしミドリ様なら難しくは無いでしょう」
「そうかな?」
「そうですよ。まぁちょっとした旅行だと思って気楽に行きましょう」
「……うん、ありがとうギル!」
「お、そろそろ着くみたいだぞ?」
そう言われ前を見ると幻想的な風景が広がっていた。セイレーンに陸地は無く、白を基調とした石造りの建物が海から顔を出す形で密集している。大小様々な船が建物の間の水路を行き来しており、立橋のように空中に建設された水路は流れが早いらしく、大型の船で人や物を運んでいた。水中に目をやると色鮮やかな魚が泳いでおり、どういう原理か空気の膜を纏った建物からは柔らかな光が漏れて海底を照らしていた。よく見ると身なりの良さそうな人たちが食事を楽しんでいる。
「これが水の都……!」
「すげぇよな、コレ。おじさんも初めて来た時は嬢ちゃんみたいにはしゃいだモンだ。」
「自分は初めて来ましたがこれはなんとも幻想的な風景ですね……」
目を輝かせて辺りを見回していると船が動きを止める。どうやら関所に着いたようだ。
「お待ちしておりました。オリンピアからの使者様方でお間違い無いですね?」
「あ、はい!今日はよろしくお願いします!ワタシはミドリ、こっちの二人はロビンとギルバートです!」
「ご丁寧にどうも。私はヤムと及び下さい」
そう言い燕尾服を身に纏った青年は深々とお辞儀をする。青年は健康的な浅黒い肌に編み込んだ金色の髪をしており、柔和な笑顔と知的なメガネから争いを好まなそうな印象を受けるが、服の上からでも見て取れる程筋肉が発達しており、いささかチグハグな印象を受ける。
「では、皆様をお連れするように王より仰せつかっておりますので」
そう言われミドリ達はヤムの用意した別の船に乗って王城へと向かう。
「ヤムさんは戦闘経験があるのでしょうか?」
ギルバートの質問にヤムの眉がピクリと反応する。
「どうしてそう思われたのでしょうか?」
「身のこなしがモンスターとの戦闘を生業とする者のそれです。ソレ以前にまずその体つきで文官と言うのも無理があるでしょう?」
「バレてしまいましたか。」
そう言って頭を掻きながら笑うヤム。
「いえ、実は昔一時期冒険者として生活していたことがあったのですが。一応コレでも貴族なもので、父に叱られて今は王城努めですよ」
「今はもう冒険者活動をしておられないのですか?」
「いえ、今も仕事が休みの時にはダンジョン攻略に精を出しております。流石に机仕事ではこんなに筋肉はつきませんしね」
笑いながら力こぶを作るヤム。彼の服は上等な生地を使っていると思われますが、筋肉に圧せられてギチギチと悲鳴を上げる。
「ご心配なさらずとも大丈夫ですよ。今回私が選ばれたのはモンスター等に詳しい貴族が少ないからでお三方をどうにかできる実力もありませんので」
申し訳無さそうな彼の表情から彼が嘘を言っているようには見えなかった。
「不躾な質問をしてしまい申し訳ありません。なにぶん国外での任務が初なもので……」
「ってことはセイレーンは初めてですか?どうです、綺麗でしょう?」
「はい、とっても。ヤムさんはセイレーンがお好きなんですね?」
「はい!とっても!私はこの国を、この国の人々を誇りに思っています!」
そう言ってヤムは優しい目をする。その評定は彼の言葉に嘘偽り無く、この国をかけがえの無い物だと思っていることが伺える。
そんなこんなで王城へ着くとメイドに謁見の間へと案内される。
「メイド服って万国共通なんですね」
「大昔の勇者様が持ち込んだモンだって聞いたことはあるがどうなんかね?」
「自分もそのように聞きいた覚えがありますね」
などと小声で話していると大きな扉の前でメイドの歩が止まる。
「オリンピアの使者様方をお連れいたしました!」
「入りたまえ」
大きいながらも落ち着いた男性の声がそう言うと眼前の扉が開かれる。謁見の間は町並みと同じく白を基調とした作りで、窓の替わりに絶え間無く水が流れており、外からの光がゆらゆらと揺られながらも十分な明るさを保っていた。
「良く来てくれた。余はセイレーンの王を努めているダーレンだ。」
「あ、はい!ミドリと申します!本日はお日柄も良く……」
「いや、堅苦しいのは抜きにしよう。早速で悪いが話しは聞いてるね?」
「はい!キングアリゲーターですね?」
「その通り、キングアリゲーター如きダヤギームがいれば何の問題も無いが今はタイミングが悪くてね……」
「ダヤギーム……?」
「あぁ、君はこっちの世界に来て日が浅いんだったね。」
「僭越ながら私の方から説明させて頂いても?」
横に居た小太りな男性が申し出る。声色は冷たく、神経質な印象を受ける。肌は白く、不潔だと思わない程度に身なりを整えているが頭頂部は少し寂しいようだ。
「よい、そちから説明してやってくれ」
「かしこまりました」
そう言い王に深々とお辞儀するとミドリ達に向き直り口を開く。
「ダヤギームとは我が国では英雄と呼ばれる男で、戦闘能力だけで言えば間違い無くこの国で最強だろう。更に彼は愛し子であり、この国では少なからず崇拝の対象ともなっている」
「愛し子……?」
「愛し子とは神に愛された人々の事だ。大抵は強力な戦闘能力や秀でたスキルを与えられ、国に影響力を持つ事も少なくは無い。」
「その口ぶりだと、アンタはあんまり気に入らなそうだな?」
「コラ!」
「随分な言われようですな。貴殿とは初対面のハズだが私に思うところでも?」
「権力者ってのはどうも好かない性分でな」
少しの間気まずい雰囲気が漂う。小太りな男性が王に対して伺うような視線を送ると王は苦々しい顔で口を開く。
「ダヤギームは表向き英雄だが、少し問題があってな……」
「問題が?」
「あぁ、問題と言うと少し大仰すぎるが……。ヤツは少し、いやかなり自由奔放なヤツでな……。そこにいる宰相を始め要職を担う者たちには少し頭の痛い英雄様なのだよ」
「自由奔放と言いますと……?」
「英雄の振る舞いとしては少し軽すぎる気質でな。ここだけの話ではあるのだが……」
そう言って王はミドリをジッと見る。ミドリが頷くと王は続ける。
「今回そちらを呼んだのもあやつでな。ひと目勇者と言う者を見たいとのことで今回のキングアリゲーターを1体だけ討伐しないのだよ……」
頭を抱えてため息をつく王。
「情けない話だが、ヤツの戦闘能力と愛し子と言う立場から無下にもできんくてな……」
「それは、苦労なさってるんですね……」
「本当に申し訳ないがこの事は他言無用で頼む……」
なんとも言えない空気が漂う中宰相が口を開く。
「キングアリゲーターのいる場所はここからそう遠くも無いのであまり時間がかからないとは思う。こちらが手配した冒険者に案内させるので安心してくれ」
「あぁ、ヤムさんですね?」
「ヤム……?あぁ、そういうことか。そう、ヤムだ。アイツの実力であれば問題ないだろう。」
「?」
少しやり取りに違和感を覚えつつも謁見を終え、ミドリ達は王城を後にする。