第3話 チート勇者と追放と
とある大きな街の酒場で夕食を取っていた時の事。
「オレをパーティから追放してくれないか?」
『…はぁ?』
いきなりのソーマの提案に、アンリとエリィの声がハモる。
「驚くのは当然だ。しかし異世界に来た以上、追放物というのはやはり外せないんだよ! 追放されてからの逆転復讐劇はロマンなんだよ!」
謎の持論を力説するソーマ。
「追放物とかロマンとかはわかりませんが…私たちにはソーマを追放する理由がありません。一応、貴方を中心としたパーティなんですから、貴方を追放するというのも変な話ですよ」
正論で返すアンリ。
「それに、ソーマ様を追放すれば復讐されるというなら尚更イヤですわ。それとも…ソーマ様はわたくしたちのことが嫌いになったのですか?」
ウルウルとわざとらしく瞳を潤ませるエリィ。
「…う…いや、そんなつもりじゃ…」
2人に反論され、たちまちソーマの勢いが無くなる。
アンリは軽くため息をついた。
(やはり深くは考えてなかったか…)
「もし、ソーマ様が追放されるなら、わたくしはソーマ様について行きますわ。せっかく手に入れた自由を満喫していたいですし」
本音を隠す気もなく、エリィはニッコリと微笑む。
「…私は案内役ですから」
ソーマを追放してしまえば自分はこの任務から解放されるのではないか。一瞬よぎった誘惑を振り払ってアンリも答えた。
そんな出来事があった次の日の朝。
なかなか起きてこないソーマを起こしにアンリが部屋へ行くと、ベッドの上に置き手紙があった。
『やはり追放は外せない。
探さないでください。
ソーマ』
中身を読んだアンリは、思わずグシャリと手紙を握りつぶす。
「ソーマ…」
こちらの世界に来て日も浅く、こちらの常識にも地理にも疎い。その辺りの自覚が彼にあるのだろうか?
(そもそも、自分から出て行ったら『追放』にならないでしょうが…でも…)
「探さなきゃ…ダメですよね…」
アンリは大きくため息をついた。
「いや~、考えてみたら何でオレ、この世界の文字や言葉を使いこなせてるんだろ? オレってすげぇな~」
ソーマはウキウキと街を歩いていた。
「さ~て、まずはお約束通りに可愛い女の子たちを集めて…って、あれ? もう集まってたんじゃね?」
ふと立ち止まるソーマ。
「オレを追放した仲間たちに復讐…は、する理由が無いしな。そうそう、ついでに魔王を倒しに…行くためには、アンリとエリィが一緒じゃないとダメか? あれ? オレってこれから何したら良いんだ?」
ソーマは考え込む。
グウゥゥゥ…
同時にソーマの腹の虫が鳴く。
「そう言えば朝飯もまだだったな。腹が減っては良い考えも浮かばん。まずはどこかで腹ごしらえ…って、金も持ってないじゃねぇか!」
食事や宿の支払いなどは全てアンリに任せてあったため、ソーマは一文無しだった。
「くっ、こうなっては仕方ない。かっこ悪いがアンリたちの所へ戻るか…って、ここはドコだ?」
調子に乗って歩いていたソーマは、いつの間にか街の路地裏に迷い込んでいた。当然、帰り道など覚えていない。
「むぅ、これは…ピンチか?」
ソーマのこめかみに冷や汗が流れる。
「よぉ、兄ちゃん。困ってるみてぇだな」
そんなソーマに、ガラの悪い男が声をかけてきた。
