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19.マロンのドキドキラブラブ大作戦

「はぁ……。はぁ……。」

「大丈夫か嬢ちゃん。ホレ、手貸すぞ?」

「ありがとう……ございます……。」

「水をお持ちしましたのでお飲み下さいミドリ様」

「ありがとう……ございます……。」


ミドリとロビン、そしてメイリーは国内でも有数の山を登っていた。山は『死の山』と呼ばれ峻険な地形に加え、鳥型モンスターが多く、登山家や冒険者も寄り付かない山として有名だった。


「そんじゃ、ここらで休憩でもすっか」

「そうですね。地形もある程度緩やかですし体を休められるでしょう」


そう言ってテキパキと設営をする二人。慣れない登山に息も絶え絶えのミドリは小さな声で呟く。


「マロンちゃん大丈夫かな……?」


---------------十数時間前---------------


「暇ですねぇ……」

「暇だねぇ……」


マロンとミドリはソファーに腰掛けてお菓子をつまみながら紅茶を飲んでいた。


「まさか昨日の依頼が今週分の依頼全部だったとは……」


前回の依頼は一日で消化するのを想定した量では無かったようで、それを一日で消化してしまった為、次のダンジョン攻略もしくは新規の依頼が来るまでの間は休暇という運びになっていた。


「キース様がミスするなんて珍しいですね」

「うーん……流石に『水没神殿』の件で本調子じゃなかったんじゃないかな?」

「に、してもです。キース様は仕事でのミスをしないことで有名で一部の界隈ではゴーレムなんじゃないかと噂される程なんですよ?」


実際キースのミスは非常に珍しいらしく、王様も目を剥いて驚いた程だと言う。


「にしても暇ですねぇ……。何か恋バナとかないですか?」

「そんなポンポン出てくるものでも……あっ……。」


マロンに話を振られ昨夜の事を思い出す。


「あー!その顔は何か心当たりがあるんですね?聞かせて下さい!」

「いや、その人に悪いし……」

「ここだけの話にしておきますから!ホレホレ、話した方が楽になるゾイ」


この手の話しに目が無いマロンに押され、ミドリは渋々昨夜の出来事を話す。


「やっぱりメイちゃんとロビン様はデキてたのか……!」

「くれぐれも他の人に言っちゃ駄目だからね?」

「当然ですよ!恋バナはその場の秘密が鉄則ですからね!」

「本当かな……?」


ミドリの不安など素知らぬ顔のマロンは何やら思いつた様子で鼻歌を歌いながら部屋を後にした。

その数刻後ミドリの部屋にノックする音が響く。


「メイリーです。ミドリ様、今よろしいでしょうか?」

「はい、大丈夫ですよ」

「失礼します」


メイリーは部屋に入ると申し訳なさそうに口を開く。


「厚かましいお願いで申し訳ないのですがよろしいでしょうか……?」

「メイリーさんのお願いなんて珍しいですね?どうしたんですか?」

「それが、マロンが何やら急病を患ったようで……、薬の材料を採取するのに同行して頂きたいのです」

「え!?マロンちゃんが!?」

「はい、何でも頭痛と吐き気と目眩と発熱があるようでかなり珍しい病気のようです」

「そんな、さっきまであんなに元気だったのに……」

「キース様が診察なさったとのことなので信憑性は高いと思われます。」

「分かりました!マロンちゃんの為にも頑張りましょう!」

「……ありがとうございますミドリ様!」


------------------------------


「しっかし、ロビンさんもキースさんに頼まれていたとは」

「こっちこそビックリしたぜ?もしかして薬が必要なのがあの嬢ちゃんだったとはな」


ロビンはキースから薬の材料採取を依頼されており、ギルドで入山許可を発行して貰っている時に偶然出会い、同行することとなった。


「…………」

「どうしたんですか?メイリーさん。やっぱり疲れましたか?」


いくら有能なメイドと言えどもメイリーもメイドである。ミドリは疲れを気にして声を掛ける。


「……!すみません、少し考えごとをしていました」

「もし無理そうならすぐに言って下さいね?」

「はい、お気遣いありがとうございます」

「おいおい!ちっと見ない間に鈍ったんじゃねぇか?」

「…………」

「おい、本当に大丈夫か?」


そう言ってメイリーの顔を覗き込むロビン。


「……!?顔を近づけるな!」

「おぉ怖い怖い。そんな怒んなって?」

「…………」

「チッ……。調子が狂うな……」


そのやり取りを見てふと気がつくミドリ。明後日の方向を見てバツが悪そうに頬を掻くロビンにボーッと顔を赤らめさせるメイリー。


「これはもしや……!?」

「どうした嬢ちゃん?」「どうしましたかミドリ様?」

「いえいえ!何でもありません!さぁ!薬の材料を取りに行きませう!」

「「?」」


不思議がる二人に頬をほころばせてぎこちなく歩くミドリ。


(この甘酸っぱい空気……!間違いない!メイリーさんはロビンさんを異性として意識している!)


