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13.マロンのモテカワ大作戦(後編)

「もう!本当に心配したんですからね!」

そう言ってマロンは口を尖らせながら服を見繕っている。

「いきなり居なくなるわ、青い顔して戻ってくるわで心臓に悪すぎますよ!」

「…………」

「ちょっと!聞いてるんですか!」

返事が無い事が不満なのかマロンは勢い良く振り向きそのままミドリの両頬をつまんで引っ張る。


「ふぁい!ひぃてまふ!」

「いくら強くたってミドリ様は女の子なんです!不埒な輩に攫われたら酷い目に合うんですよ!」

「はい……以降気をつけます……」

「わかっていただけたのならケッコウです!」

そう言って鼻を鳴らして服の選別へと戻る。

ミドリはヒリヒリと痛む頬をさすりながら改めて先程の出来事を思い返しため息をつく。

(わたしはどうしたいんだろう……)

「いらっしゃいませ~」

店員の声で現実へ引き戻される。

「ミドリ、マロン嬢、買い出しは終わりましたがそちらはどうですか?」

「キース様!ちょうど選び終わったので少しここで待ってて下さい!」

「え?ちょっと!」

そう言いマロンは返事も待たずにミドリの腕を掴み強引に店の奥へと連れ去る。

「ミドリ様に似合う服を見繕ったので来てみて下さい!」

「え?えぇ」

マロンの勢いに押され服を受け取り更衣室へと入るミドリ。マロンは余程自信があるのか鼻歌を歌いながら着替え終わるのを待っている。

(流石にこれで着ないってのはマロンに悪いよね……)

服を見るといかにもマロンが好きそうな白いフリフリのドレスのようなものだった。自分には似合わないんじゃないかと考えるが観念してマロンの選んだ服を着て外へ出る。

「やっぱり思った通りです!バッチリ似合ってますよ!」

「そ、そうかな?」

「そうですよ!ささ、お二人に感想を貰いに行きましょう!」

背を押されキース達の待つ場所まで押し出される。

「どうですか!似合ってますよね!」

どうだと言わんばかりに胸を張り鼻を鳴らすマロン。ミドリがおずおずと顔を上げると見たことも無い程にキョトンとしたキースとギルバートの顔が映る。

「どう……でしょうか?」

不安げに尋ねるミドリに二人が現実に引戻される。

「え、えぇ似合っていますよミドリ」

「はい!とても良くお似合いだと思います!」

「似合ってなかったら本当の事を言ってもいいんですよ?」

少しぎこちない返事に少し気落ちしながらそう言う。

「いえ、普段見慣れない服装だったもので少しびっくりしていまっただけです。本当によく似合ってますよ。」

「はい、自分も心からそう思います!」

「ミドリ様はもっと自信持っていいですよ?なんたってわたしが選んだんですから!」

マロンが先程以上に胸を張る。

「ありがとうみんな。じゃあこの服を買おうかな?」

「フッ……支払いはもう済ませてあるよお嬢さん」

「失礼が過ぎますよマロン」

「メ、メイちゃん!?いつの間に!?」

突然現れたメイリーに全員の視線が注がれる。

「遅れてしまい申し訳ありませんミドリ様」

「いえ、仕事だったんだから仕方ないですよ」

「ふむ……」

流麗な所作でお辞儀をした後メイリーはミドリを上から下までじっくりと観察し考え込むように呟く。

「ど、どうしました?」

「少々お時間を頂いても?」

「あ、はい大丈夫です」

短い問答をしてスタスタと店内を歩き回りながら服を拾い上げるメイリー。

「こちらへ」

そう促されるままミドリは更衣室へと移動する。

「失礼致します」

「ひゃっ!」

いきなり服を脱がされ驚くも、目を開けて鏡を見ると先程のドレスとは違い深い紺色のワンピースを着ていた。いつの間に着替えさせられたのか思い返す間も無く再びキース達の前へと連れられていく。