「そうなんだよ、道に迷っちまってな」
男に答えるソーマ。
「それは災難だな。案内してやるよ、ついてきな」
「ありがたい。お前、見た目はアレだけど親切なヤツなんだな」
ニヤリと笑って歩き出した男に、ソーマは軽い気持ちでついて行った。
その頃、アンリとエリィは、ソーマを探して街の中をさまよっていた。
「ソーマはいったいどこへ? 早く見つけないと…」
「そこまで焦る必要がありますの? ソーマ様はお強いのでしょう? チンピラにからまれたくらいでは問題ないと思いますが」
慌てた感じのアンリに、エリィが問う。
「そんなことなら心配していません。問題なのは…女詐欺師に騙されて騒動を巻き起こしたり、ハニートラップに引っかかって大騒動を巻き起こしたり、女魔族の色香に引っかかって壮大な騒動を巻き起こしたりする可能性です…」
「…急ぎましょう、アンリさん。一刻の猶予もありませんわ」
アンリの返事にエリィは納得した様子でうなずいた。
男に連れられたソーマは、町外れの倉庫街に来ていた。
そのまま倉庫の1つに入っていく。
倉庫の入口付近には、5~6人ほどの同じようにガラの悪い男たちがいた。
「おい、お前たち! 『お客さん』だぞ!」
案内してきた男が声をかけると、倉庫の中にいた男たちがソーマを取り囲む。
「兄ちゃん、ここが目的地だ。珍しい服と高価そうな剣を持ってんじゃねぇか。案内料はそいつらで良いぜ」
「…う~ん、チンピラと見せかけて実は良いヤツら、って可能性も考えたけど、やっぱりチンピラはチンピラだったか」
「へッ! それがわかっててついて来たの…がばぁっ!」
案内してきた男が、最後まで言う前に吹き飛ぶ。
「仕方ない。拳で説得して案内してもらうか」
男を殴り飛ばしたままの姿勢でニッと笑うソーマ。
「こいつっ!」
「やっちまえ!!」
色めき立つ男たち。
「やれやれ、騒がしいですねぇ」
その時、倉庫の奥から細身の男が現れた。
「なるほど、お前がこいつらのボスってわけだな」
ソーマの言葉に細身の男の眉がピクリと動く。
「ほぉ、わかりますか?」
「フッ…登場のタイミング、そしてその言葉遣い、お約束の王道展開というやつだ。ということはお前ら、この辺りで奴隷売買とか密輸とかやってる組織だったり?」
「…クックックッ、まさかそこまでお見通しとは。見かけによらず頭の切れる方のようだ。さて、誰の命令で動いているのでしょうかねぇ」
「この国の王に頼まれて旅をしている、とだけ言っておこうか」
「ほほぅ、王家直属の密偵でしたか。ちょうど今ここには奴隷はいないので証拠はありませんが…さすがに貴方を帰すわけにはいきませんねぇ」
「なんだ…奴隷の女の子たちはいないのか…」
ガッカリした顔で辺りを見回すソーマ。
「フフフ…タイミングが悪かったですねぇ。今ここにいるのは、この樽の中の…」
男は厳重に封をした樽をポンと叩く。
「…まぁ、良いでしょう。無駄話はここまでです」
ゾロゾロとさらに10人ほどのガラの悪い男が出てきてソーマを取り囲む。
「さて、この人数相手にどれだけがんばれますかねぇ」
「オレは優しいからな。死なない程度に加減はしてやるよ」
男の言葉にソーマはニッと笑いながら、魔力が凝縮された手の平を掲げる。
「吹っ飛べ! 爆発魔法!!」
ドゴオォォォン…!!
