16.ロビン参戦!
「しっかしウチの野郎どもは情けねぇな!」
「申し開きもありませんね……」
「そういうお前こそ今まで何をしていたんだ!キース様もこんなヤツの言う事気にしなくて良いんですよ!」
「おぉ怖い怖い。俺は騎士様と違って王様に頼まれただーいじな依頼をこなしてたんでね。嬢ちゃん放ったらかしてお寝んねしてる暇も無くてね」
「貴様ぁ!」
「ははは……」
煽るロビンに怒るギルバート。ミドリ達は『火の山』と呼ばれるダンジョンを攻略していた。ダンジョン内は気温が非常に高く、至るところに溶岩が流れている火山を模したダンジョンだった。気温の高さで体力を奪われ、不注意になっているところを魔物が襲って来る上、足元には即死級の罠のなんら変わらない溶岩が流れている為、熟練の冒険者でも攻略には細心の注意が必要である。
「しっかし嬢ちゃん、筋がいいねぇ。前の世界でも剣とか握ってたのか?」
「いえ、平和なところだったので剣なんて握ったこと無かったです。そういうロビンさんこそ汗もかかずにヒョイヒョイ進めて凄いですね」
ミドリの言う通りロビンは高い気温にもかかわらず汗一つかく様子もなく。短刀や暗器を用いて的確にモンスターの急所を穿ち仕留めていた。
「オジさんはそこの二人と違って経験豊富だからね。そ・こ・の・ふ・た・り・と違ってね」
「貴様ぁ!俺は良いとしてキース様まで侮辱するかぁ!」
「やめろギルバート。余計みじめだ」
「そうは言っても……」
「汗だくで言われてもねぇ……。てかこんなところでくらい鎧脱いだらどうだ?」
「断る!これは騎士の誇りだ!」
「誇りで死んでたら世話ねぇんだわ。ま、脱水になって嬢ちゃんの世話になりてぇならそうしときな」
「う……!」
そう言われ渋々鎧を脱ぐギルバート。その様子を見てロビンはケラケラと笑っている。
「こんなんで本当に大丈夫かな…?信じてますよ王様」
---------------出発前---------------
「今回のダンジョン攻略からはロビンを参加させよう」
「な!?あんなならず者を信用してはなりません王様!」
「じゃあ君一人でミドリちゃんを守れるの?」
「そ、それは……」
「君が冒険者を嫌うのは勝手だけど、それでミドリちゃんを危険に晒すのはちょっと違うんじゃないの?」
「それはそうですが……」
「はいけってー。これ王命だからね♪」
そう言い王様は楽しそうに笑う。ギルバートは余程嫌いなのか苦々しい顔をするばかりだ。
「ま、彼はあんなんでも高位の冒険者だから腕は確かだよ。それに一緒に行動すれば案外気が会うかもよ?僕が見た限りだと君ら似たもの同士だし」
「そんなことありません!ミドリ様からも何か仰って下さい!」
「ははは……」
「はいはい、まあもう決定したし諦めて行ってきな。ミドリちゃん、大変だろうけど二人の相手頼むね?」
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ミドリは出発前の会話を思い出しながら喧嘩する二人を眺めてため息を付く。
「そういや嬢ちゃん。熱くないのか?オジさんの目が確かなら嬢ちゃんも汗一つかいてないと思うが」
「あ、前回の攻略で手に入れた剣で比較的楽なんです」
そう言ってミドリは蒼い宝石の埋め込まれた剣を見せる。宝石以外に飾り気のない作りではあるが波紋は海の中のようにゆらゆらと青い光を揺らめかせている。
「これ持ってると熱いものに耐性が付くようで、今回の攻略にピッタリです。」
「いいもんもってるねぇ。ポセイドン様に貰ったみたいだけど信用できるのか?」
そう言われポセイドンの顔を思い出す。キースに対して憎悪を向けていた彼だが、ミドリには穏やかな表情を向けていた彼にミドリはそこまで敵対心を持っていなかった。
「……はい、大丈夫だと思ってます。」
「そうか。嬢ちゃんがそこまで言うなら大丈夫なんだろうな」
「神を疑うとは恐れ知らずな……!やはり冒険者は信用ならん!」
「そういう騎士様は神様に怒られてしょんべんちびって泣いちまったんだろ?」
「なっ……!?」
「はぁ、仲良くできないのかな……」
呆れるミドリにケラケラと笑うロビンそれを見て怒るギルバートに疲れた顔で付いてくるキース。一行はそんなこんなで順調とは言えないものの確実に歩を進めていた。
「はぁっ!」
実力もあるが剣の相性が非常に良いため、炎を纏う犬型モンスター『ヘル・ドッグ』を難なく切り裂くミドリ。
「そろそろボスエリアだな。ここらで休憩しとくか」