「先程の服はミドリ様には幼すぎると思われたので私の見立てで落ち着いた服装を選ばせていただきました」

「ぐぬぬ……!悔しいけど似合ってる……!やるなメイちゃん!」

「お粗末様です」

「こちらも似合っていますねミドリ」

「はい、先程の服も良いと思いますがこちらの方がお似合いだと思います!」

全員に褒められ照れくさいながらも喜ぶ。

「ならこっちも買おうかな?お値段はいくらですかメイリーさん」

「こちら既に会計済みです」

「なんと!やるなメイちゃん!」

「お粗末様です」

「ははは……」

コントのような二人のやり取りに苦笑いをしつつ、一同は店を後にする。


「予想より時間かかちゃったね。ゴハンはどうしようか?」

「そういえば美味しい店探すの忘れてた!」

「そうなるかと思いましたので王城にて食事の準備を進めさせております」

「なんと!やるなメイちゃん!」

「お粗末様です」


いつの間にか馬車まで用意されておりミドリ達は王城へと戻ることになった。


「どうしたんですかミドリ?」

窓の外を眺めながら考え事をしているとキースに話しかけられる。

「いや、今日の事でちょっと考え込んじゃって……」

「あぁ、ギルバートから聞いてます。しかしミドリが悩む必要はありませんよ」

「でも……」

「私達がミドリにお願いをし、ミドリはその願いを聞き入れてくれただけです。もし今回の件で非があるとすれば私達大人の責任でしょう」

「そんなことは……」

そう言いミドリは俯く。

「ミドリは優しい。しかしそれ故に悩んでしまうのでしょう。どうしても気持ちに整理がつかなければ夕食後に私の書斎に来て頂いてもよろしいですか?少しお話をしましょう。」

返事をせずに頷くミドリ。

「マロン。寝てはいけませんよ」

「ふぇ!?全然寝てないっスよ!?3日は寝なくても余裕っス!?」

コックリコックリと船を漕いでいたマロンがメイリーに指摘され飛び起きる。一同はその様子を笑いながら馬車に揺られて王城へと向かった。



----------夕食後----------

コンコンとドアを叩く音が室内に響く。

「はい、入っても大丈夫ですよ」

「失礼します」

そう言いミドリがキースの書斎へと入る。キースに促されソファーへ腰掛けるといつもの紅茶が差し出される。

「書斎に来られたという事は昼の事で思い悩んでいるということですね?」

「はい……」

「ギルバートから詳細は伺ってます。ゴブリンを殺した自分がゴブリンを奴隷にすることに対して憤慨するのは筋違いだと思っているとか」

「はい、殺しておきながら奴隷はダメだとか言っていることが我ながら無茶苦茶なんじゃないかと思ってしまって」

紅茶をすすり一息つくとキースが諭すように話し出す。

「ミドリは狼が兎を食べようとした時に止めようとしますか?」

「…いえ、自然の摂理ですし、わたしが関わることの方がダメだと考えると思います。」

「それは生きる為に必要な行為です。生きる為に他者を殺すのは生まれた以上避けられません。そしてミドリがゴブリンを殺したのは村の人々が生きる為に必要でした。」

まだ納得しきれないミドリの表情を見てキースは続ける。

「ミドリが奴隷に反対するのは生きるのに必要ないことだからです。尊厳を踏みにじり他者を思い通りにしようとする行為を拒絶するのは当然でしょう。」

「でもあのゴブリンの子たちが奴隷になるのは私が親を殺したからで……」

「違います。ゴブリン達が奴隷にされるのはミドリのせいではありません。悪いのは国と我々大人です。奴隷制度などという非人道的な制度が存在するのは我々大人の不始末なんです。」

そんなことは無いというように首を左右に振るミドリ。しばらくの沈黙の後キースが口を開く。

「私は奴隷制度に反対です。しかし奴隷制度を無くす程の権力は持ち合わせていません。そこでミドリにお願いがあります。」

「なんでしょうか?」

「その気持ちを忘れないで欲しいのです。ミドリが魔王討伐を果たした後、国内外へ絶大な影響力を持つようになるでしょう。そうなった時に私に力を貸して欲しいのです。この国から様々な悲劇を無くす為に……!」

そう言って震える手でミドリの手を包む。

「はい、私も協力する事をお約束します」

「そう言っていただけて嬉しいです。情けない限りですが現状自分の打てる手がこれくらいしか無くて……。いたいけな少女を利用する私を軽蔑しますか?」

「いえ!軽蔑なんてしないです!」

「それは良かった。ミドリに嫌われたら落ち込んでしまいますからね」


その後も他愛もない会話を続け和やかな雰囲気で夜は更けていく。

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