倉庫街の爆発音は、たまたま近くに来ていたアンリとエリィにも聞こえていた。
「…いましたわね、ソーマ様」
エリィがあきれたようにつぶやく。
「ああぁぁぁ…遅かった…」
アンリは思わず頭を抱えた。
「うむ、こんなもんだな」
一人残らず倒れてピクピクと痙攣している男たちを見て、ソーマは満足そうにつぶやく。
一緒に周囲の倉庫がいくつか吹き飛んだが、まぁ些細なことだろう。
「ん? 何だあれ?」
先ほどボスらしき男の隣にあった、厳重に封がされていた樽が割れ、中に入っていたドロリとした青い液体が流れ出していた。
流れ出た粘液は、意思を持っているかのようにウネウネと盛り上がる。
「こいつは…RPGの定番モンスター、スライムか?」
そのまま見守っているソーマの前で、スライムは10歳くらいの少女の姿をとった。
「…ここは?」
スライムが擬態した青い髪の少女は辺りをキョロキョロと見回す。
「うむ、ここは…オレが聞きたい所だな。まぁそれは良い。オレの名はソーマ。お前は何者だ?」
「ボクはミミ。…それだけしかわかんない」
「名前しか覚えてない? 記憶喪失なのか?」
ソーマとミミがやり取りしている所に、アンリたちがやってくる。
「ソーマ!」
「おお、アンリか」
「これは一体…?」
駆け寄ってきたアンリが辺りを見渡す。
「ああ、たった今、犯罪組織を壊滅させたところだ」
「…倉庫街を壊滅させたようにしか見えないんですが?」
ソーマの言葉にあきれるアンリ。
そうこうしている間にも、ガヤガヤと辺りに野次馬が集まってくる。
「とりあえずこの場を離れましょうか。騒ぎになる前に…」
「おい! これはお前たちの仕業か!」
アンリの言葉を待たず、野次馬をかき分けて数人の衛兵がやって来た。
「その通り! オレが凶悪な犯罪組織を壊滅させたのだ。感謝してくれてもいいぞ」
自慢げに胸を張るソーマと、その隣で天を仰ぐアンリ。
「なるほど、この惨状はお前の仕業なんだな。とりあえず詰め所で話を聞こうか」
ソーマたちに武器を向ける衛兵たち。
「ほう…お前らもオレにやられたいらしいな」
「絶っっっ対にやめてください!!」
ソーマがかざそうとした手を抑えながら、アンリは叫んだ。
身分を明かし、謝り倒して、アンリたちはようやく解放された。
倉庫街の修理やら荷物の賠償やらは、全て国王に請求することで話がついた。『犯罪組織』の連中以外に人的被害が無かったのが救いだった。
(全部私に押し付けて…陛下も少しは私の苦労を味わえばいいんだ…)
人気の無くなった倉庫街でやさぐれるアンリの隣で、エリィがソーマに問いかける。
「ところで、その女の子は誰ですの?」
そう言ってエリィはミミを指差す。
「ボクはミミ。スライムだよ」
ミミが自分の右手をドロリと溶かしてみせる。
「っ! 魔物…ですか?」
アンリが腰の剣に手をかける。
「待て待て、アンリ。魔物じゃない。ただの記憶喪失のスライムだ」
「スライムは魔物ですわよ。…しかも記憶喪失? スライムに記憶があるんですの?」
「それは知らん。さっきの連中に捕まっていたらしいんだが…」
「どちらにしろ、人に危害を加える魔物を放っておくわけにはいきません」
スラリと抜いた剣をミミに向けるアンリ。その時。
グルルルウゥゥゥ…
盛大にミミの腹の虫が鳴った。
「ボク、おなかすいた…」
「腹をすかせた子供に剣を向けるなんて…ひどいヤツだな、アンリ」
「ホントに。騎士の風上にも置けませんわね」
ミミの言葉に、ソーマとエリィがアンリに目を向ける。
「……はぁ…」
毒気を抜かれたアンリは大きくため息をつくと、懐から干し肉を取り出してミミに差し出す。
「ありがとう! おねえちゃん!」
目をキラキラ輝かせてミミが干し肉を受け取る。
「腹をすかせた子供に食い物をやるなんて…良いヤツだな、アンリ」
「ホントに。騎士の鑑ですわね」
ミミの反応に、ソーマとエリィがアンリに再び目を向ける。
「……」
調子の良い2人にあきれるアンリ。
「ところで…確かにミミをここに放っておくわけにはいかんよなぁ、アンリ?」
「わたくしとしては、一緒に連れていくのが良いと思いますわ。ねぇ、アンリさん」
ソーマとエリィがアンリに三たび目を向ける。
「もうそれは良いです。…貴女、人を襲わないと約束できますか?」
「わかった、やくそくするよ。おねえちゃん、たべものくれたし」
「……わかりました。敵意は無さそうですし、ここで放っておくより連れて行く方がまだマシでしょう」
(…面倒なのが2人から3人に増えるだけです)
アンリは心の中でこっそり付け加えた。
アンリの受難は続く。