少しだけぎこちない空気のまま休憩を終わらせ山を登る三人。


「はぁぁぁ!」

「落ちねぇように気をつけろよ嬢ちゃん!」

「はい!」


道中モンスターを切り捨てるミドリ。ロビンは短剣を使い接近戦を仕掛けた相手をすれ違いざまに仕留める。予想外だったのはメイリーも戦闘ができる点だ。決して動きやすいとは言えないメイド服の状態で徒手空拳で鳥型モンスターの首をへし折ったり地面に叩きつけたりとかなりの戦闘経験があるように見える。


「凄いですねメイリーさん。素手でモンスターを倒すなんて」

「メイドですので」

「メイドは関係ねぇだろ……。」


そうして山の山頂を目指しモンスターを倒しながら進んでいるとピシッと嫌な音が聞こえる。


「……!?」

「メイリーさん!?」


突然メイリーの足を掛けていた岩が崩れ崖から放り出されるメイリー。ミドリは手を伸ばすも届かない。諦め目を閉じるメイリーだったが、地面に叩きつけられる衝撃が来ない為おそるおそる目を開けるとロビンが居た。


「ボーっとしてんな、アブねぇだろうが」


そう言ってキョトンとした表情のメイリーを引き寄せ安全な場所へ立たせる。


「お前何か今日変だぞ?病気でも移ったんじゃないか?」

「お前が心配する必要はない!」

「おい、何だよ?せっかく助けてやったってのに……」

「助けてくれなんて頼んでない!」

「へいへい、そうですか。アタシが悪ぅござんした」


そう言って振り向いて山頂を目指すロビン。しかしミドリはロビンの頬を赤らめてロビンの後ろ姿を追うメイリーを見逃さなかった。


「メイリーさん……」

「ひゃい!?」


突然背後から声をかけられ情けない声を出すメイリー。ミドリはロビンに聞こえないよう小さな声で耳打ちする。


「自分に素直になった方が良いんじゃないですか?」

「なななな何を!?」

「気づいてるんじゃないですか?ロビンさんのことを好きなんでしょう?」

「そ、そんなことあるはず……!」

「いえ、メイリーさんはロビンさんに恋してます。だってロビンさんを見る表情が乙女のそれですもの」

「これが恋……?もし、恋であるなら私はどうすれば良いのでしょうか……?」


頬をあからませ目を潤ませるメイリーにミドリは不覚にも胸をときめかせる。


「か、カワイすぎる……。」

「え?」

「いやいや何でも無いです!……そうですね、まずは素直に気持ちを伝える事から始めましょうか」

「素直に、でも昨日の夜から変にアイツを意識してしまって、心にも無いことばかり言ってしまうんです……」

「すぐにというのは難しいですからねぇ……。まずは助けて貰った時に「ありがとう」と言ってみましょう」

「それくらいなら私でも……!」


ブツブツと「ありがとう」を繰り返すメイリーを尻目にミドリは鼻歌混じりのスキップで先へと進む。


「~~♪」

「どうした嬢ちゃん?急に上機嫌になって」

「何でも無いです~♪」

「?」


と、その時タイミング良くモンスターが現れメイリー目掛けて急降下する。メイリーはまだブツブツと独り言を言っており気づいて居ないようだ。


「アブねぇ!」

「…………!」


ロビンの投げた短剣はモンスターの頭を貫きメイリーを救う。


「おい!大丈夫か!?」

「…………ら」

「は?何て?」

「ありがとうなんて言わないんだから!」

「は?何言ってんだお前?」

「…………///」


メイリーはロビンの問いかけにも答えず頬を赤らめて走り出す。


「あちゃー……。これは先が長そうだなぁ……」


その後も崖から落ちそうになること数度、モンスターに襲われるも気づかないこと数度と普段のメイリーではあり得ない量のポカを繰り返しつつ山頂へと辿りつく。


「はぁはぁ……。何だってんだチクショウ……。疲れるぜ……」

「…………///」


頬を赤らめて俯くメイリー。メイリーのミスをカバーして疲労困憊のロビン。そしてそれをニヤけながら見つめるミドリ。


「そういや、薬の材料があるってのはここらへんだよな?」

「そのハズなんですけど見当たらないですね?」


辺りを見渡すと草の一本も見当たらず場所によっては雪が積もっている状態だ。不思議に思いつつも薬草を探していると太陽の光が遮られる。上を確認すると大きな黒い影が徐々に近づいてくる。


「な、何だぁ!?」

「あれは……!ドラゴン!?」


強風を撒き散らしながらドラゴンがゆっくりと降下してくる。三人が武器を構え警戒していると聞き慣れた笑い声が響く。


「フッフッフッ!!」

「もしかしてその声は……!」


ミドリがそう問いかけるとドラゴンの背から小柄な人物が飛び出した。


「そう!マロンちゃんなのでしたー!!」

「「「!?」」」

「いやー、見させて貰いました。甘酸っぱいですねぇ」

「どういうことなのマロンちゃん!?」

「いえね?ロビン様とメイちゃんの距離を縮める為に今回の企画を思いついたんですよ。わたしスゴくないです?」

「ってことはキースの野郎も一枚噛んでるってことか?」

「全力で土下座したら手伝ってくれました!」

「…………」


ドヤ顔で胸を張るマロン。その後ろにはいつの間に回り込んだのかメイリーが恐ろしい顔でマロンを睨みつけていた。


「どうしたんですか?二人共、そんな青い顔して?わたしの後ろに何か……ヒッ!!」

「マロンとは少し話しあいが必要なようですね?」


その後メイリーに正座させられて説教を受けるマロン。今回ばかりは自業自得だとミドリは助け舟を出さなかった。

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