「そうですね。ここで休憩してボス戦に備えましょうか」
ロビンが慣れた手付きで昼食の準備を進める。その傍らでミドリが剣を地面に突き立てると周囲の熱気が収まる。
「ホント便利だねぇ。その剣」
「助かりましたミドリ様……」
「おぉ、おぉ、若い男が少し熱いくらいでだらしがねぇなぁ」
「ぐっ……」
「そ、そういえばロビンさんっておいくつなんですか?そんなに老けて見えませんが」
「お、嬉しいねぇ。けど流石に嬢ちゃんよりは年上でね。詳しい年齢は秘密だ」
昼食をしながらその後の攻略に関して話しをする。一通り話し終えた後でふと思い出しミドリが口を開く。
「そういえばロビンさんってメイリーさんとお知り合いなんですか?」
「メイリーってあのメイリーか?メイドの?」
「はい、以前話しをした時にロビンさんの事を知っているようでしたので」
「あー……腐れ縁ってやつだな。うん。」
「もしかして、お付き合いされてるとか?」
「おぇ、やめてくれ。アイツとは腐れ縁以外の何者でもないよ」
「またまたぁ、結構雰囲気似てますし。案外お似合いなんじゃないですか?」
あまり機会のない恋バナにいたずらっぽく茶化すミドリ。するとロビンはミドリの耳元で囁くように言う。
「俺が言ったってことは秘密だけどな。俺とアイツはスラム出身でな。同郷だから何かと顔を合わす機会が多いってだけなんだ」
急に顔を近づけられドキッとするミドリ。それに気づいたのかギルバートが不敬だと怒り、ロビンがそれをからかう。そんなこんなで昼食を終え一行はボスエリアへと足を踏み入れる。ボスエリアは山頂を横に切ったような形で溶岩の溜まっている火口の周りを少し小高い平面が足場となっていた。
「ボスは居ないですけど……もしかして裏ボス!?」
「落ち着きな嬢ちゃん。ホレ、やっこさんもやっとお目覚めだ」
ロビンが顎で示す方向を見ると溶岩がボコボコと気泡を浮かべながら盛り上がって行く。3メートル程隆起したところでその黒光りする巨体が姿を現した。
「ナマズ……?」
「だな、アホ面がちょっと可愛く見えないか?」
「魔物が可愛いワケあるか!ねぇミドリ様?」
「可愛い……かも」
『火の山』のボスである『サラマンダー』は熱に耐える特殊な表皮を持っており。ナマズゆえに少し気の抜けたその顔が一部の冒険者の間で人気を博していた。
「三人とも、油断している場合では無いですよ!」
キースの忠告と同時にサラマンダーが口から溶岩の固まりを飛ばす。ミドリはそれを避けると足に力を込めサラマンダーへと飛び出す。
「はぁぁぁぁ!」
掛け声と共に剣を振りかぶると剣の宝石が光り刀身が青く染まる。
「いっけぇぇぇ!」
剣を振り下ろすと刀身から水が一直線に射出され薙ぎ払う形でサラマンダーの巨体を切り裂く。不思議な表情を浮かべながらナマズは上半身と下半身が斜めにズレて溶岩へと沈んでいった。
「おったまげたなこりゃ……」
「流石ですミドリ様!」
「あぁぁ!」
「どうしました!ミドリ!」
突然の叫び声に怪我でもしたのかと駆け寄るキース。
「ま、魔石がぁ……」
肩をガックリと落とすミドリにキースは苦笑いを浮かべつつ、一行はダンジョン攻略報酬を回収してダンジョンを後にする。今回の報酬は『火の剣』と呼ばれるもので魔力を流すことで火を纏うことができる魔剣の一種だったが、ミドリの剣よりは数段ランクの落ちる剣である為、キースが使用する流れとなった。
城に戻り入浴と食事を済ませ部屋へ戻るとメイリーが部屋の片付けをしていた。
「おかえりなさいませミドリ様。」
「いつもありがとうございますメイリーさん」
「いえ、仕事ですので」
素っ気なく返すメイリーにミドリはふと浮かんだ疑問を口にする。
「そういえばメイリーさんってスラム出身だったんですね。とてもそうは見えないです。」
「どこでそれを……!あぁ、あのクソ野郎ですね。」
「あ、秘密って言われてたの忘れてた……」
「まぁ、良いでしょう。私がスラム出身というのは本当です。」
「メイリーさんはロビンさんと一緒に冒険者になろうと思わなかったんですか?メイリーさんなら何でもこなせそうですけど」
「あのクソ野郎と同じ仕事をしたくなかったのもありますが、私はあのクソ野郎と違って向上心を忘れなかったので冒険者などと言う不安定な職には就きませんでした」
「ははは……」
「では、私はこれで失礼致します。」
そう言い流麗な所作でお辞儀をして部屋を後にするメイリー。完璧に整備された部屋でふかふかのベッドに包まれミドリは眠りへとつく。